浸水想定区域の公立学校7500校 浸水対策は15% 進まぬ対策

水害のリスクが高まる一方、学校の浸水対策は進んでいないとして、国の有識者会議は1000年に1度の最大規模の災害への備えだけでなく、比較的取り組みやすい規模の災害の対策を検討することが重要だとする中間報告をまとめました。

文部科学省の有識者会議は、浸水想定区域にある公立学校が7500校近くに上る一方で、施設内への浸水対策を講じているのは15%にとどまっていることが、去年初めて明らかになったことを受け、対策の推進に向けた中間報告を6月にまとめました。

この中では、ハザードマップの想定となる1000年に1度の最大規模の大雨のみに着目すると、技術的に対策が困難だったり、膨大な費用がかかったりして、対策が進まない要因になるとしたうえで、10年に1度といった頻度で起きる浸水の想定も活用し、比較的取り組みやすい対策を検討することが重要だとしています。

例としては、
▽10年に1度の大雨では、施設への浸水を防ぐため止水板を設置することや、▽100年に1度の大雨では、学校を早期に再開できるよう、受変電設備のかさ上げを行うことなどがあげられています。

一方、地域により実情は異なるとして、対策の検討にあたっては、教育委員会が国や自治体の河川管理担当などと連携して、浸水想定の深さや発生確率などの情報を整理することも盛り込まれています。

文部科学省は、浸水対策の費用を補助する国の制度の活用を促すとともに、今年度末をめどに、具体的な対策の手引きを盛り込んだ最終報告を取りまとめる方針です。

1000年に1度は難しくとも200年に1度の被害防ぐ

1000年に1度の最大規模の水害に備えた対策は難しくても、可能な対策から取り組んでいる自治体もあります。

東京 大田区の大森第四小学校は、3年前から去年にかけて行われた校舎の建て替えの際に、区の予算を1500万円近くかけて、高さ90センチほどの大型の止水板を3か所に設置しました。

1000年に1度の大雨で想定されている2メートル程度の浸水があれば防ぐことはできませんが、200年に1度の大雨までは、被害を防ぐ効果が期待できるということです。

それによって、給食室を浸水から守ることができれば、被災後も給食を早期に再開でき、家庭や児童への影響を最小限にできるとみています。

大田区では、小中学校全体のうち、7割以上にあたる65校が浸水想定区域内にあり、3年前の台風19号で、住宅への浸水被害が相次いだことを教訓に、避難所の役割も果たす小中学校の浸水対策を大きく見直しました。

現在は、発電機や紙おむつなどを備蓄する防災倉庫を校舎の2階に移設するなど、区をあげてできる対策から取り組んでいるということです。

大田区教育施設担当課の田中佑典課長は「対策をやればやるほど費用がかかるという現実的な問題もあるため、1000年に1度の大雨をハード対策ですべて防ぐのは難しいと思いますが、台風19号のような、大きな災害がいつきてもおかしくないので、危機感を持って、学校や地域にあった対策を考えていく必要がある」と話していました。

可能な範囲の対策で最小限の被害にとどめた学校も

可能な範囲でハード面の対策を講じた結果、被害を最小限にとどめた学校もあります。

佐賀県嬉野市の塩田中学校は、過去に50年に1度の豪雨で近くの川が氾濫し、学校が1メートル程度浸水する被害にあったことから、7年前の校舎の建て替えの際に、高床構造を取り入れました。

市が、国の交付金も使いながら、およそ2億8000万円の予算をかけて設置したもので、地面から1階の床までの高さは2.6メートルあり、その上に教室や職員室などが配置されています。

さらに、生徒たちが避難する時間を確保するために、校舎への浸水を遅らせようと、校庭や中庭の高さを周辺より低くして、貯水機能を持たせているということです。

こうした対策の結果、一日で440ミリ近くの雨が降った去年8月には、校舎の床下が70センチほど水につかったものの、教室などに被害はなく、夏休み明けには通常どおり学校を再開できたということです。

池田正昭校長は「去年の豪雨では床上をまぬがれたので、高床構造は大変機能しているし、ありがたく思っています。ある程度の豪雨には耐えられるのではないか」と話していました。

一方で、嬉野市によりますと、ほかにも浸水想定区域内に学校があるものの、高床の構造にするには多額の費用がかかるため、同様の対策をとるのは難しいということです。

市では、国の有識者会議の中間報告を踏まえ、必要な対策を検討したいとしています。

専門家「費用対効果の高い対策から取り組みを」

文部科学省の有識者会議の委員を務める、国立研究開発法人建築研究所の博士、木内望さんは「ハザードマップのもととなる1000年に1度の水害だけに着目して対策を行おうとすると、技術面や費用面の課題などから思考停止して、何も対策が打てなくなってしまう。まずは、現実的な100年や50年に1度の浸水に対して可能な対策を、現実的な予算の中で講じていくことが必要だ」と指摘しています。

そのうえで木内さんは「学校施設は、子どもたちの学びの場であると同時に、周辺住民の避難所としての役割も果たしている。まずは、費用対効果の高い対策から取り組むことで、校舎の被害を抑えたり、復旧を早めたりできるなど、大きな効果が期待できる」と話していました。