「こども家庭庁」って何?
子どもの権利は?財源は?

機能するのかこども家庭庁

子ども政策の司令塔となる、こども家庭庁が来年4月に設置されることが決まった。

日本を取り巻く子どもをめぐる状況は厳しい。
1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は去年1.30で、6年連続で前の年を下回っている。

少子化に歯止めがかからない中、こども家庭庁は、省庁の縦割りを排し、これまで組織の間でこぼれ落ちていた子どもに関する福祉行政を担うとしている。ただ、重要なのは、組織論にとどまらず、本当に子どものための政策を打ち出すことができるかどうかだ。

今回、文部科学省が所管する「幼」稚園と、厚生労働省が所管する「保」育所を一本化する「幼保一元化」が見送られ、「骨抜きだ」という声もある中、こども家庭庁は、実効的に機能するのか。専門家や関係者の意見から考える。
(今村亜由美、杉山加奈)

子どもを社会の真ん中に

こども家庭庁とはどんな組織なのか。

今回成立したこども家庭庁設置法や、去年12月に閣議決定された基本方針によれば、総理大臣直属の機関として内閣府の外局に設置され、子ども政策担当の内閣府特命担当大臣を置いて、各省庁などに子ども政策の改善を求めることができる「勧告権」を持たせるとしている。

そして担当大臣のもとには、こども家庭庁長官が置かれる。
担当大臣とこども家庭庁長官の関係は、ほかの府省の大臣と事務次官と同じだ。

そこに内閣府の子ども・子育て本部や、厚生労働省の子ども家庭局などが移管され、300人規模の職員が配属される。民間や地方自治体との人材交流も積極的に行うとしている。

庁内には有識者などをメンバーとする「こども家庭審議会」が設置され、子どもや子育てに関する重要事項や、子どもの権利や利益を擁護するための調査や審議が行われる予定だ。子どもの意見を政策に反映させるため、直接意見を聞き取ることも必要に応じて実施することになっている。

また、今回の法律には、5年をめどに組織や体制のあり方を検討し、必要に応じて見直す規定も盛り込まれている。そのときどきの時代の求めに応じて、臨機応変に組織を変えることができるようになっているのだ。

3つの部門とは

こども家庭庁の中は、「企画立案・総合調整部門」、「成育部門」、「支援部門」という3つの部門に分かれる。

3つの部門からなる組織の説明

企画立案・総合調整部門」は、全体をとりまとめる部門だ。
これまで各府省庁が別々に行ってきた子ども政策を一元的に集約し、子どもや若者から意見を聴くなどして、子ども政策に関連する大綱を作成するほか、デジタル庁などとも連携して、個々の子どもや家庭の状況や、支援の内容などの情報を集約するデータベースを整備する。

成育部門」は、子どもの安全・安心な成長のための政策立案を担う。
文部科学省と協議して、幼稚園や保育所、認定こども園の教育や保育の内容の基準を策定するほか、子どもの性被害を防ぐため、子どもと関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックする「日本版DBS」の導入を検討する。さらに、子どもが事故などで死亡した際に、その経緯を検証し、再発防止につなげる「CDR=チャイルド・デス・レビュー」の検討も進める。

支援部門」は、虐待やいじめ、ひとり親家庭など、困難を抱える子どもや家庭の支援にあたる。
重大ないじめがあった場合には、文部科学省に説明や資料の提出を求める勧告などを行うほか、「ヤングケアラー」の早期把握に努め、福祉や介護、医療などの関係者が連携して必要な支援を行う。障害児の支援や施設や里親のもとで育った若者などに対しての支援も担う。

基本方針
この3部門で、これまで内閣府、厚生労働省、文部科学省など、いくつもの組織の隙間にこぼれ落ちていた子どもに関する施策をあまねくカバーしようというのだ。

現場の受け止めは

こうしたこども家庭庁に対し、直接、子どもや子育て世帯と関わっている自治体からは、さまざまな声が聞かれる。

子育て支援が評価されている松戸市のポスター
千葉県松戸市には子ども部という部署がある。

松戸市では、ことし4月時点で、3歳未満の子どもの42%が保育所に入所する一方、残りの家庭では主に母親が子育てをしていて、孤立化が進んでいるという。

このため、市が市内28か所の子育て支援施設をつくって、身近な相談や、育児の悩みを聞いたり、同世代の子どもが利用できたりするような場所を用意して利用を促している。
例年、年間のべ20万人あまりの訪問者があり、相談件数もおよそ7000件にのぼっている。

松戸市こども部伊原部長
千葉県松戸市子ども部・伊原浩樹部長
育児の仕方が全く分からないとか、病気のときにどう対応していいかわからないとか基本的なことでも、1人で悩みを抱えてしまうお母様が多いと聞いている

松戸市ではさらに、重症心身障害児が通っている児童発達支援事業所が、通常の保育所の開設時間と比べて短く、保護者が仕事をやめなければならない状況があったことから、児童発達支援事業所でも預ける時間を延長できるよう、ことしから市が独自に施設に助成を行い、保育所と同じように利用できる体制を敷いた。

市ではさらなる支援をこども家庭庁に期待している。

松戸市・伊原部長
障害児の担当がこども家庭庁にきたのは非常にいいことだと思っています。保育所がだいたい午前7時から午後7時まで開いている一方、児童発達支援事業所は午前10時から午後4時と短いので、保育所と同じぐらいの水準にしてもらうことも含め、こども家庭庁に政策が一元化されたことによって、さまざまなアンバランスを是正してもらえるといいなと思っています

お金と人が足りない

一方、兵庫県明石市では、18歳までの医療費や、2人目以降の保育料のほか、0歳児のおむつ代、中学校の給食費、それに小学生以下の子どものプールの利用料などを無料にしている。

また、市が養育費を立て替えるなど、幅広い分野で子ども施策に力を入れていて、こうした施策もあって、明石市には、子育て世帯の転入が相次ぎ、人口の増加が続いている。

泉房穂市長は、こども家庭庁には十分な予算や人材をつけるべきだと指摘する。

兵庫県明石市泉市長

明石市・泉市長
もったいないですね。やっと子どもにみんなの目が向き出したとは思いますが、お金と人が全然足りない。組織を作ったからといって大きく変わるわけではないので、次年度の予算倍増とか、子どもに寄り添う人材の育成などを並行してこれからも議論していくことが必要だと思います

子ども政策に関する予算をめぐっては、岸田総理大臣は「将来的に倍増を目指したい」として、来年の骨太の方針で、予算倍増への道筋を明確に示すとしているが、現状では、何をベースにいつまでに倍増させるかは明らかになっていない。
国が子育てにどれだけ支出したかを示す「家族関係社会支出」の2017年度の対GDP比は、日本は1.56%で、スウェーデンが3.40%、イギリスは3.24%など、3%前後の諸外国と比べて低い値となっている。

明石市・泉市長
基本的に子どもを育てるのにお金がかからない社会にすれば、多くの人は子どもを産み育てたいと思います。子どもを欲しいという人生を社会のせいで諦めるのはもったいない。『諦めさせる』政治から、『大丈夫』という政治に変えたらいいと思います

幼保一元化は見送り

一方、課題の1つが、今回の法案審議でも焦点になった「幼保一元化」だ。
未就学児童が通う施設は、幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省、認定こども園は内閣府がそれぞれ所管している。

未就学児童が通う3つの施設
幼稚園と保育所の歴史は明治時代にさかのぼり、この当時から一元化の議論が行われていたという文献もある。幼稚園が未就学児の教育を目的に誕生したのに対し、母親が働いている家庭が、乳幼児を預ける場として「託児所」ができ、戦後、託児所から名称が変更されたのが保育所だという。

幼稚園と保育所が急速に普及した1960年代からは、二元行政の問題点が繰り返し指摘されてきた。

今回は、こども家庭庁が、幅広い子ども政策を担うことから、「幼保一元化」の議論だけに時間を割けなかったことに加えて、幼稚園や保育所を所管する文部科学省と厚生労働省の利害調整などに時間がかかることが予想されたこともあり、まずは「こども家庭庁」を早く設置することを優先させようと見送られた。

こども家庭庁では幼稚園、保育所、それに認定こども園での教育・保育内容の基準の整合性を制度的に担保し、いずれの施設でも共通の教育・保育を受けることを可能にするとしている。

内閣府の担当者は「無理やり『幼保一元化』を実現しようとして、こども家庭庁の議論そのものをなくすより、今できることをやる方がいいと判断した」と説明する。

幼保一元化は求めない

この「幼保一元化」に対しても、反応はさまざまだ。

松戸市の小規模駅近施設

松戸市では、独自の対策として、駅の近くなど利便性の高い場所に小規模保育施設を作って0歳から2歳の子どもを預かり、3歳から5歳の子どもについては、幼稚園の開園時間を保育所並みに拡大するための補助を行って、共働きの家庭でも、幼稚園で教育を受けることができるようにしている。

一方、保育所では保育士に月額4万5000円から7万8000円の独自の手当を支給して保育士不足の解消や質の高い保育の提供に努めている。

松戸市・伊原部長
さまざまなルールが全く違ったり、省庁の壁によってできないことがあったりするので、こども家庭庁が司令塔になって改善してもらうことを非常に期待しています。ただ、松戸では、もともと建学の精神を大事にしている幼稚園が多いので、そこを無理やり、保育とくっつけるのはちょっと無理があるのかなと現場で思っています。幼稚園の運営も補助しながら、保育所との共存を図っているので、幼保の一元化は求めていません

「ばらばらなのが異常です」

一方、明石市の泉市長は「幼保一元化」を実現すべきという立場だ。

明石市・泉市長
ばらばらなのが異常ですよ。地方自治体が例えば新しいこども園を作ろうと思っても、所管する内閣府が『お金がないからだめだ』となった場合でも、文部科学省ではお金が余っていたりする。本当に縦割り行政の弊害で迷惑しています。既得権益のために縦割り行政が残る時代は終わったと思うので、関係省庁が一緒にしっかり子どものために力を合わせて欲しいと切に願います

子どもの権利を守るために

さまざまな意見があるなか、海外の子ども政策に詳しい日本総研上席研究員の池本美香さんは、5年ごとの見直し既定をうまく活用すべきだと指摘する。


日本総研・池本美香上席主任研究員
子どもの立場に立ったらどうなのかということを考えた場合に、そもそも同じような施設を複数の省庁で所管して、複数の法律を作るのは、その行政事務にかかるコストが、将来、子どもたちの負担になることになるので、それを考えたら、二元体制を改めて、1つの省庁に一元化すべき。この議論は、今回の法律に入っている5年をめどに組織や体制のあり方を必要に応じて見直す規定を生かし、改めて議論してほしい

さらに池本さんは、今後の見直しの際に、子どもの権利が守られているかを行政から独立した立場で監視し、調査や勧告する権限を持つ「子どもコミッショナー」についても検討すべきだと訴える。

今回、こども家庭庁の設置にあわせて、子どもの立場に立って政策提言などを行う『子どもコミッショナー』が設置されることは見送られたので、どこまでこども家庭庁が子どもの視点や子育て当事者の視点に立った政策実現ができるのか、若干心配している。これで終わりではなく、『幼保一元化』の実現も含め、積み残したやるべきことを1つ1つスピードアップして解決していってほしい

リーダーシップを発揮できるか

子ども政策をめぐっては、安定財源の確保に向けた議論が、参議院選挙後にもまた本格的に始まる見込みだ。

また、子どもの視点の政策とあわせて、子どもを育てる親の働き方の選択肢を増やすなど、子育てと仕事の両立をどう支援していくかという論点も忘れてはならない。

地方自治体や地域社会とともに、こども家庭庁がリーダーシップを発揮して子どもや子育てをする親のための政策を前に進めることができるかどうか。問われるのはこれからだ。

政治部記者
今村 亜由美
2009年入局。名古屋局と大阪局ではスポーツ担当として野球やフィギュアスケートを取材。2021年から政治部・官邸クラブで野田少子化担当大臣などを担当。
千葉局東葛支局記者
杉山 加奈
2018年入局。 警察・司法担当を経て、千葉県北西部の行政を担当。子育て世代の女性の起業や移住政策などを取材。