「ぼくが町を動かす!」
少年、町長になる

去年の衆院選などで投票率が全国トップだった山形県。
その背景の1つが、若者の投票率の高さだ。
政治や選挙にどうやって関心を持ってもらうのか?

山形県遊佐町のある取り組みが注目を集めている。
その名も「少年議会」。
町の中高生が、「少年町長」と「少年議員」に立候補。
自ら考えた政策をアピールして、投票で選ばれる。
中高生が主役となって選挙を行うという、全国でも珍しい独自の取り組みを追った。
(和田杏菜)

を動かす「少年議会」

人口およそ1万3000人の山形県遊佐町。日本海に面し、鳥海山が一望できる自然豊かな町だ。


この町で2003年から行われているのが「少年議会」。町の中高生が投票で「少年町長」と「少年議員」を選出する。少年町長と少年議員の任期はことしいっぱいまで。町の予算45万円をもとに、政策を立案し、実現させる取り組みだ。選挙を体験し、行政や議会の仕組みを学ぶことができ、今年度で20回目となる。

どうやって選挙をするの?

選挙戦は本格的だ。まず、投票前には「選挙公報」が発行される。
立候補者の顔写真と立候補した理由・当選後に実現させたい政策などが記されている。


今年度は18年ぶりに町長と議員の「ダブル選挙」となった。町長選挙には2人が立候補。定員10の議員選挙には、16人が立候補した。

どうやって投票するの?

有権者は、遊佐町在住もしくは町内の学校に通う中高生およそ600人。
投票で使われるのは、本物の「投票箱」だ。


「本物の投票箱を使うことで選挙を身近に感じることができます。大人になっても選挙に行きたいと思います」(投票した中学生)

「この取り組みの認知度も上がり、立候補する人数も増えています。実際に投票を行った生徒たちは少年議会を通じて選挙が身近なものになっていると思います」(遊佐町教育委員会 担当者)

少年町長安藤候補 “若者目線の「特産品」を”

今年度の少年町長選挙には、実績のある2人が立候補した。

遊佐高校3年の安藤希祥さん。去年とおととし、少年副町長を務めた。
安藤さんは、名古屋市の出身。都道府県の枠を越えて日本各地の魅力ある高校を選んで進学する「地域みらい留学」という制度を使い、おととし、遊佐町に引っ越してきた。現在は寮で生活している。他県から来て感じた遊佐町のよさを多くの人に知ってほしいと思い、今年度も立候補した。


「他県から引っ越してきて、遊佐町はすごく自然豊かで過ごしやすい町だと思いました。この町をもっと盛り上げたい、いろいろな人に知って欲しいと思った時に『少年議会』の制度がありました。1年目は『遊佐町を知りたい』という理由でしたが、2年、3年と過ごす中で『遊佐町のおもしろさを自分だけでとどめていたらもったいない』と思って、3年間、高校生活をやりきろうという思いで今年度も立候補しました」

安藤さんが目指すのは遊佐町の「特産品づくり」。注目したのは、町で盛んに生産されている「パプリカ」。安藤さんはこのパプリカを活かした新たな特産品の開発に取り組みたいと話す。
「遊佐町はお米とパプリカがすごく有名で、おいしいのですが、それらは『名産品』であって、『特産品』は少ないんです。でもその特産品があるかどうかで、遊佐町の知名度などは変わってくると思うので、私たち高校生の目線から、いいと思う特産品をつくっていきたいと思っています」

また、安藤さんは各集落に設置されている公民館がほとんど使われていないように感じて、この場所を中高生の学習スペースとして活用したいと考えている。
「中高生の地域における居場所をつくって、他の世代との関わりをつくっていける場所にしたいと考えています。中高生がわざわざ家から離れて図書館や学校で勉強しなくても、家の近くで勉強することができて、なおかつ地域の人と関わる機会ができたらおもしろいと思います」

少年町長佐藤候補 “「遊佐町の今」伝えたい”

もう一人、少年町長に立候補した羽黒高校3年の佐藤塁さん。佐藤さんは遊佐町出身。中学1年生から5年間「少年議会」に参加し、今年度で6年目になる。去年は町長を務めるなど、長く少年議会に関わってきた。高校生活最後の年にかける思いは熱い。


「活動を通して遊佐町のよさを知って、より自分の町が好きになって、自分が遊佐町のために何ができるだろうと考えるようになり、6年間立候補してきました。私たちが町の政治を行っていく大人たちと知り合い、これから遊佐町がどのようになっていくのか、ふつうの高校生活をしている中では聞けない意見も聞くことができました」

遊佐町ではいま、洋上風力発電の設置について議論が行われている。佐藤さんは、こうした遊佐町の最新のニュースを中高生に伝える場をつくりたいと話す。
「遊佐町がこれからどうなっていくのか、遊佐町にいま何が起きているのか、いまの遊佐町の現状を知らない中高生も多いように感じています。未来を担う若者たちに知ってもらえるような勉強会のようなものを政策として実行していきたいと思っています」

また、スマートフォンを使うことが苦手な高齢者に、中高生たちが使い方を教える教室を開きたいとも考えている。

「例えば車を使えない高齢者もいますが、スマートフォンでオンラインショッピングができるようになれば、暮らしがよくなると思っています。ことしが最後で来年以降は少年議会に関われなくなってしまうので、何かを残せたらと思っています」

迎えた開票日 結果は…?

そして、6月19日の開票日。
町の生涯学習センターで開票作業が行われた。
午後2時、選挙長の合図で一斉に開票が始まる。


安藤さんと佐藤さんはそれぞれ緊張したおももちで開票作業を見守っていた。

開始からおよそ30分。
町長選挙の開票が終了。
当選したのは佐藤塁さんだった。

安藤さんもその後、佐藤さんの選任で「副町長」に選ばれた。佐藤さんが「町長」、安藤さんが「副町長」に就任することになり、去年に続いて同じ顔ぶれとなった。

「特に落ちてしまって悲しいなっていうよりかは、ここから少年議会が始まっていく、わくわくという気持ちが大きいです。よい物をつくるためには、自分やみんなが楽しいと思えるものでないとできないので、積極的に見つけていきたいなって思っています」(安藤少年副町長)

「一緒に少年町長選挙を戦った仲間でこれまでもリーダーシップも発揮してくれたので選任しました。今年度は過去最大の18人が少年町長と少年議員に立候補し、新人もたくさんいます。新しい人たちのサポートもしながら、来期の人たちがスムーズに活動できるよう活動をしていきたいです」(佐藤少年町長)

若い世代からリアルな選挙を経験する

遊佐町では「少年議会」のほかにも、家族連れでの投票を促すために、投票所にくじ引きを設置したり、高校生がボランティアとして、投票所の手伝いをしたりして、投票率アップに向けた取り組みを行っている。遊佐町教育委員会は、若い世代からリアルな選挙を経験することで政治に関心を持つようになり、投票率アップの一因を担うと推察する。

「少年議会の取り組みは、少なからず投票率には関わってきているのではないかと思います。また、家庭の理解が高まってきているということも一因だと思います。参議院選挙でも、少年議員が投票の呼びかけなど啓発を実施する予定です。生徒たちがみずから考えて行動することで、1年を通して生徒たちの成長がじかに見られる、そして見守っていけることがとてもうれしく思っています」(遊佐町教育委員会 教育課 菅原三恵子課長)

町長選挙に立候補した2人はまもなく18歳。「少年議会」の活動は、選挙や政治に関心を持つきっかけになったと話している。

「はじめは選挙に無関心だったんですが、少年議会があって何かしら変わったものはあります。若者が選挙に行かないことが問題になっていると思うんですが、私のまわりで18歳になって選挙権を得る人たちはいますけど『選挙に行きたくない』とか『面倒くさい』とか言っている人は聞いたことがないような気がします。そこに、もしかすると少年議会が関係しているのかもしれません」(安藤少年副町長)

「少年議会に入る前は選挙に全然関心がなかったんですけれども、少年議会に入って、議員1人の意見でも、遊佐町をいろいろ変えることができたため、やっぱり選挙は絶対に必要だといまは思っています。選挙は堅苦しいイメージがありますが、18歳になる前に少年議会で経験しておくことで、少しハードルも下がると思います」(佐藤少年町長)

6月28日には今年度の少年議会・第1回目が行われる。中高生の目線でどのような議論が交わされ、どのような政策を実現していくのか、政治参加を後押しする遊佐町の取り組みに今後も注目していきたい。

山形局記者
和田 杏菜
2016年入局。甲府局を経て山形局へ。去年11月からは酒田支局で酒田市や周辺地域の話題を取材。遊佐町から見る鳥海山の迫力に感動。