子宮頸がんワクチン
中止世代にも無料接種

来年4月から接種の積極的な呼びかけが再開される子宮頸がんワクチンについて、厚生労働省は呼びかけを中止していた8年余りの間に定期接種の対象年齢を過ぎた女性すべてを無料接種の対象とすることを決めました。

子宮頸がんワクチンは、小学6年生から高校1年生の女性を対象に2013年4月に定期接種に追加されましたが体の痛みなどを訴える人が相次ぎ厚生労働省は2か月後に積極的な接種の呼びかけを中止しました。

厚生労働省は国内や海外で有効性や安全性のデータが報告されているなどとして、来年4月から呼びかけを再開する方針で、23日、専門家で作る分科会で呼びかけを中止していた間に定期接種の対象年齢を過ぎた女性への対応について議論しました。

この中で厚生労働省は呼びかけが中止されていた間に対象年齢を迎えていた1997年度から2005年度にかけて生まれた女性すべてを無料接種の対象とする方針を示しました。

今年度中に16歳から24歳になる人たちで接種を受けられる期間は来年度からの3年間としていて、いずれも分科会で了承されました。

厚生労働省は自治体に対し、対象者には個別に予診票とパンフレットを送って周知するよう求めることにしています。

専門家「国はネガティブな情報も伝えて」

リスクコミュニケーションが専門で、慶応大学の吉川肇子教授は「国が呼びかけを再開するにあたって、『安心です』『接種してください』とだけ説明すると、当事者としては、接種後に何らかの症状が出たらどうなるのかと戸惑ってしまう。接種との因果関係はわからないものの、接種後に症状が出て困っている人たちをどう支えるのかについても同時に示すことが重要だ」と話しています。

さらに吉川教授は「国はワクチンに関するポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も十分に伝えて、当事者に考える機会を与えることが大事だ」と指摘しました。

空白期間に260万人が機会を逃したか

8年前の2013年に国が子宮頸がんワクチンの積極的な接種の呼びかけを中止して以降、ワクチンの接種率は急激に下がり、大阪大学の研究グループは無料で接種できる年代を過ぎた2000年度から2004年度までに生まれた現在16歳から21歳までの女性のうち、およそ260万人が無料接種の機会を逃したと分析しています。

またこの世代の女性のおよそ7割がワクチンを接種していたら、子宮頸がんになる人をどれだけ減らせたか試算したところ、ワクチンで子宮頸がんの発症を60%防ぐとした場合、将来子宮頸がんになる人を2万2000人減らすことができ、5500人が子宮頸がんで亡くなるのを避けられたとしています。

無料接種 求めてきた団体「無料でできるようになってよかった」

接種の積極的な呼びかけが中止されていた8年間に無料で接種できる機会を逃した世代にあたる大学生たちの中には改めて無料で接種できるよう活動してきた人もいて、医師らとともに「HPVワクチンforMe」という団体を作り、ことし3月、およそ3万人分の署名を厚生労働大臣に提出しました。

署名を提出したうちの1人で、23歳のまなさんは「機会を奪われた人に接種チャンスをくださいと訴えてきたので、その目的が達成できてうれしいです。自分たちで声をあげて社会を動かす力になることができてよかったです」と話していました。
まなさん自身はワクチン接種の積極的呼びかけが中止される前に子宮頸がんワクチンを打ちましたが、2歳年下の妹は接種後に体調不良になったとする報道が相次いだことから接種を控えたということです。

子宮頸がんワクチンはこれまでも定期接種の対象年齢をすぎても自費でワクチンを接種することはできましたが、数万円かかるため、金銭的な負担から接種できない人がいるとみられています。

まなさんは「自分の周囲にはワクチンを打ちたいと思っている人もいるが、自費でとなるとかなり金額が高い。自分で打ちたいと思っても打てないという若い人がたくさんいると思うので無料で接種できるようになるのはよかったです。子宮頸がんを引き起こすウイルス、HPVは男性が発症する病気にも関わっているし、女性に感染させることを防ぐ効果もあるので、性別に関係なくワクチンの接種を希望する人たちが接種できる環境を作ってほしいです」と話していました。

症状が出たら小児科医でフォローを

子宮頸がんワクチンの接種希望者が増えることを想定して、富山県では接種後に不安な症状が出た場合に地域の医療機関が連携して対応する体制を整備しています。

富山県では4年前から子宮頸がんに詳しい産婦人科医とワクチン接種を担当するかかりつけの小児科医が、定期的に情報を共有する場を持つとともに地域の基幹病院とも連携して対応を進めてきました。

接種にあたって小児科では独自に作成したリーフレットを使って、ワクチンの効果と接種後に起こる可能性がある症状を丁寧に説明します。そのうえで接種への不安を取り除くために、注射が苦手な場合は横になって接種するほか、接種する時やその後の声がけに気を配っているということです。
富山県医師会の副会長で小児科医の村上美也子医師のもとには、この日も接種を希望する女の子が次々と訪れ、村上医師は接種後の体調を確認したり「不安があったら、ささいなことでも相談するように」と声をかけたりしていました。

今後、積極的な勧奨の再開や対象年齢を過ぎた人も無料で接種を受けられるようになることで希望者が増えることを想定し、接種後に不安な症状が出た場合はかかりつけの小児科で受け止めたうえで必要に応じて高次の医療機関につなぐことにしています。

この日、1回目のワクチンを接種した中学3年生の女の子の母親は「報道で接種後の症状を訴える人を見て不安感があった一方で、がんにかかることを防ぎたいという思いもあり、接種させるかずっと迷っていました。何かあっても信頼できる医師が対応してくれると聞き、接種を決めました」と話していました。
富山県医師会の村上副会長は「小児科医は思春期の子どもたちの多様な症状を診察する経験にたけているので、まずは小さい時から子どものことを診てきたかかりつけの小児科で丁寧なフォローをすることが大切だ。この8年間、接種する人が少なく不安な症状を示す人もほぼいなかったため、高次の医療機関との連携体制を改めて確認しておきたい」と話していました。

接種後の症状に対する体制強化進める

子宮頸がんワクチンの接種の積極的な呼びかけを来年4月から再開することが決まり、呼びかけを中止していた期間に定期接種の対象年齢を過ぎた女性たちも改めて無料で接種できるようになり、接種する人が増えることが見込まれます。

これを受け、ワクチンを接種したあとでまれに報告される身体症状が出た人たちに対する診療体制を強化する動きも出ています。

子宮頸がんワクチンを接種したあとに体の痛みや力が入らないなど、さまざまな症状が出た場合に適切な診療を受けられるようにしようと、国は「協力医療機関」を指定し、すべての都道府県で対応できる体制を作っています。

しかし接種の積極的な呼びかけが中止されて以降、接種を受ける人が急激に減り、協力医療機関でも接種後に症状が出た患者の診療を行った経験がない医師もいることが課題になっているため、10日には協力医療機関の医師や専門家らが診療体制の強化策について話し合うオンラインの会議が行われました。

会議では▼接種の呼びかけが再開される来年4月までに診療のノウハウを共有する実践的な研修を実施することや▼接種後に症状が出た患者の診療のマニュアルを刷新することが必要だとして、具体的な協議を進めていくことになりました。

また接種すること自体に伴う不安やストレスによって出るさまざまな症状について、WHO=世界保健機関も「予防接種ストレス関連反応」として注意を促していることもあり、会議では子宮頸がんワクチンについて接種する本人が理解して納得したうえで打つことが重要で、そうした運用が医療現場で求められるといった意見も出されました。

協力医療機関の医師で、接種後に症状が出た患者の治療にあたってきた愛知医科大学の牛田享宏教授は「子宮頸がんワクチンの接種が始まった当初は、接種後に症状が出た患者さんに対して、医師が自分の専門ではないとしてほかの医師を紹介するといったことが繰り返され、患者さんがますます不安になる状況もみられた。そうした事態を繰り返さないために診療のノウハウを共有するためのマニュアル作りや研修を早急に実施していくことが最も重要だ」と話していました。