の根から“もふもふ”まで

その日、集まったのは「もふもふ党員」に、政治家を厳しく鍛える女子大生。
そして360度聴衆に囲まれたステージには、党代表が――

立憲民主党が今月16日に開いた「フェス」という名の異色の党大会だ。
狙いは何か。そして野党第一党が目指す党のかたちを探った。
(佐久間慶介、奥住憲史)

360度ステージ

3メートル四方の四角いステージに立つのは、立憲民主党の代表、枝野幸男。

360度、周りをぐるりと囲むように座った支持者に向けて政策を訴えている。

今月、東京・新宿で開かれた、立憲民主党の党大会の一幕だ。アメリカの大統領選挙を念頭に置いた演出なのだという。

「消費税はどうするのか?」(支持者)
「私が総理大臣になったら任期中は消費税は上げない。増税の議論もしない」(枝野)

「国民民主党と合流協議をしたが、今後の原子力政策は?」(支持者)
「党の理念や政策を変えるつもりはない」(枝野)

枝野はおよそ1時間、ステージの上を歩き回り、支持者からの質問に答えた。

党と市民が作る20のブース

一風変わった党大会には狙いがある。

党が綱領に掲げる「草の根からの民主主義」や「ボトムアップの政治」を実現するための一環だという。政治家が一方的に訴えるのではなく、市民とともに、政治を前に進めようというのだ。

今回は党と市民団体が、20のブースを設けた。

性の多様性を認め合う社会を目指す団体や、原発ゼロに向けた取り組みを進める団体など党の政策の方向性と軌を一にしたブースが目立つ。

「当事者」として訴える

不妊治療の当事者で作る会が設けたブースを取材してみた。

去年11月に発足した会で、メンバーは9人。不妊治療の保険適用に向けた署名活動などを行っている女性たちだ。(写真はいずれもメンバーではなく、トークイベントに参加した議員たちです)

驚いたことに、ふだん、立憲民主党を特別に支持しているわけではないのだという。活動の中で知り合った立憲民主党の地方議員の紹介でブースの出展に至ったのだそうだ。

ブースではトークイベントが開かれ、枝野も参加していた。双子の中学生の父でもある枝野。妻とともに、4年間、不妊治療に取り組んで子どもを授かった。

みずからの体験をふまえ、こう力を込めた。

「不妊治療は『特別なこと』というイメージがまだあるが、希望する人が離職をせざるを得ない状況は時代遅れだ。不妊治療のための休暇が当たり前にできる仕組みを作る」

若者が政治家の「先生に」

若者の元気な声にいざなわれ、次のブースに足を運んだ。

ここでは、大学生が「先生」となり、党所属の国会議員や地方議員に授業を行っていた。

先生役を務めたひとり、大学1年生の藤村玲美さん(19)。彼女もまた、立憲民主党の支持者ではないという。

以前、党のイベントに参加した縁で、今回、先生役として招かれた。藤村さんは、生徒役の議員から質問を受け、歯切れのよいことばで答えていった。

「先生は、日本の将来は明るいと思いますか?」

「明るいかと聞かれれば、圧倒的に暗いです。少子高齢化が進み、増え続ける社会保障費が財政を圧迫するばかり。政治家は高齢者への予算を、もっと若者に振り分けられないのでしょうか」

30人ほどの「生徒」たちはタジタジに。

続いての質問は、苦手意識を持つ議員も多い情報発信について。

「ツイッターをもっと使ってほしいですけど、使い方がヘタですね。あれでは見る気がしない。自民党の河野太郎さんのほうがよっぽどうまい。あまり堅苦しくしないほうがいいですよ」

さらに、駅前などでの街頭演説について聞かれると…

「自分の名前ばかり言っている人が多いですけど、もっと中身の話をしてほしいですね。あえて自分からは名乗らず、聞かれたら答えるくらいにしたほうがいいんじゃないですか」

議員にとって耳に痛い話も含め、日頃考えていることを正直に語った藤村さん。「先生」の大役を終えたあと、感想を聞いた。

「学校では政治の話をしないことが中立だと思われているけど、それでは若者の政治への関心は下がるばかりです。自分のような若者が声をあげる機会を得られてよかった。若い人がまた政治に関心を持つきっかけになればうれしい」

もふもふ党

さらに取材を続けると、異様な雰囲気を醸し出しているブースを見つけた。
その名も「立憲もふもふ党」、通称「もふ」。

立憲民主党の非公式のファンクラブのようなものだという。ブースには、枝野の写真パネルが、壁一面に貼られていた。

講演で熱弁を振るう様子から、店でラーメンを食べている一コマまでさまざまだ。

メンバーの1人で、西日本在住だというアカウント名・茸子さんに話を聞いた。

茸子さんによると、メンバーは、およそ50人。3年前の立憲民主党の結党のころに、ツイッター上で自然発生的に結成されたという。

「『政治を楽しもう』という考えで、枝野さんを中心に、立憲民主党の政治家を応援している非公式の集団です。枝野さんなどの写真を撮るのが好きな人もいれば、発言内容をまとめて本にする人もいるし、活動はいろいろです」

枝野の写真を撮るのが好きだという茸子さん。地方などで枝野が講演する際は、1時間ほど前から場所取りをするのだという。そして最前列で一眼レフカメラを構え、枝野の表情を切り取っていく。

「枝野さんの考え方にもちろん賛同しているのですが、何より、顔、おなか、全部かわいいですよね。『もふもふ党』の名前も、かわいい猫や犬の毛がふわふわしていて『もふ』っていう感じがするところに由来しているんです」

撮影した写真は、メンバーで共有し、感想を伝え合う。
ただ、これだけではない。
枝野の地方出張の際には、無報酬で“党の公式カメラマン”を依頼されることもあり、枝野事務所が政治活動用のポスターに活用したものもあるのだという。

政治の世界では、いわゆる“追っかけ”の人たちのエネルギーを、党が活用するケースは異例だ。市民が密接な関わりを目指す、立憲民主党“らしさ”を垣間見た。

枝野の語る「あるべき姿」

党大会の終盤、枝野が演壇に立ち、スピーチに臨んだ。

この中で枝野は、「支え合う安心」「豊かさの分かち合い」「責任ある充実した政府」という3つのキーワードを用いて、みずからが目指す国家像を示した。
そして安倍総理大臣の政治姿勢を、「国民の声を聞かない」と厳しく批判した。

「国会から逃げ回り、保身のために公文書を破棄し、子どもでもうそだと分かることを平気で言って、尻拭いを官僚に押しつけている。『権力を持っているのだから言うことを聞け』というトップダウンの政治で、都合の悪いことにはふたをする」

その上で、政治のあり方を本質的に変えたいと訴えた。

「あるべき政治家像は、国民ひとりひとりとつながっている存在だ。意見は千差万別で、すべてに応えることはできないが、常に国民生活の現場に目を向ける謙虚で誠実な姿勢を持つことが大切だと確信している」

そして、最後をこう結んだ。
「すべての取り組みを政権交代の準備へとつなげ、必ずや政権を担うという決意を誓う。ぜひ、私と一緒に未来に向けて一歩を踏み出そう。あなたが動けば政治は変わる。私には、あなたの力が必要だ」

立憲民主党の行く道は

枝野らしいスピーチだった。
“私たちに支援を”ではなく“私たちとともに進もう”という主張に力点を置き、ともに政権を奪取したいと強調した。

そして党大会のあとの記者会見では、こう述べた。

「ブームを起こそうとは思っていない。安定的に熱がじわじわ高まる中で、政権を獲っていく。風任せの選挙で政権を獲るつもりはない」

一時的な“風”では、仮に政権を獲ったとしても長続きはしない。
さまざまな立場や環境の人たちと広くつながることで、党への支持を拡大する。
これが、枝野の目指す党のかたちだ。

一方で、政権を奪取するための具体的な方策は、示されなかった。
巨大与党に対じするため、去年、国民民主党などに呼びかけた合流は実現しておらず、協議再開の見通しも立っていないのが実情だ。

立憲民主党の支持率は、かつて10%以上あった時期もあるが、最近は6%程度。一方で、自民党の支持率は30%台後半で安定している。党内からは、こうした状況に危機感も強まっている。

野党第一党を率いる枝野が、政権交代に向けた道筋をどう描くのか。
次の衆議院選挙に向けて、手腕が問われることになる。

政治部記者
佐久間 慶介
2012年入局。福島局から政治部。現在、立憲民主党の枝野代表の番記者。
政治部記者
奥住 憲史
2011年入局。金沢局初任。政治部では外務省担当などを経て、現在、立憲民主党の福山幹事長の番記者。