【解説・更新版】内閣改造と自民党役員人事 狙いは?焦点は?

岸田総理大臣は内閣改造と自民党の役員人事を9月13日に行う。その狙いは?そして焦点は何だったか? 政治部記者が解説する。【13日午前9時 更新】
(清水大志、矢島有紗、佐々木森里)

【Q】まず、改造の狙いは何か?

【A】局面の転換を図ろうという狙いがあると思う。
岸田内閣の支持率は、去年の冬に下落したあと5月のG7広島サミット前後に40%台まで回復していた。その後、マイナンバーカードの問題などを背景に再び下落し、8月の調査は33%と過去最低タイとなった。

一方で秋に召集される見通しの臨時国会では、そのマイナンバーカードの問題への対応などで、野党の追及が予想される。
また、物価高などに対応する経済対策、さらには、その裏付けとなる補正予算案などをめぐって議論が行われることも想定される。
このため、岸田総理としては、ここで人心を一新し、政権浮揚を図った上で、待ち構える重要課題に臨みたい考えだ。

【Q】岸田総理大臣は、内閣改造と自民党の役員人事について、どう発言してきたのか?

【A】G20サミットへの出席などのためインドを訪れていた岸田総理大臣は、10日、一連の日程を終えたあと現地で記者会見した。

10日に記者会見した岸田首相

「自民党の役員任期はおよそ1年と定められており、従来からこのタイミングで人事を行うことは想定していると言ってきた。11日朝の帰国後、関係の方々と調整を進め、早ければ13日に自民党の役員人事と閣僚人事を行うことを考えている」

岸田総理大臣はこう述べ、13日に内閣改造と自民党の党役員人事を行う意向を表明した。
そして人事の規模や人選などの具体的な内容については、次のように述べた。
「11日と12日に本格的に調整する。きょうの時点で答えることは差し控える」

一方、物価高などに対応する経済対策について「必要な予算にしっかり裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行することを大至急で行なわなければならない。新しい体制の発足直後から『スタートダッシュ』していくため陣頭指揮をとる決意だ」と述べた。

【Q】人事の焦点は何だったか?

【A】政権の骨格を維持するか、刷新するかがポイントの1つとなった。

そして自民党役員人事では、麻生副総裁と茂木幹事長を留任させることになった。

麻生氏と茂木氏

茂木幹事長はポスト岸田の1人として名前があがっていて、来年総裁選挙を控えていることから、今回の処遇が焦点となっていた。

「茂木さんが今、要職を外れれば、総裁選挙への動きが活発になる」(党内)

党内にはこのような指摘もあり、留任させることで茂木幹事長をけん制する狙いがあるといった見方も出ている。

また内閣の要の松野官房長官と萩生田政務調査会長の処遇も焦点の1つとなった。

松野氏

政権の骨格を担う2人は、いずれも党内最大派閥、安倍派の有力議員だ。
党内には「刷新イメージも重要だ」という声もあり、改造の規模とあわせて、岸田総理の判断が注目された。安倍派の動向は政権運営に大きな影響を与えるだけに、松野官房長官と萩生田政務調査会長を含む安倍派の幹部の処遇を慎重に検討してきたと思う。
そして、岸田総理は、松野官房長官を留任させることにした。松野氏を引き続き内閣の要である官房長官として起用することで、政権基盤を安定させる狙いがあるものとみられる。
また、萩生田氏についても、政務調査会長を留任させる。
自民党の役員人事では、麻生副総裁、茂木幹事長、萩生田政務調査会長、高木国会対策委員長を留任させて骨格を維持する形となった。

【Q】ほかにどういった注目ポイントがあるか?

【A】12日午後に入ってきた情報では、内閣改造で、岸田派の木原誠二 官房副長官を交代させることになった。

木原氏

木原氏は岸田派に所属し、岸田総理の側近議員の1人だ。おととしの岸田内閣の発足当初から官房副長官を務め、各府省庁や国会との調整役を担うなどしてきた。
一方で木原氏をめぐっては、妻が、元夫の死亡に関して警察から任意の事情聴取を受けていたほか、木原氏が捜査に圧力をかけた疑いがあるなどと一部週刊誌で報じられ、野党などから説明を求める声が出ていた。
政府・与党内にも今後の政権運営への影響を懸念する見方もあり、今回の人事で処遇が注目されていた。
後任の官房副長官には、同じ岸田派の村井英樹・衆議院議員を起用する。

一方、麻生派の鈴木財務大臣を留任させる。

鈴木氏

鈴木善幸・元総理大臣の長男で麻生副総裁の義理の弟だ。岸田総理としては、閣僚や党幹部の経験が豊富で、麻生氏にも近い鈴木氏を引き続き財務大臣として起用することで、政権基盤を安定させる狙いがあるものとみられる。

また、自民党の役員人事で、森山選挙対策委員長を総務会長に起用する。
森山氏は、農林水産大臣や党の国会対策委員長などを務めた経験があり、与野党に幅広い人脈があることで知られている。

いわゆる「10増10減」もあって次の衆議院選挙に向けて難航が予想された候補者調整を速やかに進めるなど岸田総理は森山選挙対策委員長の調整力を高く評価している。
また、岸田総理は、みずからが率いる派閥が党内第4派閥であることも踏まえ、これまで党内のパワーバランスに配慮しながら政権運営にあたってきた。政権と距離のある菅前総理大臣や二階元幹事長とも近い森山氏を引き続き要職で起用することで、政権基盤を安定させる狙いもうかがえる。

また、選挙対策委員長には小渕組織運動本部長を起用する

小渕氏は、小渕元総理の娘で知名度もある。内閣支持率は最新のNHKの世論調査で上がったものの低迷が続いていて、小渕氏の起用で刷新感を出したい狙いがあるとみられる。
ただ、小渕氏はかつて政治資金をめぐる問題で経済産業大臣を辞任していて、次のように話す議員もいる。

「国会で野党から追及されないよう閣僚でなく党役員にとどめたのではないか」(議員の一人)

このほか閣僚では、前回の総裁選挙で争った河野デジタル大臣と高市経済安全保障担当大臣を留任させる。また、西村経済産業大臣を留任させる。
公明党の要望を踏まえ、斉藤国土交通大臣も留任させることにしている。

【Q】女性閣僚が増えるか注目されてきたが起用は?

【A】注目されるのは、外務大臣に自民党岸田派の上川陽子・元法務大臣の起用を固めたことだ。

上川氏は、平成12年の衆議院選挙で初当選し、少子化担当大臣や党の女性活躍推進本部長などを歴任したほか、安倍政権や菅政権で法務大臣を務めた。この間、成人年齢を18歳に引き下げる民法改正に取り組んだほか、オウム真理教の元代表、麻原彰晃、本名・松本智津夫 元死刑囚ら13人に死刑の執行を命じた。

このほか女性では、復興大臣に無派閥の土屋品子氏。土屋氏は初めての入閣だ。こども政策担当大臣に谷垣グループの加藤鮎子氏。加藤氏は初めての入閣だ。地方創生担当大臣に参議院議員で二階派の自見英子氏。自見氏は初めての入閣だ。
女性の入閣は5人で、平成13年の第1次小泉内閣や、平成26年の第2次安倍改造内閣と並んで、これまでで最も多くなった。

また、総務大臣に自民党安倍派の鈴木淳司氏、鈴木氏は初めての入閣だ。法務大臣に二階派の小泉龍司氏。小泉氏は初めての入閣だ。文部科学大臣に岸田派の盛山正仁氏。盛山氏は初めての入閣だ。厚生労働大臣に参議院議員で麻生派の武見敬三氏。武見氏は初めての入閣だ。農林水産大臣に安倍派の宮下一郎氏。宮下氏は初めての入閣だ。環境大臣に麻生派の伊藤信太郎氏。伊藤氏は初めての入閣だ。防衛大臣に茂木派の木原稔氏。木原氏は初めての入閣だ。国家公安委員長に参議院議員で茂木派の松村祥史氏。松村氏は初めての入閣だ。経済再生担当大臣に茂木派の新藤義孝・元総務大臣の起用が固まった。

【Q】内閣も党役員も骨格は維持。一方で、閣僚の大幅な入れ替えも。今回の人事をどう見る?

【A】「安定感」と「刷新感」をどう両立するか、党内のバランスに配慮しながら腐心した人事だと思う。

岸田総理は、物価高などに対応する経済対策の実行に向けて新しい体制の発足直後から「スタートダッシュ」すると明言している。そのためにも骨格の維持が必要と判断したとみられる。
そして、その先に岸田総理が見据えるのは来年秋に控える自民党総裁選挙だ。岸田総理が率いる岸田派は党内第4派閥で、再選のためにはほかの派閥の支持が必要だ。このため、最大派閥の安倍派、第2派閥の麻生派、第3派閥の茂木派の会長や幹部を留任させて、総裁選挙に向けて足場を固めたい考えとみられる。

とりわけ「ポスト岸田」の1人と目される茂木幹事長を留任させるのは「近くに置いて動きを封じたいという思惑があるのではないか」と見る議員もいる。

一方で、全体の7割近くにあたる13人の閣僚を交代させ、うち11人が初入閣となる。内閣支持率も低迷する中、イメージの刷新を図り、政権の浮揚につなげる狙いが見て取れる。
中でも、これまで2人だった女性の閣僚を過去最多に並ぶ5人に増やすことには注目だ。
実際、ある政府関係者はこのように話す。

「岸田総理のこだわりが一番強い部分だった」(政府関係者)

党内からも次のような声も聞かれる。

「内閣支持率アップが期待できるのではないか」(党内)

ただ、女性閣僚が担当する分野をみてみると、ウクライナ情勢をめぐる対応や少子化対策の財源の議論など課題が少なくないので、どう成果を出していくかも問われそうだ。

【Q】このあとの焦点は?

【A】衆議院の解散・総選挙の時期に関心は移ることになる。今回の人事が国民にどう評価され政権浮揚につながるのかどうか、解散戦略にも影響を与えるだけに焦点となる。

岸田氏

岸田総理大臣は、13日午前、党の役員人事を行ったあと、臨時閣議で閣僚の辞表をとりまとめ、午後、内閣改造を行うことにしている。

政治部記者
清水 大志
2011年入局。初任地は徳島局。自民党・岸田派の担当などを経て官邸クラブに。
政治部記者
矢島 有紗
2009年入局。現在は自民党担当。
政治部記者
佐々木 森里
2015年入局。大分局を経て政治部。総理番、野党担当を経て現在は公明党の番記者。