デジタル化は何をもたらすか
与野党の“通”に聞く

デジタル庁が発足して9月1日で2年。政府の“司令塔”として社会のデジタル化を推進している。
一方で、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次ぎ、不安を感じている国民が少なくないのも実情だ。

立法に関わる国会議員は今後をどう展望しているのか。デジタルに精通する2人の与野党議員に聞いてみた。
(山田康博)

与党代表“デジタル族”平将明  

自民党の平将明衆議院議員。
自他ともに認める与党きってのデジタル通だ。

取材のため議員会館の事務所を訪問した際、平の指に目がとまった。
白と黒の見慣れぬ指輪。何やら意味ありげなものに思え、尋ねてみた。

「白い方は決済用。クレジットカードとひも付けてあって、コンビニなどでカードみたいに水平に当てて支払いができる。黒い方は生体情報の管理。睡眠の質や脈拍数、血中酸素濃度をモニタリングしている」

デジタルで行政改革を

生活にデジタルを積極的に取り入れている平。
現在は、党のデジタル社会推進本部で、AIを社会でどう活用するかを検討する作業チームの座長を務めている。

平は、行政改革の観点からデジタル化を進めることが急務だと主張する。

「人手不足のため、デジタル化しないと役所はパンクする。ほとんどの人がマイナンバーカードを持ち、それで手続きができるなら圧倒的にランニングコストを下げ、満足感を上げられる」

デジタルが苦手な人たちはついて行けるのか。取り残されはしないのか。
率直な疑問をぶつけてみた。

「全員が無理にデジタルに入ってきて下さいと言っているわけではない。デジタルでできる人が入ることで『勘弁してよ』っていう苦手な人を支援するのに人を割くことができる」

マイナのトラブルをどうみるか

政府がデジタル化を急ピッチで進めようとする中、マイナンバーカードをめぐるトラブルが後を絶たない。

政府が8月に公表した中間報告では、カードと一体化したマイナ保険証に他人の情報が登録されていたケースが累計で8441件にのぼっている。この事態を平はどう受け止めているのか。

「政府の対応は90点。デジタル庁って10か月でつくり、デジタル人材と官僚という全然違う人たちをひとつの器に入れている。正直よくやっていると思う。ただミスは起きていいわけではないので、どう減らしていくかもう少し考える必要はあった」

そして、一連のトラブルによってデジタル化の流れを止めてはいけないと強調した。

「いまがデジタル化の胸突き八丁だ。苦しいけど、ここさえ抜ければ山の頂が見える。これだけ大きな国でデジタルをやっている国は少ない。マイナカードの申請も9000万以上の申請があって素地はできている。AIも最大限活用すべきで、勝ち筋はやはりデジタルだ」

野党代表“デジタル族”中谷一馬

野党にもデジタル化をめぐる見解を取材しようと“デジタル通”を訪ねた。
立憲民主党の中谷一馬衆議院議員。
党のデジタル政策のプロジェクトチームで座長を務めている。

ことし3月の衆議院内閣委員会では、実験的に生成AIがつくった質問を岸田総理大臣に行った。
また8月にはシンガポールを訪問し、デジタル先進国の取り組みを視察している。

中谷の事務所はデジタルであふれていた。

まず、大きな滝が映し出されたパネル。
よく見ると、水が流れているではないか。何でも「デジタルアート」というんだとか。
机の上にある観葉植物は鉢ごとクルクル回転しながら浮いている。

政府のマネジメントにマイナス100点

近未来的な空間の中でインタビューを行うと、中谷は政府のマイナンバーカードをめぐるトラブルへの対応を強く批判した。

「政府のマネジメントサイドにマイナス100点。そして、マネジメントサイドに振り回されながら現場で日々奮闘し、努力している方々に100点を差し上げたい。なので、トータルで0点ということになる」

厳しい評価の理由をさらに尋ねた。

「保険証を廃止する時期ありきで進めたことは愚の骨頂だ。そもそもマイナンバーの制度は何のために導入するのかや、国民にどんなメリットがあるのかが共有されない状況のまま進められた、戦略的なミスだ」

なぜ、こうした事態を招いたと考えるのか。
中谷は、専門的な知見と意思決定のあり方がかみ合わなかったためだと指摘した。

「極めて頭のよいド素人がそれっぽい理屈を組み立てて、政策決定をすることが霞が関や永田町では散見される。専門的な知見をもっていないので、要所要所でミスが起き、それに対するリカバリーがまったくできない」

デジタル化は“急がば回れ”

政府の対応を酷評する一方、中谷自身も社会がデジタル化を進めることについては賛成の立場だ。

今後、どのようにデジタル化を進めていくべきかを問うた。

「デジタル化が遅れているのも事実で、速い流れの中で進めていかなければならないが、“急がば回れ”であり、急に無理やり進めようとしても進まない。皆で合意形成をしながら、なおかつ一歩ずつ歩んで積み上げていくことでしか時代は変わらない」

デジタル化の展望は

行政改革のためデジタル化を急ぐべきだと主張する平に対し、国民との合意形成を図りながら一歩ずつ歩むことが結果的に近道になると訴える中谷。
これから社会がどう変わっていくと考えるか、2人に聞いてみた。

まずは、平。

「これからの日本は、圧倒的に人手不足となる。AIで一元的に対応する行政のコールセンターをつくりたい。10年ほどでつくれるのではないか。政府、都道府県、自治体の“縦割り”や“横割り”もなくなる」

その上で、政治の役割について、こう語った。

「技術革新と規制のバランスを考えると、日本は資源がないからイノベーションで戦うしかない。早め早めに規制の整備をして前のめりでやるしかない」

一方の中谷。

「フランスの小説家、ジュール・ヴェルヌが残した『人が想像できることは、人が必ず実現できる』という名言がある。10年後ぐらいには、自動運転車や空飛ぶ車もほぼでき上がり、自動運転の車の移動時間が仕事をしたり、オンライン診療を受けたりする時間に変わるかもしれない」

今後もさまざまな技術によってわれわれの生活の利便性は高まると指摘した上で、こう力を込めた。

「時代の変化に非常にわくわくし、未来に展望を抱いている。一方で、ルールや制度を整えていく衆議院議員の1人として緊張感を持っている。グローバル社会の中でリスクになる部分をどうコントロールしていくかに尽力したい」

デジタル化という時代の変革を国民の利便性向上や行政の効率化、ひいては日本の成長につなげることができるのか。政治家の担う役割は大きい。

(文中敬称略)。

政治部記者
山田 康博
2012年入局。京都局初任。政治部では法務省や公明党の担当などを経験し、現在は自民党を担当。