松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「2023年度特選の特選」
- 2024年03月04日
3月の「俳句でポン!」では、『2023年度特選の特選』と題して、今年度各放送回の兼題に合わせて全国から寄せられた句(計2339句)より、松山市出身の俳人・神野紗希さんが選んだ特選句10句を振り返り、その中から特選の特選句を発表しました。視聴者の皆さんから寄せられた俳句の疑問質問への回答とともに紹介していきます。
特選の特選
蝌蚪のぷにぷにを忘れず生きてきた
今治市 柳原栄三
【私にとって譲れないものを大切に】
栄三さんにとって、たとえばおたまじゃくしのやわらかさ、幼いころに触れた命の無垢が、生きていく上で忘れてはならない感覚だったように、それぞれの人が大切にしている記憶や関係や日々の光があると思うんですね。その、私にとって譲れないものが、私の俳句の核になってくれます。それを『忘れず』生き、俳句を詠みましょう。
4・5・6月の特選句
4月 『一人称を使った俳句』
球根植ういつか私の居ない星 (今治市 あいむ李景)
5月 『触覚を使った俳句』
蝌蚪のぷにぷにを忘れず生きてきた (今治市 柳原栄三)
6月 『雨を楽しむ俳句』
梅雨寒やミル挽く午後のコルトレーン (松山市 森 小畝)
それでも生きていく、という姿勢が印象的な三句ですね。命は永遠ではないからいつかこの世を去るけれど、それでも死後の地球のために球根を植えるという姿勢。社会は決してやさしくないけれど、荒波の中でもおたまじゃくしの感触を忘れず、純粋さを失わずに生きてきたという矜持。雨が降ってひんやりする日なら、珈琲を入れてコルトレーンを聴いて過ごそうという前向きな過ごし方。嘆くだけでなく、一歩ふみだす力に、命の輝きが宿っていました。
7・9・10月の特選句
7月 『視線の高さを工夫した俳句』
捩花や転びたる子のまなかひに (松山市 深山むらさき)
9月 『夜空を詠んだ俳句』
流星雨数ふ信濃の草に寝て (大分県 樫の木)
10月 『レシピが伝わる俳句』
鯛も味噌も焦がして残暑のさつま汁 (松山市 久保 哲也 )
視点の置き方で臨場感が出ていますね。転んだ子の視界いっぱいに捩花がそびえていると、捩花の存在感、その命もぐっと近づきます。流れ星も草に寝転がって仰げば、より迫ってくるでしょう。さつま汁も「焦がして」の一語が美味しさを臨場感たっぷりに伝えてくれました。
11・12・1・2月の特選句
11月 『旅を詠んだ俳句』
北涯ての暖炉の図書館へ往かん (愛南町 升屋)
12月 『ことしの記憶を詠んだ俳句』
人生に俳句以前と以後セロリ (高知県 毬雨水佳)
1月 『静けさを生かした俳句』
夫と吾と蜜柑畑の鋏の音 (松前町 ゆすらご)
2月 『移動手段を詠んだ俳句』
早春の免許返納かぜやさし (砥部町 とべのひさの)
私の思いをどのように言葉にするか、思いを具体化して託すことに長けた4句ですね。北の果ての暖炉の図書館に惹かれる人がそもそも素敵ですし、俳句をはじめる前と後では世界の感じ方が変わるその気分を「セロリ」というしゃきっと目の覚めるような野菜に託してみせた感覚も鋭いです。夫と私の重ねてきた時間が鋏の音で静かに満ちていきますし、免許返納した背中を風がやさしく押してくれます。言葉は心から生まれるのだと教えてくれる句でした。
視聴者の皆さんの俳句への疑問解決コーナー
質問①
「作者の詠んだ情景を、その俳句を読んだ人に思い浮かべてもらいやすくするために、俳句を作る際に心がけると良いことがあれば教えてください」
八幡浜市 石地の棘がつらい
回答
1つ目の質問のポイントは『事実の描写を重視する』です。
海が美しい、といっても、あけがたの海を思い浮かべる人もいれば、夕焼けのイメージの人もいます。だから、美しいとか忘れがたいとかいった主観的な気持ちは抑えて、客観的な事実を述べると再現性が上がります。時間帯や、色、数字、形、地名など、ぜひ活用してみてください。
質問②
「俳句は、好きなのですが、最近人の評価が、気になります。始めは、自由に?つくっていたのに、何だか嫌いになりそうです」
宇和島市 麗
回答
2つ目の質問のポイントは『誰に向けて俳句を作るか』です。
人の評価を取り入れることも上達には大切なことなのですが、周りの人のアドバイスがすべて正しいとも限りません。自分が自分の俳句を誰に読んでほしいのか、それを考えればシンプルです。
句会の中のこの人、でもいいし、家族や友人、私自身に向けて、あるいは目の前のチューリップへ詠むということでもいいのです。まずは自分が愛せる句を作るのがよいと思います。
質問③
「季語を大切にしよと教えられましたが、まだまだ生かしきれません。神野さんは、作句の際に季語をどのように持って来られますか?」
西予市 りー
回答
3つ目の質問のポイントは『季語にちょい足し』です。
季語、難しいですよね。季語を代替不可能な動かないものにして、描写もゆたかにするために、私は季語にちょい足ししています。
たとえば
〈子の睫毛くるり芽キャベツ水弾く 紗希〉
「芽キャベツ」が「水を弾く」ところまで書くことで、芽キャベツの命がより感じられますね。
一方〈芽キャベツや子どものまつ毛くるんとす〉などとすると、季語が動く可能性が出てきてしまいます。
次回の「俳句でポン!」の放送は、4月1日(月)の放送予定です。
次回の兼題は『切れ字「や」を使った句』、古池「や」の「や」です。詠嘆の意味があり、「や」を使うと、そこに感動がこもります。俳句でもよく出てくる、この「や」の使い方を、新年度にあらためて学んでみましょう。
応募は、ひめポン!のホームページからお願いします。
締切は3月22日(金)の午後7時です。お待ちしています。