松山市出身 俳人 神野紗希さんが選ぶ「静けさを生かした俳句」
- 2024年01月15日
1月の「俳句でポン!」では、兼題『静けさを生かした俳句』に全国から285句寄せられました。松山市出身の俳人神野紗希さん選の俳句を解説とともに紹介していきます。
※愛媛県で平日夕方に放送中の番組「ひめポン!」のコーナー「俳句でポン!」でお伝えした内容を掲載しています。
特選
夫と吾と蜜柑畑の鋏の音
松前町 ゆすらご
この句からわかるポイントは『言葉のいらない豊かな静けさ』です。「静けさ」という言葉は直接ふくまれていませんが、黙々と収穫の作業をする夫婦の姿から、蜜柑山のおおらかな静けさが伝わってきます。夫婦の阿吽の呼吸。静けさは孤独で寂しいだけでなく、言葉がいらないゆたかさを表現してもくれるんですね
番組紹介句(神野さん選10句)
【音を示した5句】
そろばんの冬のしじまに弾く音 (松山市 窪田 悠晴)
冬耕の音止みてより峡無言 (宇和島市 佐々木一美)
胎動の音聴く君と冬の月 (西予市 りー)
冬隣新聞めくる音高し (新居浜市 東口あこ)
吾と君で被る毛布や秒針音 (松山市 ちゃんこ)
そろばんの音、冬の山あいで畑を耕す音、おなかの赤ちゃんの胎動の音、新聞をめくる音、二人で被った毛布の中で聞く時計の秒針の音、どれもまわりがうるさかったら聞こえてこないだろう、ささやかな音ですよね。小さなささやかな音を描くことで、それが聞こえるほど静かな空間だということまで伝えられるんですね
【静かな素材を詠んだ5句】
年惜しむひとり教室床を掃き (西条市 丹下 矢武規)
花炭のほのとくづるる朝かな (愛知県 栗田すずさん)
冬霧の水面をすべる鳥の群 (宇和島市 麗)
大口開け待つ鯨オーロラ飲む (宇和島市 くじらボウズ)
つつがなき農業日誌山眠る (松山市 大野玲子)
一句目、年末にひとりで教室を掃除しているのは静かな場面ですね。二句目の花炭とは、松ぼっくりなどをそのまま炭にした美しいもので、この花炭が静けさをまとっています。冬霧の水面やオーロラの鯨など、静けさの中にも躍動が感じられます。静けさを内包している素材を使うことで、静かと言わずとも静けさが表現できるんですね
添削
冬雲に寝かされ残った海の月 (八幡浜市 石地の棘がつらい)
↓
冬の月覆う雲あり海光る
✏添削のポイント
1つめのポイントは、『客観的な描写で伝える』です。雲に寝かされたという擬人化・見立てを入れてしまうと、うまいこと言ったね、という表現のほうが目立ってしまいます。内容をより深く心に届けたい場合は、客観的な描写を心がけましょう。
〈冬の月覆う雲あり海光る〉
「冬の月」から入ったほうが、夜の場面だとすぐイメージしてもらえます。言葉を組み替えながら、しっくりくる表現を探しましょう
ストーブ燃え子らは静かに語り聴く (松山市 ゆうゆう)
↓
ストーブ燃え子らは膝抱き語り聴く
✏添削のポイント
2つめのポイントは『静かさを動作で示す』です。先ほどは素材で静けさを見せましたが、動作を描き出すことで静かさを見せることもできます。「静かに」の部分を、静かにと言わず、どう表現するか。
〈ストーブ燃え子らは膝抱き語り聴く〉
たとえば「膝抱き」とすると、真剣に語りを聞いているのが伝わりますね。動作が物語る情報量はとても多いんです
佳作
恋人よ本を閉じなよ雪催 (西条市 メプチン)
夜汽車過ぎすべてが眠る冬の駅 (松山市 直線的)
直感を休めたき夜毛糸編む (西条市 砂山恵子)
冬日射すおやすみの日の保育室 (八幡浜市 紅まどんな)
大晦日ナースコールの鳴らぬ夜 (松山市 小藤たみよ)
まっさらのページに祈り初日記 (松山市 小林 リラ)
月煌々褞袍で読んだトルストイ (松前町 松田夜市)
帰省子の帰り行きたる日の夕餉 (今治市 和)
次の兼題は?
次回の「俳句でポン!」の放送は2月5日(月)の予定です。
『移動手段を詠んだ俳句』を皆さんから募集しています。車、自転車、徒歩、飛行機、船、なんでもかまいません。移動手段を詠み込んだ俳句をお寄せください。
締め切りは1月26日(金)午後7時です。おまちしております。