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戦闘下の日常 イスラエルとパレスチナの写真展に込めた思い

  • 2024年03月01日
※写真展は3/3まで開催

戦闘が続くイスラエルとパレスチナを訪れた写真家の写真展が松山市で開かれています。写真展は、現地の日常にこだわった写真家の思いに共感した愛媛県内の女性が企画しました。2人が伝えたかったこととは。

(NHK松山放送局 勅使河原佳野)

特集の内容はNHKプラスで配信中の2月27日(火)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。

画像をクリックすると見逃し配信が見られます!見逃し配信は3/5(火) 午後6:59まで

ギャラリーにならぶ戦闘地域の日常の中に

松山市のギャラリーに飾られているのは、去年12月からことし2月にかけてイスラエルとパレスチナで撮影された103枚の写真です。大勢の人が行き交うにぎやかな市場や、牧草地にたたずむ羊と少年。戦闘が続いているとは思えないような日常を切り取った写真が多くならんでいます。

写真家 森佑一さん

撮影したのは香川県出身の写真家、森佑一さんです。2012年から写真家として活動しています。これまでにイエメンやウクライナなど紛争や戦闘が続く地域で写真を撮ってきました。今回イスラエルとパレスチナを訪れたきっかけは、去年10月にイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まったことでした。

(森佑一さん)
10月7日のハマスの攻撃やその後のイスラエル軍の空爆が頻繁にニュースになっていました。デモがいろいろなところで起きている様子や悲惨な映像も流れていましたが、実際に現地に行くとどういう状況なのか。10月7日以降、一般の人たちがどのように暮らしているのかが気になって渡航しました。

森さんが、1か月半にわたって撮り続けたイスラエルとパレスチナの日常のなかには、戦闘が起きている現実を突きつけるものがあります。

パレスチナのヨルダン川西岸の街を撮影した写真。イスラエル軍の攻撃によって破壊された道路が写っています。

一方、イスラエルの街なかで撮られた写真には、手を縛られ体が赤く染まった熊のぬいぐるみが写し出されています。ぬいぐるみは、イスラム組織ハマスに連れ去られた人質に見立てて置かれています。写真には、戦闘に一般の人たちも巻き込まれ、日常に大きな影を落としている現実を伝えたいという森さんの思いが込められています。

(森佑一さん)
戦場だけで戦闘が行われているわけではありません。生活の一部に戦闘の被害が及んでいて、普通の暮らしを送っている中で空爆で家が壊され、飢餓でたくさんの人が亡くなっています。そうしたことを包括的に伝えたいという気持ちが自分の中に1番あるんです。

 

大川理恵さん

その森さんの思いに共感して写真展を企画したのが、愛媛県内でアトリエを経営する大川理恵さんです。JICA=国際協力機構を通じてエジプトで活動をした経験があり、紛争地や戦闘が行われている地域の支援活動を続けています。

(大川理恵さん)
私はアラブ圏で暮らしていたことがあってアラブ人の友達も多く、10月7日以降もパレスチナ人を擁護する感覚が強くありましたが、森さんの話を聞く中でイスラエルとパレスチナそれぞれの見方があることに気がつきました。より多くの日本人にそのことを知ってもらいたいと思い写真展を企画しました。

双方のさまざまな声を知って

写真展の期間中には、森さんによるトークイベントも開かれました。

企画した大川さんが日本人にはなじみが薄いであろう中東を身近に感じてもらおうと、アラブの伝統菓子「クナーファ」やイエメンのコーヒーも用意しました。参加者たちは、菓子やコーヒーを味わいながら森さんが出会ったイスラエル人とパレスチナ人の話に耳を傾けていました。

戦闘の前、パレスチナのガザ地区からわずか500メートルほど離れた集落で暮らしていたイスラエル人の女性は、森さんに「かつてはガザ地区に出かけて買い物が出来ていましたが、イスラエルとの間にフェンスが立てられガザ地区に住む人たちが見えなくなって恐怖心が芽生え、去年のハマスの攻撃のあとはさらに恐怖心を抱くようになった。平和に暮らしたいという思いはイスラエル人もパレスチナ人も一緒のはずなのに、ハマスの攻撃やイスラエル軍の空爆といった過激な行動で、平和に向かう流れが断ち切られている」と話していたといいます。

パレスチナのヨルダン川西岸に住むパレスチナ人の男性は、オンラインで参加して自分の言葉で参加者に語りました。男性は最初、愛媛に農業の勉強をするために留学していた当時の思い出をなごやかに話していましたが、森さんが現地の様子を聞くと厳しい表情でこう語りました。

(パレスチナ人の男性)
今回のハマスの攻撃の前から自分の住む町ではイスラエル軍の攻撃による被害があったが、去年10月からさらに激しくなっている。きのうも仕事場の近くで空爆があり、ミサイル2発が車に当たって1人が亡くなり15人がけがをした。

 

トークイベントでは、森さんがイスラエル人とパレスチナ人が争いのない地域を目指して一緒に歩んでいる様子も伝えました。パレスチナ人の家にイスラエル人がホームステイをして、パレスチナ人がイスラエル人から受ける嫌がらせや暴力の様子を撮影。その動画を暴力に反対するメッセージとともにSNSなどで発信していると言います。森さんは、イベントを次のようなことばで締めくくりました。

(森佑一さん)
やっぱり片方の側面だけだといろいろと見えない部分も多いので、今回両方を見ていろいろな立場や考え方、視点があって生活していることが分かりました。現地はグラデーションをすごく帯びているんです。そういう部分を意識して情報を見てもらうと、多角的な見方が出来ていいんじゃないかなと今はすごく思っています。

参加者たちは、現地の日常やそこで暮らす人たちの声を聞いたことでイスラエルやパレスチナへの関心を高めていました。

そこで過ごしている人たちが何を見ているとか、どういう生活を送っているとか、そういったことを知ることによって、改めて現地の状況を自分のこととして感じるきっかけになったと思います。

国が確かに遠いですし極端に言えば隣でも何でもないから、と突き放すのは簡単だと思うんですけれど、今現在どういう風になってるんだろうかという関心は常に持ち続けたいなと思います。

森さんは、イスラエルとパレスチナの問題は善と悪という視点で捉えるのではなく、現地で暮らす人たちのさまざまな立場や考え方を知ることが大切だと考えています。

(森佑一さん)
ニュースやソーシャルメディアで流れてくる情報ですぐに判断しないで、いろんな立場を考慮して多面的に見るということをしてもらいたいとずっと思っています。そういうのが積み重なっていったら、安易にすぐ物事を単純化して分断してしまうということが少なくなると思います。それは回り回って和平とか平和を構築する上で大事なのではないかと今は思っています。

取材後記

記者は学生時代、アラビア語とパレスチナ問題について学ぶため約7か月間パレスチナのヨルダン川西岸で暮らしていました。
渡航前、友人たちからは「そんな危ないところに本当に留学するの?」と聞かれました。留学を決めた自分自身でさえも、ニュースで見る現地の危険なイメージからドキドキした気持ちで飛行機に乗ったことを覚えています。しかし、現地で見たのは住宅の近くを羊が散歩する牧歌的な風景や、美しいモスクに教会。そして、放課後には現地の友達とカフェで談笑したり、休日にはショッピングに出かけたりといった日常的な生活を送りました。
そうした中で、移動中のバスの車内からイスラエルとパレスチナの間の分離壁を見たり、友人とのふとした会話の中で争いで身近な人を亡くしたという話を聞いたりすることもありました。そして、同年代の若者たちがイスラエル軍として銃を持っている姿を見ることもありました。今回、森さんの写真展で目にしたものは、まさに私が現地で感じた異様な日常の姿だったように思います。

写真展で印象的だった展示があります。それは、パレスチナとイスラエルの料理を並べたパネルです。

一見どちらがどちらの料理だか分からないぐらい、とても似ているのです。イスラエルとパレスチナの問題は二極化して考えられることが多いですが、平和な暮らしを送りたいという思いはきっとどちらも一緒です。そのようなイスラエルとパレスチナが争っている実情を、私も伝えていかなければいけないとこの写真を見ながら思いました。

 

特集の内容はNHKプラス配信終了後、下の動画でご覧いただけます。


 

  • 勅使河原佳野

    勅使河原佳野

    2019年入局の記者。
    大学時代はアラビア語を専攻し、中東のエジプトとパレスチナ、ヨルダンに留学していました。

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