戦争の記憶を紡いで
- 2023年08月15日
終戦から77年。
記憶の風化が懸念される中、特攻隊員などのイラストを毎日SNSで発信し続けるイラストレーターが熊本県菊池市にいます。
イラストに込める思いを取材しました。
(熊本放送局記者・西村雄介)
(※記事は2022年8月に公開した内容です。終戦からことしは78年です)
戦争描き続けるイラストレーター
「作戦開始。特攻攻撃。家族ガ戀(こい)シイ。死ニタクナイ」
「日本軍の遺體(いたい)を焼く。同期の顔が溶けてゆく」
イラスト集「兵隊さん絵日記」。
戦争を体験していない世代にも関心を持ってもらえるよう、デフォルメしたキャラクターで紹介しています。
調べた史実を、創作した日本兵6人の姿に託し、戦争の理不尽さを描きました。
「絵日記」を制作しているのは、菊池市のイラストレーター、坂本眞菜さん(24)。
地元の戦争資料館で展示の案内をしながら、1日1枚、日替わりで6人のイラストを描き、SNSに投稿しています。
熊本大学の美術科の卒業を控えた2021年1月に描き始め、きょうまで1度も休んだことがありません。
(坂本眞菜さん)
「戦争の歴史が完全に風化してしまうと、昔を繰り返してしまうという不安があります。自分の絵を見て、戦争の深いところまで知ろうかなと言ってくれた人がいて、励みにもなって毎日続けられたかなと思います」
緊張感と不安 事実に基づいて
小学生の時に祖母の戦争体験を聞き、自ら学んできた坂本さん。
心がけているのは、できる限り事実に即すこと。
特攻隊員の遺詠集など、自宅にはこれまでに集めた数多くの資料が保管され、文献を読み込んでイラストを描いています。
(坂本眞菜さん)
「時代背景が分かれば、当時生きていた人たちの緊張感、不安感が伝わると思うので、その日に何があったか、絶対に間違えないよう毎日調べて描いています。戦争賛美にだけは絶対にならないようにしています」
イラストで投げかける戦争への疑問
これまでに描いてきたイラストは600枚近く。
中には、特攻で兄弟を亡くした遺族の証言をもとにした物語もあります。
登場人物の1人、海軍の靑木和義 上飛曹です。
陸軍の特攻隊に所属する双子の弟・友義の安否を気にかけています。
激しい戦火を生き抜く2人。しかし。
届いたのは、非常な結末でした。
「たった12文字なのに俺の心を打ち砕いた。信じてなるものか。怒りの念が湧き上がる」
描かれたのは兄の怒り、特攻の理不尽さでした。
兵士に思いを馳せる一方、戦争を遂行し続け、多くの犠牲を出した軍の上層部に対する疑問も、イラストを通じて投げかけています。
(坂本眞菜さん)
「体験した人のお話を聞くにあたって、兄が戦争で死んで、自分だけ生き残ったという話を聞きます。調べたり、描いたりするなかで、なぜ、当時の上の人たちが特攻を生んだのだろうと思います。生きることができた人たちを、どうして殺すような作戦を思いついてしまったのか。命を奪われたご遺族の人たちからも、恨まれることなのに、そこまでして、なぜ遂行してしまったのだろうと。戦争をすると、目の前のことしか見えなくなる。だから、上の人たちも判断が鈍る。命を軽視するような結果になるのかなと思っています」
複数の登場人物のさまざまな価値観を描く「絵日記」に共感し、坂本さんのもとを直接尋ねる人も少なくありません。中には県外から訪れる人も。
(福岡県の高校生)
「兵士の感情に本当に寄り添っている感じがする。悲しい、怒りの感情だけではない言葉に言い表せないような感情もしっかりと練り込まれている」
「記憶紡ぐため」できることを
終戦から77年の8月15日。
「絵日記」に登場する陸軍の軍曹だった男性が終戦の日を過ごす姿、そして、この日にあわせて特別に、花火を見つめる兵士3人の姿を描きました。
(坂本眞菜さん)
「終戦は、当時の日本人の全員が経験したことです。亡くなった人、生きて日本に帰ってきて玉音放送を聞いた人など、さまざまな人がいたと思います。花火を見つめる3人の顔は描かず、その時を生きた全員、という意味で、特定しない形で描いています。戦争を知らない世代の人たちにも、亡くなったみなさんに思いを馳せてほしいなって」
日ごとに刻む戦争の記憶。
ウクライナへのロシアの侵攻など、今でも戦争が起きていることに「無力さ」を感じながらも、自分ができることをして記憶を紡いでいきたいと、坂本さんは「絵日記」への思いを語ります。
(坂本眞菜さん)
「戦争を描くことで、反感が出てくるかもしれません。けれども、戦争があったという事実、それぞれ、いろいろな人たちの思いがあって、戦争が終わったということを描いていけたらと思っています。これから先も変わらず、さまざまな人の考え、思いを描くことを、誠実に頑張っていきたい。そして、戦争を体験していない世代が、私の作品、絵をみて、学校で習うだけではわからないことを知って、考えるきっかけになってくれれば、1番うれしいと思っています」