水俣病の教え方 これからどうする?
- 2023年05月03日
水俣病の公式確認からことしで67年。
患者の高齢化が進み、亡くなる人もいるなかで、当時の経験を語れる人が少なくなってきています。
水俣病の「何を」「どのように」伝えるかが課題となるなかで、次世代への「教え方」をテーマにした交流会が水俣市で開かれました。
模索を続ける人たちの新たな試みを取材しました。
(熊本放送局 アナウンサー 佐藤茉那)
新たな水俣病学習を目指して
ことし2月、水俣市で開かれた交流会です。
子どもたちに水俣病を教える機会がある、小学校や高校の先生などが集まりました。
水俣病の授業の進め方は、先生個人に委ねられることが多く、悩みながら向き合っているといいます。
(神戸の先生)
劇症型の患者さんの身体の写真をどこまで扱うか、かなり迷います。
子どもたちにこわいと思わせたくない、その症状ばかりが水俣病だと思わせたくなくて。
交流会を開いた1人、奥羽香織さんです。
水俣で水俣病の歴史を伝えるガイドをしています。
必ず子どもたちに聞かれるのが「なんで魚を食べ続けるのか」と。「魚を食べられないって分かったら、肉食べればいいじゃん」と。
彼らの暮らしとの隔たりが、どんどん大きくなってきています。
実感を持つのが難しいなかで、どうしたら子どもたちに伝わるのか。
知恵を出し合いたいと、会を開きました。
子どもも変わるし、社会も変わるので、そこに応じて、こっちが柔軟になっていくことが必要なんだろうと思います。
学びの入り口を作りたい
会では、肩ひじを張らずに、まずは水俣病を学ぶ入り口に立ってもらいたいと、奥羽さんたちが新たに考えたワークショップに取り組みました。
用意されたのは、エコバッグや手ぬぐい。
こちらに、「いまの水俣の沿岸部の地図」を手作業でプリントします。
参加者に混じって、取材に訪れた私も一緒にやってみました。
沿岸部の地形まで、細かくきれいにプリントされました。
この工程を繰り返し、重ねて色をつけていきます。
薄い茶色の左側のエコバッグが、いまの水俣の地図。
右側は、その上に、やや濃い茶色で塗り重ねたものです。
この濃い茶色の部分は、昔の水俣の地図です。
薄い茶色に塗られた今の地図に、濃い茶色の昔の地図を塗り重ねることで、地形の変化を見てとれます。
水銀などを封じ込めた水俣湾の埋め立て地や、汚染された魚が湾の外へ出ないように25年ほど前まで設置されていた仕切り網も。
ものづくりを楽しみながら町や海の変化を見つめることで、水俣病の歴史を学ぶことができます。
知識として知っているだけでなく、実際に地図にしてみると、より実感がわく。
体験学習としてすごく最適。地形の変化と開発というのが、すごくリンクする。
どういう風に水俣が開発されてきたのかということが分かるし、公害対策はどう変化したのかが分かるっていうのが、すごくよかったです。
参加者たちは、作ったエコバックをお互いに見せあい、水俣の地図で気が付いたことを話し合っていました。
エコバックや手ぬぐいに色を付けるこのワークショップは、水俣を深く知るきっかけになると感じました。
自発的に「考えて」
学び取ってほしい
会の後半には、「フォトランゲージ」という写真を使った学び方も試しました。
使う写真は、水俣の海など、人々の生活や風景を写した、いまと昔の写真です。そこから各グループで1枚選び、気づいたことを自由に発言していきます。
先入観を持たず、みずからの気付きを出発点に、学びを深めてほしいというねらいです。
浜で休憩している。背中で何か語っているような気がする。
時間帯は何時だろう?人影の傾きからすると…朝?
朝に何をしているんだろう。
そして、グループごとに写真を解説するタイトルをつけ、発表しました。
朝なんじゃないかっていう予想で、趣味じゃなくてなりわいとして、朝から海に関わっている。
これは非日常というよりかは、日常的に海に関わっている姿っていうので、「モーニングルーティン」と名付けました。
ワークショップを終えた後、参加者は。
授業のときに、自身も写真を使うことがあるという小学校の先生です。
写真を使って、授業の導入をする際、「これでいいのか」とか「この写真は使うべきなのか」と考えるといいます。
今回の体験のように、さまざまな写真を置いて、子どもに想像させる方法も取り入れてみたいと話していました。
奥羽さんは、今後もこうした交流を通して、新たな学び方を考えていきたいといいます。
現場の先生たちが無理なく、どんな人でもできるように。意識が高い系の人しかできないって言ったら、やっぱりやらない、というのはすごく思います。
だからそんなに意識が高すぎなくても「ちょっとやってみよう」って思った時に、できる仕組み、材料を増やしたい。
取材を終えて
今回一緒に取り組んだワークショップは、ハードルも低く、水俣の歴史などを気軽に知るきっかけになると感じました。
エコバックや手ぬぐいを作る作業では、自然と手元の水俣の地図をじっくりと見て、変化に気づくことができ、もっと知りたくなりました。
取材を通じ、水俣病を教える立場にある人たちも、どのように教えたらいいのかわからず、悩みながら取り組んでいる現状が分かりました。
参加した先生からは、他にも多くの悩みが聞かれました。
(先生A)
水俣病に関する出来事の年表を覚えて、それを正しく子どもたちに伝えることで、いっぱいいっぱいになってしまう。
そこからさらに発展させて、『なぜ起きたのか』ということを考える時間が取れない。
(先生B)
この先、語り部の人の話を聞けない時代が来たら、どうするのか。
今の熊本県の水俣病の学習は、基本的な学習方針などは県が定めているものの、具体的な指導内容は、先生個人に委ねられている部分が大きいと知りました。
現在は、現地で患者など語り部の話を聞くスタイルが多いですが、いつか、それが難しくなる時代がやってきます。
そうなったときに、どう伝えられるのか。今こそ考える必要があるのだと、気付かされました。
NHK熊本放送局では、水俣病に関して疑問や知りたいことなどを募集しています。
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