8・6水害|鹿児島市の4割カバーする浄水場の断水
- 2023年07月28日
8・6水害では、私たちの生活に欠かせない水をつくる浄水場も大きな被害を受けました。鹿児島市内では甲突川の氾濫などによって断水が発生。4割にあたる7万6000世帯が影響を受けました。あの日から30年、浄水場の「当時」と「今」を最も知る職員に聞きました。
(鹿児島放送局 金子晃久)
音で感じた“異変”
経験した人じゃないと分からないというくらいのひどいありさまでした。いまでも覚えてますけど、恐怖ですよね。
甲突川の中流にある、鹿児島市の河頭浄水場。
現場のトップ、場長の長岡忠さん(58)です。
30年前、28歳だった長岡さん。技師として、この浄水場で勤務していました。
夕方から一気に強まった雨。長岡さんは、ある音を聞いて異変に気づきました。
前の山があっちこっちがらがらとごう音を立てて崩れてきました。川の水位もみるみる上がってくるのが目にみえてわかりましたので、ただごとではないなと思いました。
低地で甚大な被害
一夜明け、長岡さんが目にしたのは甚大な被害でした。
川の上流から流れてきた、大量の木材やドラム缶。水は、ほとんどくみ上げられない状態になっていました。
また、川に隣接する浄水場ならではの被害の実態も。高台の貯水タンクなどは被害を免れた一方、低い土地にある多くの施設が浸水したのです。
河頭浄水場で水をためる施設の水面は、川とほとんど同じ高さになっています。このため、甲突川からあふれた水が大量に流れ込んだのです。施設の水は、土砂で茶色く濁りました。
当然低いですので、門のほうからも川のほうからも水が一斉に入ってきた状態です。一気に濁流のように流れてきました。
各地で発生した断水
鹿児島市内の世帯の4割をカバーする浄水場の被災。およそ7万6000世帯で、断水が発生したのです。給水活動が行われ、各地で長蛇の列ができました。
長岡さんたちは翌日から復旧にあたりましたが、大量の土砂をかき出す作業は難航。市内では、8日間にわたって断水が続きました。
水害に備えた対策は
あの日から30年。これまで、洪水を防ぐため、川の幅を広げたり深くしたりする工事が行われてきました。さらに、河頭浄水場そのものも生まれ変わろうとしています。
最大の対策は「盛り土工事」です。最大3メートル程度の浸水が想定されている河頭浄水場。赤の点線の中にある施設を、より高い黄色のエリアに移動します。このエリアには、盛り土も行う計画です。鹿児島市によりますと、工期は4年、事業費はおよそ178億円に上る見込みです。8年後の利用開始を目指しています。
断水に備えた対処療法も
ただ、低地にあることからは免れない浄水場。被害にあい、断水が発生した時に備え、鹿児島市は給水の拠点を整備してきました。学校などの公共施設に給水タンクを設けるなど、今では92か所に広がりました。8・6水害と同規模の断水が発生した場合でも、およそ5日間は、生活に必要な水を供給できるとしています。
場長となったいま、長岡さんは改めて、災害の発生を想定した備えが重要だと感じています。
近年毎年のように災害があります。災害がないのが一番ですが、いつか必ずまた起きるだろうと思っています。だから身構えていないといけないし、常日ごろ心構えがないといけない。
浄水場の施設の半分ほどを盛り土を行って移動させる工事ですが、鹿児島市水道局によりますと、莫大な費用がかかるため、施設の老朽化で更新する時期を待って行わざるを得ないということです。
あの日から30年が経過し、長岡さんは8・6水害を経験した職員が年々減少しているため、若い世代の職員に、当時の被害や経験を語り継いぎたいと話していました。