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馬毛島半年 激変する地域社会

  • 2023年07月28日

西之表市の馬毛島で自衛隊基地の建設が始まってから7月12日で半年となりました。関連予算は今年度までの2年分だけで、およそ7600億円。工事が進む中、長く無人島だった島の姿は大きく変化しています。

基地建設に従事する工事関係者は、ことし6月の時点で1250人まで増加。さらに、工事が本格化する来年2月のピーク時には、このおよそ5倍、6000人に上る見通しです。この数は、対岸の種子島の1市2町の人口2万6000人の実に4分の1近くにあたります。工事関係者の急増が地域社会にもたらした変化を取材しました。
(鹿児島放送局 金子晃久)

変わる種子島の風景 

午前6時。種子島の西之表港には、ヘルメットをかぶった大勢の人たちの姿がありました。全国各地から集まった建設作業員です。取材したこの日の朝は、およそ20隻の船に分乗して、馬毛島に向かいました。6月の時点で種子島に滞在する工事関係者は1000人以上に上っています。

工事関係者の急増に伴って、種子島では、あちこちで変化が現れていました。国道脇の住宅地の近くで行われていたのは、350室の仮設住宅の建設。ことし5月から工事が始まり、近く完成する見通しです。

さらに、中種子町にある旧種子島空港の滑走路は、基地の港湾施設に使われるブロックの仮置き場に。ひっきりなしにダンプカーが行き来する様子が見られました。

地元の人たちは

変わりゆく島の風景。地元の住民はどのように感じているのでしょうか。

50代・女性

交通量が増えてます。仕事の関係で夜7時くらいに国道を通っていた時はすれ違う車もなければ、前後の車もなかったんですけど、今は必ず車がいて。

70代・男性

いまのところ何ももめ事もトラブルもないけど。
活気が出たらええかなと思うぐらい。

70代・女性

私の家の近くにも工事関係者の人が寝泊まりするようになって、どこの会社のどういう人かも全然わからないし。周りにあまり人家がないので怖いですね。

影響は漁業にも

基地建設の影響は、種子島の基幹産業である漁業にも及んでいます。取材したこの日、競りに並べられたのは、例年の半分以下。工事が始まってから水揚げ量が減っていると言います。

仲買人

少ないですよ。きょうは少しはあるほうですけど。本当にさみしい。

馬毛島に向かう“海上タクシー”

その理由は、漁を離れる人が増えているからです。工事関係者を馬毛島に運ぶ“海上タクシー”。その多くを漁業関係者が担っています。建設会社を通じて防衛省から支払われる日当は8万2000円。燃料費が高騰する中、安定した収入は魅力だと言います。

漁師

島はなかなか仕事がないし、1日畑やっても8000円とかが普通なんで。
人気あると思います。取り合いになっているんじゃないですか。

賛成派からも懸念の声

基地建設に賛成する団体の集会

地域社会への影響が広がる中、基地建設に賛成してきた地元の事業者からも懸念の声が出ています。

飲食業関係者

1次産業の従事者の方から、少なくない人が工事関係の仕事に変わっているという話も聞く。地元産の食材が手に入りにくくなるのではないか。

また、工事関係者の長期滞在で宿泊施設がひっ迫し、観光客を十分に受け入れられないという訴えもありました。

観光業関係者

交流人口・観光人口がいま激減している。関連事業者が非常に困っているのが現状。

「西之表市と馬毛島の未来創造推進協議会」鮫島忠雄会長
1次、2次、3次それぞれの産業の中で、個人ではなかなか課題を解決できない面がある。要望を市に提出したい。

一方、計画に反対してきた住民グループの代表は、工事が進む中で、地域の不安がより深まっていると訴えています。

「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」山内光典会長
地域の課題がいっぱい残っている状況のなかで、工事を進めるのはおかしいんじゃないか。種子島に住んでいる人たちの毎日を大事にしてもらうことが政治であるのに、不安を与えて分裂させて、「仕方がない」「犠牲になるから」と、代わりにお金をばらまくみたいなやり方は、政治ではないと思う。

地元自治体のトップは

インタビューに応じる西之表市・八板俊輔市長

住民の生活や地域社会のあり方にも影響が広がる中、地元・西之表市の八板市長は、防衛省との協議を通じて問題の解決を図っていく考えを示しました。

八板市長

ごみの問題、交通・治安の問題、宿泊施設、賃貸物件の不足など、そういう問題がさまざま出てきている。悪影響のないように、ちゃんと協議を密にしてやらなければならない。今後、人の流れも物の流れも急増することが予想されるので、市民への影響がないようにしっかり対応していかなければならない。

八板市長は、基地建設への賛否について、NHKのインタビューに対し「最終的に判断しなければいけないが、今は現実の動きに対応しなければならない」と述べ、改めて明言を避けました。一方で、近く工事開始後初めて馬毛島を視察し、現地の様子を確認したいとしています。

  • 金子晃久

    NHK鹿児島 記者

    金子晃久

    初任地の奈良局を経て 鹿児島局に赴任  去年8月から馬毛島問題を担当 

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