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知的障害者の施設をめぐって 第11回 島田療育センター:地域支援へと広がる活動

2017年02月23日(木)

 

Webライターの木下です。

知的障害者の施設の歴史を資料から振り返る中で、現在の施設の関係者にもお話を聞きました。その中からふたつの施設に関してのインタビューを2回にわたって掲載させていただきます。第11回は、日本初の重症心身障害者施設である「島田療育センター」の木実谷(きみや)哲史院長へのインタビューです。


知られていない重症心身障害児・者施設

 

写真・島田療育センター院長・木実谷哲史さん

島田療育センター院長・木実谷哲史さん


木下
: 相模原の事件があってから、施設のあり方への議論が高まっています。重症心身障害児・者に関しては、全国的には在宅で暮らしておられる方が3分の2はおられると聞いていますが、在宅か施設かを選択できるような状況にあるのでしょうか。

木実谷: たまたま看護師さんや介助する人が確保できて、24時間のケアができるケースはありますが、それは恵まれた方で、どこでもそういう態勢が整うのかと言えば、そこまで環境整備は進んでいません。重症児・者の場合は医療への依存度が他の障害の方よりも高くなります。24時間医療機器を装着していないとダメな方もおられますし、各家庭で個別にやっていくのは至難の業だと思います。ただ、医療的なケアがさほど必要でない方や本人が小さいお子さんであれば、在宅でご両親ががんばって育てられているケースも多いです。

木下: 重症児・者の場合は、「脱施設」というのは難しいのですか。

木実谷: 欧米人が「脱施設」と言った場合に想像するのは、知的障害者施設か精神障害者施設だと思うのです。なぜかといえば、日本のような医療施設と福祉施設が合体した重症児・者施設は欧米にはないからです。日本人でもそのような施設を知らない方は、欧米人と同じようなイメージをもたれていると思います。「施設による隔離は人権侵害だ。施設は解体すべきだ」と言っている方は、医者や看護師が始終せわしなく動きまわって入所者の命を支えている、私どものような施設を思い浮かべてはおられないと思います。重症児・者の家族の方は、「脱施設」とはおっしゃらないと思います。なぜなら、施設は重症児・者の命を守るセイフティー・ネットの役割を果たしているからです。「重症心身障害児の親の会」の方たちは、「自分たちは施設があるからがんばれるんだ」と言っています。
 2010年に発足した障害者制度改革推進会議で「入所施設は人権侵害であり、地域移行させるべき」という意見が多数ありました。国会議員の中にもそのような発言をされた方がおられます。しかし、親の会がすぐさま施設の必要性を訴える署名活動を展開すると、たちまち12万筆もの署名が集まりました。


在宅の人にも施設は必要


木下
: でも、在宅で暮らしておられる人の方が多いのですよね。

木実谷: もちろん、施設入所しないと生きていけないような人ばかりではないですからね。ただ、かなりの人が医療という基盤を必要とする人ではあるので、たとえ在宅で暮らすにしても、施設の役割は大きいものがあります。

木下: 施設の入所者だけではなく、在宅で暮らす人にとっても、施設は重要なのですか。

木実谷: 自分のお子さんに重い障害がある場合、ご両親が障害を受容されるのには時間がかかります。それでも、受容できてがんばっていこうとなると、なるべく自宅で過ごしたいという気持ちになります。とくに小さいうちはそうして育てていこうとします。しかし、例えば、医療費が高くてやっていけないとか、体が大きくなってとても介護が続かないとか、そういう事情が生じたときに、施設は必要不可欠なものとなります。
 また、施設があるからこそ、もうちょっと在宅でがんばってみようかという人もいます。ダメになっても受け皿があるという安心感がありますし、実際に短期間預けるレスパイトで危機をしのいで、在宅での介助を続けることができたという方もおられます。重症児・者の施設は在宅生活を安定させるための大切な役割も果たしているのです。


地域差のある施設事情

 

木下: 施設はいまでも不足しているのですか。

木実谷: 地域によって異なります。都市部では入所待ちの方が多くおられますが、地方では重症児・者でない人を入れて、空きを埋めようとしているところもあります。東北だったらすぐに入れたとしても、東京ではすぐに入れる保証はありません。東京都はもう新たな施設は造らないと言っていますし。
 全国では数千人規模で入所の登録をされている方がおられます。ただ、それはすぐにでも施設に入所したいということではなく、いざというときのために施設とつながっていたいのだと思います。親が高齢になって世話できなくなったと言っても、すぐに施設に入れるわけではありません。とりあえず登録しておいて、少し前倒しになったとしても空いているうちに入所して、施設の生活に慣れてもらおうという考えもあります。ともかく、親の方が先に年を取りますし、場合によっては亡くなることもある。そのことは親が一番わかっています。


発達障害と広域対応が現在の課題

 

木下: いま課題だと感じられていることは何かありますか。

木実谷: 予算や人手が増えたりしたわけでもないのに、やらなければならない仕事の範囲が大幅に増えたことですね。
 まず、発達障害の子どもたちも、私たちの施設の守備範囲に入ってきました。特別支援学校の生徒だけではなく、普通学校の生徒たちも、「発達障害の疑いがあるから、島田で診察してもらえ」と言われて、やってきます。発達障害の発症率は約6%ですから、私たちが治療に当たる重症児よりもはるかに多い人数になります。診察するまで何か月待ちになってしまって、それがいま大きな課題です。
 それと、入所者の対応と外来だけではなく、幼稚園や保育園の支援、訪問診療、訪問リハビリなど、地域支援の活動も行政から求められるようになりました。私たちは入所者をきちんと守ることが最優先ですから、マンパワーを振り分けるのに大変苦労しています。頼まれればやってあげたいという思いも強いのですが、すべてやっていたら財政的にも、組織的にもつぶれてしまいます。
 在宅の重症の子どもは同じ地区に固まって住んでいるわけではないので、時間がかかります。外来ならば、午前中だけで何人も診察できるのに、訪問診療では1人しか診られず、あとは移動だけということだってあります。予算さえつけてくれたら、やれることはたくさんあるのですが、いま大きな岐路に立たされています。オリンピックの報道で、何十億円、何百億円という大きな数字が飛び交っていますが、そのうちの50万円でも100万円でも回してもらえれば、子どもたちのためにやれることは一杯あるのにと思って、歯がゆくて仕方がないです。


木下 真

 

▼関連番組
 『ハートネットTV』(Eテレ)

  2017年1月26日放送 障害者殺傷事件から半年 次郎は「次郎という仕事」をしている
 ※アンコール放送決定! 2017年3月21日(火)夜8時/再放送:3月28日(火)昼1時5分

▼関連ブログ
 知的障害者の施設をめぐって(全14回・連載中)
 第 1回 教育機関として始まった施設の歴史
 第 2回 民間施設の孤高の輝き
 第 3回 戦後の精神薄弱児施設の増設
 第 4回 成人のための施設福祉を求めて
 第 5回 最後の課題となった重症心身障害児・者 1
 
第 6回 最後の課題となった重症心身障害児・者 2
 第 7回 最後の課題となった重症心身障害児・者 3
 第 8回 終生保護のための大規模施設コロニー
 第 9回 大規模コロニーの多難のスタート
 
第10回 政策論議の場から消えていったコロニー

 第11回 島田療育センター:地域支援へと広がる活動
 第12回 のぞみの園:施設から地域へ
 第13回 津久井やまゆり園の創設   (※随時更新予定)
 
 障害者の暮らす場所
 第2回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園‐前編‐
 第3回 日本で最初の知的障害者施設・滝乃川学園‐後編‐

コメント

 お世話をされる方も大変なのはよくわかります大変有難うございます。
 私の子供も重心施設に入所いたしております。親か子かどちらが先に亡くなるか、親同士の話題ではいつも出てきます。沢山の親が子供に思いを残しながら亡くなっていきました。
 施設のサービス内容も年を追うごとに悪くなり、親は親亡き後を考えると大変悲しく辛いです。子供もに精一杯謝って死にます。
 親の中には入所さしたことで満足して、施設に全部お任せにしている人も少なくありません。
 生まれた時から亡くなるまで言語に言い表せない不幸を、この子達が味わいながら生涯を終えることは大変可哀そうです。
現在の医学では生かすことが出来ますが、その後のホローはありません、生かされた事による生涯の苦しみは、本人と家族が一生背負う事になり、それは正直で真面目な人ほど強烈で心身ともに寝ても起きても襲われます。とりとめのない話ですみません親のぐちです。

投稿:yosikun 2017年11月17日(金曜日) 17時37分