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【第2回】発災時 データで命は守れるか ~車データ編~

2022/7/25

10.発災時リアルタイムデータ利活用促進へ プラットフォームは?

 

関本(東京大学):最後の議題にいきます。「発災時リアルタイムデータ利活用に関する提言・論点について」ということで、ここも今後の活動として大事なところです。

 

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捧(NHK):第1回の検討会で諸々意見を出していただきありがとうございました。第1回の議論を踏まえて論点を仮に3つに絞りました。この論点が適しているかなどご意見をいただけないかと思っています。論点の1つは、「人流や車両通行実績などのデータが発災前・発災後に利活用できるようにした方がよいのではないか」。そのための体制の構築であったり資金を用意する必要があるのではないか。

2つ目は、「災害時の個人の位置情報の活用のあり方」について。個人の位置情報のあり方をどうすべきか。

3つ目は、「災害時」の定義決め。ITS Japan様は地震の場合と風水害の場合で発災の定義を決めていましたが、理想で言えば発災前の段階からデータを利活用できる方がよいという視点から、「災害時」をどのように定義すべきか。

こうした論点に関して、訴えていくべき点など、ご意見をいただければと思います。

 

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関本(東京大学):「国には頼らず自分たちで頑張る」という視点も含めて、忌憚なく意見をいただければと思います。

 

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柴山(Agoop):論点1の部分ですが、リアルタイムデータの利活用については話をしていくのですが、各組織のデータプラットフォームがバラバラなんですよね。プラットフォームの共通化・汎用化、一元的に管理するようにしないと、結果としてデータが分散されます。臼田先生の方でも、SIP4Dなどでなるべく統一していこうという考えもあると思います。データの統一する場所がないと、「どこで誰がどう使っていいか」が明確にならないのではないか。そこの議論が必要になると考えています。データは共有化した方が効率的に使えるのは当然であって、ただ個人情報や位置情報の問題もあります。またプラットフォームを一元化しないと、効率的な分析もできないし、ハザードマップや災害対策で必要となる基盤データのフォーマットの標準化をきちんとやらないと、リアルタイムでデータを持っていても適切な活用ができなくなります。活用したくても片手間になってしまう可能性はあるのかなと思います。プラットフォームの統一化はなかなか難しい点ですが、これを「国にしてくださいよ」って言ってもなかなかできないかもしれませんが大きな課題だと思います。

 

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関本(東京大学):特に動的なデータがリアルタイムになってくると、一旦、手で誰かが加工するという話は絶対にないので、「API仕様含めて負荷がかなりかかってきたときにどうするか」とか、どっち側が責任を負うかとかがあるので、国が主導でやるのがいいかどうかは確かにありそうですね。

 

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柴山(Agoop):ここは大企業グループですら難しい問題ですね。実際こういう話を勉強会の中でも、いろいろなデータがあると当然認識して、「リアルタイムデータをすぐにでも活用できる」と。ただデータが統一されていないという部分においては、実際使うとなると課題はかなりまだまだあると思っていますので、「プラットフォームの共有化」、もしくは「共通化」が必要と考えます。

 

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畑山(京都大学):「どっかの企業がやります」となるとなかなか乗り切れないっていう話があるんじゃないかと。僕も昔、ITS Japanさんの話を聞いたときに、「ITS Japanだからできました・提供できました」と聞いたことがあって、非営利の団体が公共のためにがんばりますっていう話じゃないと、みんなが乗ってくるっていうのはなかなかやりにくいんじゃないかなっていう気はしているんですよね。そうなると、一つはISUTのシステムをやられている防災科研さんがやっているような形なのか、AIGIDさんは公共にかなり貢献されるようなグループなので、そういったところが真ん中に立たないと、なかなか皆さんが乗っかれない気がします。

 

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柴山(Agoop):私もそう思います。民間単独でやるのは難しいなと思っています。第三者の非営利団体などを作って、そこにデータを集約しないと、いざというときに本当に活用できなくなってしまう。災害も広域でいろんな種類のデータが日本の場合はたくさんありますので、なるべく共通化していく。まずそこを考えないと、リアルタイムに使いこなせない課題がどうしても出てきてしまいます。そのためには民間には寄らない方がいいと思います。予算は国が出すとしても、第三者の団体を作っていく流れがどうしても必要。防災科研さんになるのか、非営利団体を作られるのかと思っているのですが。

 

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臼田(防災科学技術研究所):課題認識は全く同一です。これは「国がやればいい」となると一方で「国が吸い上げか」という話になりますし、「民間がやる」というとまた別の問題がでる、ということで、両方の課題を上手に吸収できるような組織と、ルールと、そしてツールという3つが必要だと思っています。そのあたりの議論は今までも何度も出ているのですが、最後のゴールまで行き着かないままで、担当が変わってしまったり、期日が過ぎてしまったりで、何度もとん挫してしまっている部分だと思います。そこはめげずに言い続けて、私ももちろん、そこには絶対関与していかないといけないと思っていますので、ぜひこの検討会でも論点に挙げるべきですし、もっと明確に書いていいと思うんですよね。リアルタイムのデータの収集・統計処理ができればいいということだけではなくて、それをやるためには、もっと基盤的なデータも必要だし、リアルタイムではないけれども確定したようなデータも必要、等ですね。

例えば、きょう先ほど質問したかったのは、二瓶先生の研究で、当時の交通規制の情報と重ね合わせたら、どういう風になるのかというのをすごく関心を持ちました。当時も何かしら規制はあったのではないか、もしくはなかったのか。規制があったときに車両通行がどう動くのかというのは重要になってきますし、規制の情報もリアルタイムでどこまで収集・集約できるのか。それとリアルタイムデータ、例えば今回のような交通流や人流がどう統合処理ができるのかと考えると、やっぱりリアルタイムデータにもレベルがあるのではないか。観測レベルでできるもの、報告レベルであがってくるもの、リアルタイムで全く上がってこないもの。レベルが全部違う。したがって、「だからリアルタイムだけやればいい」っていう話には絶対にならないので、静的なデータから動的なデータ、動的なデータも異なるレベルのものを一括して利用できるプラットフォームの構築が必要であるというのは論点1として必要ではないかと私も思います。

 

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関本(東京大学):防災科研さんも民間と合弁会社を作り始めていますよね。

 

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臼田(防災科学技術研究所):国研だから民間のことを知らない状態で、今回の検討会のような議論にいてはいけないと思っていますので、ビジネスに使えるものはビジネスで使えるようにしていけばいいし、ビジネスには使わないけれども、民間同士、あるいは官民で一緒に使えるものもあるべきであって、そういうことを議論するには我々ももっと民間に踏み込んでいかないと思っていますので、経験を積ませてもらえればなと思っています。

 

 

11.「災害時」だけではダメ 「復旧時」「平時」の活用も 

 

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村上(損害保険ジャパン):こういうデータの活用を考えたときに、リアルタイムのデータの話が話題に上がることが多いのですが、発災直後だけではなくてですね、災害の復興時にもこういったデータって非常に役に立つと思っています。論点で、「災害時」の定義決めとも関連すると思いますが、発災直後、命を守るフェーズのときと、ふつうの生活に戻るときのフェーズを分けて考えた方がいいのかなと思っています。きれいには分けられないと思います、シームレスになるかと思いますが。48時間以内、人の命を守るフェーズは瞬間瞬間のデータが、正確でなくても必要であったりするでしょうし、数日経って、道路が通れる・通れない、生活を復興させるという段階ではもっと正確なデータが必要となると思います。

 もう1つ、民間団体、国、非営利団体といったときに、非営利団体であっても、通常時にどうやって運営を続けていくかが非常に大事だと思っています。企業の参画の費用だけで賄おうとするとですね、費用負担がどうなるのか。企業も営利団体ですので難しいところも出てくると思っていまして、「ビジネスに使える」というのはまさにそうで、災害時のビジネスだけではなくて、通常時のビジネスも考えられるような、そういうプラットフォーム。国への提言とは分けて、考えるといいかなと思いました。

 

関本(東京大学):ありがとうございます。ビジネスモデルの面で、平時にも使えるものですね。

 

12.平時のデータなくして 分析は不可能

 

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畑山(京都大学):論点1についてなんですが、収集・統合できたら、生かせるというのは難しいとまだ思っています。使える時代がくることを望んでいますが、おそらくその前には、分析をかけて、予測をかけた上で、予測の信頼性を考えながら、「強く言える話」と、「強くは言えないけど示唆に留まる話」とに分ける。

例えば「災害に対応する機関だけが知っていればいい話」に分けるなどしていかないといけないと思います。そうすると、プラットフォームで足すだけではなくて、データを分析するフェーズと、予測モデルを作るフェーズもいると思っています。人流を使ってみたこともありますが、熊本地震でもモバイル空間統計だけの情報ではわからなかったんですが、最後に確定させるのに、Twitter分析を使ったら確定できたとかですね、いくつかのデータをストーリーで繋げて、補完させていくと、データの信頼度が上がっていくことがあると思うので、発災時にパッと合わせるだけではなくて、「どういう風に合わせていくか」という検討も必要かと思います。

過去にやってみた感覚からいくと、予測の話をしていくと、その時だけのデータじゃ無理で、比較するための平常時のデータを用意して、差異を見ながら、特殊な状況になっているっていうのを見つけるのが一つの方法だと思っています。だとすると、「災害時だけリアルタイムデータを活用できる」ではなくて、ドライブレコーダーみたいに、何か事が起きたら、1か月前とか、ここ1年分のデータが全部統合されてきて使えるようになると、違いを発見して予測に回すことができると思うので、「生かせる社会へ」に行くためには、統合の体制は最低限必要なんですが、プラス、裏側で分析・モデル作りの体制も必要と思いました。

 

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柴山(Agoop):おっしゃる通りですね。防災科研さんと組みながら我々がやっているのも、平常時のデータを、過去1~2年の休日・平日の人の流れを平均値で整備してます。そこから、異常が発生したときにAIで異常検知をする仕組みを作りました。広範囲における異常ポイントを人間の目でデータサイエンティストが分析するのは難しい状況です。分析をするときは、過去の情報と比較して、条件は同じでも季節変動もありますし、曜日変動もあるし、時間帯変動もあるので、全部平均値をとって、その状態から、「今起きていることが異常であるか」「正常であるか」というのをAIで判断することをやっています。またこのような平均値データが蓄積されていないと、研究でも使えないし、リアルタイムの分析のときも「ここが異常だ」ということを、データサイエンティストが全国くまなく500mメッシュ見るのはかなり時間がかかります。そういったことも考えていかないといけない。

あと、平常時の使い方。災害時だけで分析すると、組織から見ると「コストセンター」になります。そこに多くのお金をかけられない。すごくお金がかかるという問題があります。そこでお金を稼ぐ「プロフィットセンター」が必要になります。その一つが「観光」になります。観光分析をするとか、公共交通をいかに使うかというのを、普段使いの中から観光分析したり、公共交通の最適化を分析したりということで収益につながる活用をして、いざという時は災害対策で同じ仕組みを使う。ツールにも慣れなきゃいけないので。そういったところをよく考えた方がよいと思います。

 

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関本(東京大学):「データがくるだけじゃしょうがない」というのはおっしゃる通りと思うので、モデリングや、過去のデータの扱いなど、複合的に考える必要はありそうですね。

目 次

1.   車の通行データ浸水場所がわかる?

2.   車の平均速度がいつもと違う」 そこに異変はあるか

3.   「データ量」が課題 少ないサンプルは誤解のもとに

4.   発災時の車データ利活用 東日本大震災が大きな契機に

5.   発災時通行実績データ提供開始 トリガーはいつがベスト?

6.   発災時利活用の研究・分析 データ提供の促進がカギに

7.   悪用・乱用の懸念も 最適なデータ連携の道とは

8.   発災時のデータ集積基地構築へ 模索が続く

9.   令和2年7月豪雨×熊本県 地図上データ可視化の試み

10.  発災時リアルタイムデータ利活用促進へ プラットフォームは?

11.  「災害時」だけではダメ 「復旧時」「平時」の活用

12.  平時のデータなくして 分析は不可能

13.  水道・電気・ガス 生かせるデータは多様に

14.  「災害がこれから起こるかも」時から データ提供は可能?

15.  消防現場の視点 「発災後72時間のデータ活用に大きな期待」

16.  誤った判断のリスクも 慎重な検討を

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