北海道 鈴木知事 観光船事故受け救助体制強化を要望 飽和潜水とは?

知床半島沖で観光船が沈没した事故をめぐって、北海道の鈴木知事は斉藤国土交通大臣に対して海上保安庁のヘリコプターを増強するなど救助体制の強化を求めました。

知床の観光船の事故があった海域を含む道東と道北地域は海上保安庁のヘリコプターが1時間以内に到着できないエリアがほとんどで、緊急時の救助体制の在り方が課題となっています。

北海道の鈴木知事は5月17日、斉藤国土交通大臣を訪ね、海上保安庁の救助体制の強化を求める要望書を手渡しました。

ヘリコプターや上空から人命救助にあたる機動救難士を増強することで、すべてのエリアで1時間以内に救助が到着できる体制を作ることを求めています。

このほか、事故対応にあたっている地元の自治体や捜索活動に参加している漁業者に対して財政支援を行うことや、再発防止のための安全対策の検証と事業者への指導を行うことなどを要望しました。

面会後に鈴木知事は「大臣からは『事故を受けて強い問題意識を持ち前向きに検討したい』と話があった。働きかけを続けたい」と述べました。

国土交通省は今回の要望も踏まえ、具体的な救助体制について検討を進めることにしています。

知床観光船沈没 運航管理の担当者 “事故当時は不在”

北海道の知床半島沖で観光船が沈没した事故で、国土交通省は、事故当時運航会社には運航管理の担当者がいなかったことを明らかにしました。
責任者の社長が外出していたうえ、社長が不在の場合に運航を管理する「補助者」に観光船の船長が選任されていて、安全管理体制がそもそも機能していませんでした。

これは17日に開かれた立憲民主党の事故検証チームの2回目の会合で、国土交通省が明らかにしました。

国土交通省によりますと、観光船を運航する「知床遊覧船」で運航管理の責任者を務める桂田社長が事故当時、外出中で営業所を不在にしていたことが明らかになっていますが、この場合、社長に代わって運航管理を担う「運航管理補助者」として選任されていたのは豊田船長1人だけだったということです。

桂田社長は、乗客の家族に行った説明の中で「運航管理補助業務を事実上担当できる社員はいた」としていましたが、営業所に運航管理を担える社員は誰もおらず安全管理体制がそもそも機能していませんでした。

国土交通省によりますと、去年6月の特別監査の際は会社の合わせて5人が運航管理補助者として選任されていましたが、その後豊田船長を除く4人はいずれも去年11月に退職したということです。

国土交通省は現在行っている特別監査の中で、会社の安全管理体制について詳しい調査を続けています。

立民 大串氏「社長の資質確認していれば事故防げていたのでは」

立憲民主党の事故検証チームの座長を務める大串博志衆議院議員は記者団に「運航会社の社長については、国土交通省が去年、会社の特別監査をおこなった際『安全統括管理者としてもっと自覚を持ってほしい』とまで指摘していたにもかかわらず、その後改善が図られたか国土交通省は確認せずにここまで来てしまった。社長の資質も含めてきちんと確認していれば事故は防げていたのではないか。国土交通省の対応が十分だったのか国会審議の中で明らかにしていきたい」と述べました。

知床 観光船事業者の緊急安全点検 3事業者 12件の不備見つかる

知床の観光船の事故を受けて、国土交通省は、先月から全国の観光船の運航事業者に緊急の安全点検を行っていて、17日は北海道運輸局が事故を起こした船と同じ斜里町ウトロ地区で観光船を運航している4つの事業者を対象に点検を実施しました。

点検では、安全確保のために守るべき事項を記した「安全管理規程」に基づいた管理体制の状況や、運航を判断する基準が守られているかなど、事業者に聞き取りをしたほか、船に立ち入って確認したということです。

その結果、小型の観光船を運航する3つの事業者で、合わせて8項目、12件の不備が見つかったということです。

具体的には、定点連絡の記録簿を作成していなかったり、運航を中止する基準を乗客に対して公表していなかったりしたということです。

北海道運輸局の法月一博首席運航労務監理官は今後、改めて法令に基づく監査を実施し、それまでは運航の自粛を求めたことを明らかにしたうえで「詳細な確認を行って法令および安全管理規程の順守を確実なものにしていく」と話しました。

知床小型観光船協議会「しっかり受け止めて対応」

北海道運輸局による緊急の安全点検で不備が見つかった、3つの事業者で作る「知床小型観光船協議会」は「今回の点検で指摘された事項をそれぞれの会社でしっかり受け止めて対応し、安全のためにできることを考えたうえで運航再開につなげていきたい」とコメントしています。

民間作業船が到着 「飽和潜水」での捜索とは

知床半島の沖合で乗客・乗員26人を乗せた観光船「KAZU 1」(19トン)が沈没した事故は、乗客14人が死亡、今も12人の行方がわかっていません。

水深およそ120メートルの海底に沈んだ観光船に取り残された人がいないか調べるため、海上保安庁から依頼を受けた民間のサルベージ会社は「飽和潜水」と呼ばれる深い海に対応できる方法で捜索を行うことにしています。

作業に当たる潜水士たちを乗せた作業船「海進」が17日午前9時すぎ、タグボートに引かれて沈没現場に近い網走港に到着しました。

第1管区海上保安本部によりますと、これまで現場の海域で無人潜水機による捜索に当たっていた技術者が「海進」に乗り込み、飽和潜水に向けた打ち合わせを行ったということです。

また、3人の潜水士たちが深海の高い水圧に対応できるよう加圧タンクに入って体を慣らすなど準備を整え、18日夕方にも現場海域へ向かって19日の午後から沈没した船内で捜索を行う予定です。

「飽和潜水」による捜索は2日程度かけて行われる予定で、その後は船の引き揚げに向けた調査も進めることにしています。

一方、海上保安本部や自衛隊、それに警察は知床半島周辺の海域や陸側の海岸線などで17日も捜索を続けていますが、午後2時半現在、新たな手がかりは見つかっていないということです。

国交省の木村政務官が作業船を訪問

17日午後4時半ごろ、国土交通省の木村次郎政務官が作業船を訪れ、乗組員2人から作業の進め方や潜水士が深海に潜るための機材の説明を受けたほか、乗組員を激励したということです。

その後、取材に応じた木村政務官は「飽和潜水については、あさって午後、作業に着手できる見通しと聞いた。船内に行方不明者がいないか確認するほか、船体が引き揚げに耐えうるか調査をするのが目的だ。引き揚げたら損傷状況を確認し、原因究明や再発防止策につなげていきたい。大事な場面でもあり、潜水士の皆さんには安全を第一にしながらミッションを果たしてほしい」と話していました。

「飽和潜水」とは

「飽和潜水」は通常の潜水と比べて、より深い海でより長く作業ができるようにする潜水の方法で100メートルを超える深海でも作業が可能となります。

「飽和潜水」の一般的な手順では、まずダイバーは船上にある加圧タンクに入り、高い圧力をかけた状態で一定期間を過ごします。

潜水作業に伴って体に異常が起こるのを防ぐための準備で、時間をかけて深海の高い水圧に体を慣らしていきます。

準備が終わるとダイバーを乗せた潜水用のカプセルを深海におろしていきます。

そして目標の深海に達したらダイバーはカプセルの外に出て作業します。

作業が終わった後は再び加圧タンクに戻って少しずつ圧力を減らしていき、体がもとに戻るためには水深およそ120メートルの場合4日から5日ほどかかるということです。

捜索を行う会社 3年前にも「飽和潜水」の作業

海底に沈んだ船内で潜水士による捜索を行う民間のサルベージ会社は、3年前にも水深120メートルの海底で「飽和潜水」による作業を行っています。

日本潜水協会の会報「潜水」によりますと、民間のサルベージ会社は3年前の2019年5月、韓国・チェジュ島(済州島)沖の水深120メートルに沈没した貨物船から油を抜き取るため、作業船「海進」で「飽和潜水」による作業を行いました。

ダイバーは船上にある「減圧室」という加圧タンクに入って深海の高い水圧に体を慣らしたあと、3人のチームで潜水用のカプセルで海底におり潜水作業を行ったとしています。

潜水作業は、午前午後合わせて一日6時間から7時間ほど行われ、潜水作業の時間は合わせて13日間で83時間に上ったとしています。

作業の終了後、再び「減圧室」に入り4日間かけて体をもとに戻していき、減圧症などの発症はなかったということです。

飽和潜水では、別の潜水の方法と違い、ダイバーが水中での作業時間の制約を受けないため、潜水時間を気にすることなく作業に当たることができ、飽和潜水の利点が発揮されたケースとして紹介されています。