性同一性障害 性別変更の手術要件 最高裁 違憲判断 今後議論は

性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには生殖機能をなくす手術を受ける必要があるとする法律の要件について、最高裁判所大法廷は25日、憲法に違反して無効だと判断しました。今後は法律の見直しの議論がどのように進むのかが焦点となります。

性同一性障害の人の戸籍上の性別について定めた特例法では、生殖機能がないことや、変更後の性別に似た性器の外観を備えていることなど複数の要件を満たした場合に限って性別の変更を認めていて、事実上、手術が必要とされています。

このうち生殖機能をなくす手術を求める要件について、最高裁判所大法廷は25日「憲法が保障する意思に反して体を傷つけられない自由を制約しており、手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」として、憲法に違反して無効だという判断を示しました。

性同一性障害特例法の要件について最高裁が憲法違反と判断したのは初めてで、今後、国会は法律の見直しを迫られることになります。

法律の規定を最高裁が憲法違反と判断するのは戦後12例目で、過去の判断ではその後、いずれも法律が改正されています。

法務省は、この特例法が議員立法として提出されたことを踏まえ「法改正の議論を内閣が行うのか立法府が行うのか調整が必要だ」としていて、改正案の提出は早くても来年の通常国会になるとみています。

性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は改正の議論について「手術を求める要件を単に削除するだけなのか、削除に代わるいくつかの要件を出すのか、またはほかの要件も含めた検討が進められるのか、展開によって変わるだろう」と話していて、見直しの議論がどのように進むのかが焦点となります。

一方、最高裁は手術無しで性別の変更を認めるよう求めた当事者の申し立てについては、変更後の性別に似た性器の外観を備えているというもう1つの要件について審理を尽くしていないとして、高等裁判所で審理をやり直すよう命じました。

今後、高裁がどのような判断を示すかも注目されます。

決定のポイントは

最高裁判所大法廷は25日の決定で「社会の状況の変化」に注目し、4年前の2019年の別の人の申し立てとは逆に「要件は憲法に違反する」と判断しました。

決定のポイントです。

【親子関係の問題】

4年前に最高裁が指摘したのは、手術の要件をなくした場合、変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると社会に混乱が生じかねないということでした。
これについて25日の決定は「生殖機能をなくす要件がなかったとしても、親子関係の問題が生じることは極めてまれだと考えられる」としたうえで、こうした問題は「法令の解釈や立法措置などで解決できる」と述べました。

【社会の理解】

また、2004年に特例法が施行されたあとの社会状況について「施行から19年がたち、これまで1万人をこえる人が性別変更をしている中で性同一性障害の人に関する社会の理解も広まりつつある。生活上の問題を解消するための環境整備も行われている」として、子どもが生まれて『女である父』や『男である母』が存在することになっても、社会が急激に変化するとまでは言い難いという考えを示しました。

【医学的知見の進展】

さらに、特例法が制定された当時に比べ医学的な知見が進んでいることも考慮しました。
決定は「どのような治療を必要とするかは患者によって異なり、手術を受けたかどうかによって決まるものではない。要件を課すことには医学的に合理性がない」と述べ、特例法の要件は「手術を必要としない人に対して手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」と指摘しました。

【諸外国の状況】

さらに「生殖能力を失っていることを性別変更の要件としない国が増加している」ことも挙げ、生殖能力をなくす要件は、過剰な制約になっているとして憲法に違反して無効だと判断しました。
一方で、特例法が定める“もう1つの手術要件”とも言われる「変更後の性別に似た性器の外観を備えている」という要件について検討がされていないとして当事者の性別変更の申し立てを認めるかどうかは、高等裁判所で改めて審理する必要があるとしました。