【更新・解説】旧統一教会の「解散命令請求」文部科学省

旧統一教会をめぐる高額な献金やいわゆる「霊感商法」の問題を受け、文部科学省は、宗教法人法に基づく質問権の行使や、被害を訴える元信者らへの聞き取りなどを通じ、献金集めの手法や組織運営の実態などの調査を進めてきた。13日午前、教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求した。
そもそもの経緯、政府内の議論、政治と宗教の関係の今後はどうなるのか?解説していく。
※解散命令請求を受けて記事を更新しました。

Q.これまでの政府内の議論は?

A.政府は当初、信教の自由を保障する観点から、解散命令請求には慎重な立場をとっていた。

しかし、被害の訴えが相次いで寄せられたことなどを踏まえ、教団の実態を把握するため、質問権の行使に踏み切った。

実はことし6月から7月ごろにかけて、政府内で次のような意見が出て請求の検討が行われた。

「請求に足りる情報はおおむねそろった」(政府内)

しかし、慎重意見も出て、結局見送られた経緯がある。

「しっかりした証拠をそろえるため、さらに時間をかけようと判断した」(政府関係者)

「政治判断を排して、ぎりぎりまで法と証拠に照らした対応を追求した」政権幹部)

質問権に加えて、元信者の聞き取りや過去の裁判記録などを綿密に精査し、請求を行う上で十分な証拠がそろったと判断したのだとみられる。

Q.旧統一教会をめぐる問題、そもそもの経緯は?

A.旧統一教会をめぐる問題は、去年7月に起きた安倍元総理大臣の銃撃事件をきっかけに浮き彫りとなった。

逮捕された山上徹也被告が、母親が多額の献金をしていた旧統一教会に恨みを募らせた末、事件を起こしたなどと供述したためだ。

被害者救済に取り組む弁護士などからは、教団への解散命令を裁判所に請求するよう政府に求める声が上がった。

被害者救済に取り組む弁護士ら

「旧統一教会は『教会改革』の方針を発表したが、過去の被害に対する言及が全くないなど信用できず、自浄作用は期待できない」

これに対し、政府は当初、憲法に定められた信教の自由を保障する観点から慎重な立場をとっていた。

国会内で開かれた野党の会合で、文化庁の担当者は「旧統一教会の役職員が刑罰を受けた事案を承知しておらず『解散命令』の請求の要件を満たしていないと考えている」と述べた。

Q.初の「質問権」行使に至った経緯は?

A.この問題や安倍元総理大臣の「国葬」などを背景に岸田内閣の支持率は下落。

安倍元総理大臣の「国葬」

さらに、立憲民主党や共産党が、教団をめぐる問題を国会で追及する構えをみせた。

こうした中、去年10月17日に開かれた衆議院の予算委員会。

岸田総理大臣、「質問権」を行使することを表明

岸田総理大臣は、宗教法人法に基づく「質問権」を行使することを表明した。

「宗教法人法に基づき『報告徴収』と『質問権』の行使に向けた手続きを進める必要があると考え、 文部科学大臣に速やかに着手させる」

宗教法人に対する質問権の行使は、平成8年にこの規定ができて以来、初めてとなる。

文部科学省は、専門家による会議を設置し、質問権の行使にあたっての基準をまとめた。

文部科学省看板

そして文部科学省は11月、学識者や宗教団体の幹部などで構成する宗教法人審議会を開き、質問項目の案について諮問。
教団が持つ財産や収支、組織の運営などについての報告を求めるなどと説明し、その日のうちに審議会から「質問権」の行使は「相当」だとする答申が出された。

そして11月22日、文部科学省は教団に対し、法人の組織運営や収支、財産に関して報告を求める書類を送り、1回目の質問権を行使した。

Q.その後、どんな動きがあった?

A.12月には教団の被害者救済を図るための新たな法律が成立し、法人が霊感などの知見を使って不安をあおり、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止することなどが定められた。

被害者救済を図るための新たな法律の説明。法人が霊感などの知見を使って不安をあおり、寄付が必要不可欠だと告げるなど、個人を困惑させる不当な勧誘行為を禁止することなどが定められた。

文部科学省は、これまでに質問権を7回にわたって行使し、▽組織運営や▽財産・収支、▽献金など、500あまりの項目について報告を求めた。

教団側の回答は、1回目の「質問権」に対しては段ボール8箱分に上ったが、最近はレターパックなどに収まるほどになってきていて、関係者によると、信教の自由などを理由に教団側が回答を拒否した項目が100以上あったという。

また文部科学省は▽教団と交渉してきた弁護士や▽被害を訴える元信者などへの聞き取りも行い、献金集めの手法など教団の実態について調査を進め、解散命令請求の要件にあたるかどうか、慎重に検討を続けた。

図で説明。文部科学省は、これまでに質問権を7回にわたって行使。行政罰の1つである「過料」を科すよう東京地方裁判所に通知。

ことし9月には、質問権の行使に対し、教団が適切に回答していないとして、行政罰の1つである「過料」を科すよう東京地方裁判所に通知した。

そして、政府内での検討の結果、教団の行為は宗教法人法の解散命令の事由にある「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に該当するとして、教団の解散命令を裁判所に請求する方向で最終調整を進めていた。 

Q.7回の質問権行使、政府の受け止めは?

A.質問権といえども強制力があるわけではないので、教団が十分に答えるか、当初から懸念はあった。実際、次第に回答する項目が減っていったということで、ある政府関係者は次のように話す。

「政府側は丁寧な手続きを踏んできたが、教団側の対応は不誠実そのものだった」(政府関係者)

先月、教団に対し、行政罰の1つである過料を科すよう裁判所に通知したのも、教団の不誠実な対応を明らかにし、請求に向けた環境を整える狙いがあったとみられる。

Q.教団の解散命令の請求、具体的にどうなるのか?

A.文部科学省は12日午後1時から、学識者などによる宗教法人審議会を開催。
盛山文部科学大臣は、教団の解散命令を裁判所に請求する方針を明らかにした。

盛山文部科学大臣、教団の解散命令を裁判所に請求する方針を明らかに。

この中で盛山大臣は「およそ1年間にわたって慎重な議論を積み重ねていただいた。この間、文化庁は 審議会に諮問した『報告徴収・質問権』の行使や、170名を超える被害者などへのヒアリングを通じ、情報収集し、詳細に検討してきた。所轄庁としてはこの結果を踏まえ、宗教法人法に基づく解散命令請求を行う考えだ」と述べた。

盛山大臣は、審議会が終了したあと、臨時の記者会見を開き、審議会の結果、教団に対し解散命令請求を行うことについて、「相当である」と全会一致の意見だったとして、教団に対する解散命令の請求を正式に決定したと明らかにした。
その上で、13日午前、教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求した。
解散命令の申し立て書を、質問権の行使などで集めたおよそ5000点、20箱分の証拠とともに提出し、裁判所に受理されたということだ。

行政機関が法令違反を根拠に請求するのはオウム真理教などに続いて3例目で、民法上の不法行為が  根拠となるのは初めてだ。

今後は裁判所が文部科学省と教団の双方から意見を聴いた上で解散命令を出すか、判断することになる。
解散命令が確定した場合、宗教上の行為は禁止されないが、教団は宗教法人格を失い、税制上の優遇措置が受けられなくなる。

Q.解散命令を請求する理由、具体的には?

A.理由について盛山大臣は、「教団は遅くとも昭和55年頃から、長期間にわたって多数の方々に対しし、自由に制限を加え正常な判断が妨げられる状況で多額の損害を被らせ、生活の平穏を妨げた」などと述べた。
さらに「多くの人に多額の損害を被らせ、その親族を含む生活の平穏を害する行為をし、教団の財産的利得を目的として、献金の獲得や物品販売にあたり、多くの人を不安または困惑に陥れ、その親族を含め財産的、精神的犠牲を余儀なくさせ、生活の平穏を害する行為をした」と述べた。
そして「宗教法人法81条1項1号及び2号前段の解散命令事由に該当するものと判断した」と述べ、解散命令の事由の▼「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や▼「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」に該当すると説明した。  

Q.旧統一教会側はどのように主張しているのか?

A.旧統一教会は、教団の活動には国が主張するような組織性、悪質性、継続性はなく、解散命令の要件を満たさないと真っ向から反論している。
12日、見解を発表し、「政府がこのような重大な決断を下したことは痛恨の極みです。私たちは解散命令を受けるような教団ではないと確信している」と強く批判し裁判で法的な主張を行う方針を示した。

Q.政治の側ではどんな動きが?

A.請求後の政府や各党の対応だが、立憲民主党や日本維新の会は、被害者の救済にあてられるよう、教団財産の保全を可能とする法案を次の臨時国会に提出したいという考えを示している。

政府は、被害者の救済に向けたいっそうの取り組みは必要だと認識していて、与野党の議論を見守る姿勢だ。今後の国会で焦点の1つとなる見通しだ。 

Q.政治と宗教の関係、今後は?

A.自民党は党の運営方針を改め、所属議員に、教団との関係をたつよう求めた。
先の内閣改造にあたって、岸田総理は、現在、教団との関係を有していないことを前提に起用したと話している。

一方、先に行ったNHKのアンケートでは、地方議会で、自民党議員が教団の信者だと公表している議員と同じ会派を組むケースも明らかになった。 
専門家からは、方針が本当に徹底されるのか懸念の声も出ている。
政治と宗教の関係について、今後も注視していく必要があると言える。

政治部記者
今村 亜由美
2009年入局。文部科学省を担当。
政治部記者
小口 佳伸
2002年入局。官邸サブキャップ。札幌局、長野局、首都圏局での経験も。