政権と連携?野党結集は?
どうする連合


労働組合の中央組織・連合。
いま、その立ち位置が問われている。
岸田政権は、取り込みを図ろうとしてか接近。
支援を受ける野党は、立憲民主党と国民民主党の間に溝ができている。
連合はどうするのか。
(森田あゆ美、高橋路)

※記事の最後で動画をご覧になれます。

芳野会長続投

「労働者や生活者のための運動を続け、すべての人にとって力となり信頼される存在となるよう精いっぱい取り組んでいく」

連合会長に再任された芳野友子

10月6日、連合の定期大会で会長に再任された芳野友子は、2期目に入ることになった。

連合初の女性会長として、この2年間、賃上げや、ジェンダー平等などに向けて尽力してきた芳野。ことし3月には、8年ぶりとなる政府と経済界、労働界の代表による「政労使会議」を実現した。

今回、インタビューで、会長として何を目指すのか、直接聞いた。

連合会長 芳野友子
連合会長 芳野友子

「今年の春闘では、賃上げは30年ぶりの高水準だったが、それ以上に物価が上昇している。実質賃金は上がらない状況なので、来年以降、賃上げをどうしていくのか具体的に考えたい。また、会長就任にあたりジェンダーの視点を連合のすべてに浸透させると申し上げたが、経済界や政治の分野でも女性の参画を進めていけるよう積極的に発信したい」

一方で、芳野は自民党本部で開かれた会合に出席したり、副総裁の麻生太郎ら自民党幹部と会食したりして波紋を広げるなど、懸念の声も出ている。

「自民党に近すぎるのではないか」(連合幹部)

岸田政権との距離の近さが指摘されていることについては。

「報道で距離が近いと言われたが、労働組合も政府や使用者と対話を重ねながら課題を解決していくことが国際的なレベルになっている。積極的に対話は強化していきたいと思っているが、その姿勢がもしかすると近づいているように見られてしまうかもしれない。ただ、決してそうではなく、連合としてこれまで通り政府や各政党との関係も同じ距離を保っていく。決して近づいていると思っていない」

深まる溝

連合は、立憲民主党と国民民主党の2つの野党を支援している。
定期大会で決定された運動方針にも、「立憲民主党と国民民主党に所属している議員を中心に、働く仲間・生活者の立場に立つ政治勢力の結集・拡大を目指す必要がある」と明記している。

連合看板

連合は、1989年に官公労系の旧総評(日本労働組合総評議会)と民間産別主体の旧同盟(全日本労働総同盟)などが一緒になって誕生した労働組合のナショナルセンターだ。
日本の労働運動をけん引し、働く人にとって重要な社会保障制度や経済政策などでも積極的に声をあげ、政治にも深く関わってきた。

2009年 連合会長・高木剛と鳩山首相(当時)

かつては、民主党最大の支持団体として自民党と対じし、当時会長の高木剛のもと2009年の政権交代を後押しした。しかし、民主党政権は3年余りで終わりを迎え、2017年の希望の党騒動などを経て、旧民主党勢力は、立憲民主党と国民民主党に分裂した。

「連合が割れないためにも1つの政党になることが望ましい」(産業別労組幹部)

連合内部からは、かねて立憲民主党と国民民主党が合流し、支持政党が一本化されることを求める声がある。
ただ、両党はここ数年、憲法改正への取り組みや原発の再稼働を含むエネルギー政策などをめぐって溝が深まっている。

国民民主党代表 玉木雄一郎

特に国民民主党の代表・玉木雄一郎は、立憲民主党と距離を置き、政府・与党と協調する姿勢が目立つ。
去年の通常国会では、政府の当初予算に賛成する、野党として極めて異例の対応を取り、連立政権入りの可能性までささやかれている。

このため、一本化には、連合内部から、諦めに似たような声も聞かれる。

「衆議院選挙を経ないと次のステップには行けない」(産業別労組幹部)

衝撃の“補佐官起用”

こうした隙を突くかのように、岸田政権はこのところ手を打ってきている。
ことし9月、連合に衝撃が走った。
連合に加盟する産業別労働組合「電機連合」出身で、国民民主党で副代表を務めた元参議院議員の矢田稚子が総理大臣補佐官に起用されたのだ。

元参議院議員の矢田稚子が総理大臣補佐官に起用

連合幹部も直前まで、この動きを把握しておらず、情報収集に追われたという。
経済産業大臣の西村康稔が、矢田の所属するパナソニックに直接、掛け合ったとの情報が駆け巡り、連合内部では動揺が広がった。

「出身労組はパニックになっているのではないか」(連合幹部)

「じわじわと外堀が埋まってきている」(産業別労組幹部)

矢田は、すでに国民民主党や電機連合を離れ、パナソニックに戻っていたため、政府は、あくまで一民間人を起用したと強調した。
しかし、額面どおり受け取る向きは少ない。与野党には、岸田政権が連合の取り込みとともに、野党の分断を狙っているのではないかという見方が広がった。

「野党の切り崩しに違いない。今後に影響が出ないわけがない」(立憲民主党議員)

「完全に官邸が連合を取り込みにかかっている」(日本維新の会幹部)

「ちょっと露骨なくらいのやり方だ」(自民党幹部)

連合はおよそ2週間後の9月28日に異例の見解を発表。
矢田はもともと仲間だが、「毅然とした態度で政府に対応していく」と記した。

連合の見解

なぜわざわざ見解を発表したのか。芳野に聞いた。

「矢田さんは就任の時点で所属企業の一社員であり、政府から会社に要請があり、ご本人も承諾された。ただ、そうは言っても、国民民主党の国会議員だったことがあり、多くの人から臆測や心配されているので、経過を含めて連合としての見解を出した。矢田さんとは20年来の同志であり、友人でもあるが、立場があるのでそれぞれ与えられた役割をこなしていくことになるのではないか」

16年ぶりの総理出席

しかし、さらに岸田政権は次の一手に出た。

連合の定期大会

10月5日、連合の定期大会初日、総理大臣の岸田文雄が出席したのだ。

自民・公明両党の連立政権の総理大臣としては、16年前、衆参で多数派が異なる、いわゆる「ねじれ国会」に苦しんでいた総理大臣、福田康夫が出席して以来のことだ。

連合の定期大会に出席した岸田首相

「賃上げの大きなうねりを持続的なものとし、地方や中堅・中小企業にまで広げていかなければならない。賃上げ、そして人への投資による経済の好循環を実現するため、引き続き皆さま方とコミュニケーションを密にとりながら全力で取り組んでいく」

岸田は、労働界とも連携して、重要政策に掲げる持続的な賃上げの実現を目指す考えを強調した。ことし4月には、連合のメーデー中央大会に総理大臣として9年ぶりに出席。連合と足並みをそろえる場面が目立っている。

これに対し、連合内部では平静を装うような声が多い。

「政府代表として招待したもので、来てくれと言っておいて、わざわざ断る理由はない」(連合幹部)

しかし、矢田の補佐官起用に続く、総理大臣の連合大会出席に、次のような見方も出ている。

「カードを次々と切り、どんどん押し込まれている」(別の連合幹部)

政権か野党か

芳野は、岸田政権にどう臨むのか。

連合会長 芳野友子

「政府とは今までと距離感は変わっていない。政府も野党も経営者団体も、賃上げをしやすい環境づくりの機運を高めていくことが非常に重要だ。政策実現は是々非々だ。共産党を除く主要政党には『政策・制度要請』を日常的に行っており、その中で、連合の考え方に理解・協力していただけるところとは積極的に関わっていきたいというスタンスだ」

一方で、運動方針にも明記された「働く仲間・生活者の立場に立つ政治勢力の結集」のため、連合はどう動くのか。

「立憲民主党と国民民主党にそれぞれ組織内議員がいるので、議員を通じて連合の政策を実現し、その取り組みを強化していくことになる。立憲民主党と国民民主党は野党の側にいるが、もっともっと力をつけて、政権に対峙できるだけの力をつけていっていただき、その先には政権交代を目指していくことも重要だ」

あくまで野党支援に軸足を置き、政権交代を目指す考えを示した。

バブル崩壊やリーマンショック後の不況を経験した日本。かつて個別企業の問題とされた賃上げが、物価高騰を受けて社会問題となり、今や政府と連合の方向性は一致している。

今回の取材の過程で、ある連合関係者は次のように割り切って話していた。

「誰が主導しようと労働者にとっては賃金が上がればいい」(連合関係者)

一方で、かつて連合を率いた経験を持つ幹部OBは次のように警鐘を鳴らした。

「連合は中小・零細企業を含めた弱い立場の労働者の声を吸い上げ、国に届けるためにある。財界の支援を受けている自民党にはできないことであり、時代が変わり、政府の方針が変わっても、労働者の立場で政治を行う原点に戻る必要がある」(幹部OB)

連合は、組合員がピーク時の800万人から700万人ほどに減少している。
組織を維持するためにも、賃上げなど政策の実現に向けて、岸田政権と連携を強化すべきなのか。それとも、原点に立ち返り、政権交代の実現に向けて、野党勢力の結集を目指すのか。連合の立ち位置が、今後の政治の行方を左右することになる。
(文中敬称略)

動画はこちら↓

政治部記者
森田 あゆ美
2004年入局。佐賀局、神戸局などを経て政治部。自民党や外務省担当を経て、現在は2回目の野党クラブ。

政治部記者
高橋 路
2016年入局。初任地は静岡局。現在は野党クラブで立憲民主党と連合を担当。