【更新・解説】イスラエル・パレスチナ情勢 日本の対応は

イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫の度合いを増しています。日本の中東外交は今、どうなっているのか?邦人の国外退避への日本政府の対応はどうか?解説していきます。
※23日午前 政府対応や在留邦人数の最新の状況で更新しました。
(安藤和馬)

Q.日本外交の立場は?

A.日本は、原油の9割以上を中東からの輸入に依存していて、中東地域の安定が重要だとしてイスラエルとアラブ諸国の双方と関係構築に努めてきた。
日本は、ことしG7議長国だが、アメリカ、イギリスなど欧米5か国が発表したイスラエルを支持する共同声明には加わっていない。
岸田総理大臣は攻撃開始翌日の今月8日、旧ツイッターの「X」に、ハマスなどによる攻撃を「強く非難する」と投稿したが、「テロ」という表現は使わなかった。

岸田総理大臣の8日の旧ツイッターの「X」投稿。ハマスなどによる攻撃を「強く非難する」と。また「全ての当事者に最大限の自制を求める」と投稿。

その後、11日になって日本政府は、初めて「テロ攻撃」という表現を使って強く非難した。
外務省関係者は次のように説明している。

「音楽祭で無差別攻撃をするなど残虐な行為が明らかになってきたため、テロ攻撃と呼ぶことにした」(外務省関係者)

また、8日の時点で、岸田総理大臣は「X」に「全ての当事者に最大限の自制を求める」と投稿したが、その後、松野官房長官は記者会見で「双方への働きかけを強化し、事態の沈静化に向けて尽力していく」という表現を使っている。

Q.日本はどう動いているのか?

A.上川外務大臣はイスラエルとパレスチナのほか、ヨルダン、UAE=アラブ首長国連邦、エジプト、カタールの外相らと相次いで電話会談し、事態沈静化への働きかけを続けている。

17日夜には、イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり、G7=主要7か国の外相が電話で会談。
この中で、議長を務める上川大臣は「深刻な懸念を持って注視しており、G7メンバーの精力的な外交努力に感謝する」と述べ、みずからも中東諸国などに事態の沈静化を働きかけていることを説明した。
その上でガザ地区の状況をめぐり「人道状況の悪化を最小限に食い止めることが重要で、人道支援を極めて重視している」と述べた。
さらに、各国の自国民の退避でもG7で連携したいと呼びかけた。
そしてG7外相は、ハマスなどの攻撃を「テロ攻撃」だとして断固として非難するとともにガザ地区の人道状況の改善が必要だという認識で一致し、引き続き連携して対応していくことを確認した。
このあと上川大臣は記者団に対し「外交努力を通じ、事態の沈静化やガザの人道状況の改善に向けて積極的に取り組んでいく」と述べた。

一方、上川大臣はイスラム組織ハマスを支援してきたイランのアブドラヒアン外相とも17日午後、電話で会談している。
この中では、「ハマスなどのパレスチナ武装勢力によるテロ攻撃を断固として非難する。罪のない多くの一般市民が 犠牲となっていることに大変心を痛めており、人質が一刻も早く解放されることや事態を沈静化することが重要だ」と述べた上で、ハマスなどに働きかけ事態の沈静化に向けて役割を果たすよう求めた。

そして、岸田総理大臣は17日夜、ガザ地区と境界を接するエジプトのシシ大統領と電話で会談。
イスラエル・パレスチナ情勢について、深刻な懸念を持って注視しているとした上で、ガザ地区にいる日本人のエジプト側への退避に協力を求めた。
これに対し、シシ大統領は「日本人の安全な退避に向けて協力する」と応じた。
そして両首脳は引き続き連携してガザ地区の人道状況の改善や退避、それに事態の沈静化に向けて連携していくことを確認した。

さらに、岸田総理大臣は18日夜、サウジアラビアのムハンマド皇太子と電話で会談。

この中で、情勢への深刻な懸念とともに、ハマスなどのパレスチナ武装勢力による「テロ攻撃」を断固として非難する日本の立場を示した。
そして、多くの犠牲者が出たガザ地区の病院への攻撃に対する強い憤りを伝えるとともに、日本としてガザ地区の市民に総額1000万ドル規模の緊急人道支援を実施する方針を示し、連携を呼びかけた。
これに対しムハンマド皇太子からは、現地情勢への深刻な懸念を共有する立場が示され、両者はガザ地区の人道状況の改善や事態の沈静化に向けて協力していくことを確認した。

また、上川外務大臣は21日にエジプトで開催された国際会議「カイロ平和サミット」に出席するため、エジプトを訪問した。一連の衝突以降、日本の閣僚が中東を訪れるのは初めてだ。

上川大臣は演説で「人道状況の悪化を最小限に食い止めることが何よりも重要だ。われわれが今やるべきなのは、ガザ地区の人々に1日も早く必要な支援を届けることと、ガザ地区に留め置かれている外国人をエジプトへ退避させることだ」と訴えた。
その上で、日本がガザ地区の一般市民に対し総額1000万ドル規模の緊急人道支援を行う方針に加え、必要に応じてさらなる支援を検討していく考えを明らかにした。
一方、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する「2国家解決」を支持する日本の立場は揺るがないという考えを示した。

Q.緊急人道支援とはどんなものか?

A.人道面で、日本政府としては、ガザ地区の一般市民に対し、総額1000万ドル=日本円にしておよそ15億円規模の緊急人道支援を国際機関を通じて実施する。外務省は、「食料、水、医療、保健などの必要な支援が行き届くよう、人道状況改善のための外交努力を続けていく」としている。

Q.現地の日本人の状況は?

イスラエルとパレスチナ周辺地図

A.外務省によると、イスラエルとパレスチナにいる日本人は、20日時点であわせておよそ800人だ。
18日時点で、日本人が被害を受けたという情報は入っていないという。
また、ガザ地区には国際機関やNGOの関係者など少人数の日本人がいて、全員と連絡はとれているということだ。

外務省は18日、現地の危険情報のレベルを引き上げた。
▼ガザ地区とその境界周辺は最も高いレベル4の「退避勧告」を継続し、
▼レバノンとの国境地帯もレベル4の「退避勧告」に引き上げた。
▼ヨルダン川西岸地区はレベル3の「渡航中止勧告」に引き上げた。

また、20日、イスラエルに隣接するレバノンの危険情報のレベルを引き上げた。
レバノン南部のイスラエルとの国境地帯では、砲撃の応酬が日常的に発生し、民間人にも死傷者が出ているとして、国境からおよそ4キロの範囲をレベル4の「退避勧告」に引き上げたのだ。
また、それ以外の地域は、レベル3の「渡航中止勧告」に引き上げた。

一方、
▼テルアビブやエルサレムなど、このほかの地域については不要不急の渡航中止を求めるレベル2を継続している。

Q.日本人の国外退避への対応はどうなっている?

A.日本政府は、日本人の出国を支援するため、まず、チャーター機1機を手配した。
出国を希望した日本人8人が乗り、日本時間の14日、テルアビブの空港を出発。15日未明、UAE=アラブ首長国連邦のドバイに到着した。

これとは別に、韓国政府が派遣した軍の輸送機に日本人51人が同乗してイスラエルを出国し、14日夜、ソウル近郊の空港に到着した。

上川外務大臣は15日、韓国のパク・チン(朴振)外相と電話で会談。
「イスラエルからの日本人の出国に際し、韓国政府から支援を受けたことに率直に心から感謝する」と述べ、謝意を伝えた。

さらに、現地の情勢が緊迫の度合いを増すなか、政府は改めて、イスラエルにいる日本人に自衛隊機による出国を希望するか意向調査を行い、ほかの国にも搭乗を希望する人がいないか確認した。
出国を希望した▼日本人60人と外国籍の家族4人のほか、▼韓国人18人と外国籍の家族1人の合わせて83人が日本時間の20日、航空自衛隊のKC767空中給油・輸送機でイスラエルを出発。
21日、羽田空港に到着した。

自衛隊機による在留邦人などの輸送は、武力衝突が起きたアフリカのスーダンでことし4月に行われて以来、7回目となった。
防衛省は今回、C2輸送機2機も派遣していて、今後の日本人などの輸送に備えてヨルダンとアフリカのジブチにそれぞれ待機させているとしている。

情勢が緊迫する中、政府は、関係国や関係機関と連携しつつ、現地に残った日本人の安全確保に万全を期すことにしている。
(10月13日 ニュース7などで放送)

政治部記者
安藤 和馬
2004年入局。山口局、釧路局などを経て政治部。外務省キャップを務める。