富山でタクシー運賃値上げ その影響と背景は?
- 2023年09月12日
富山県内のタクシー運賃が9月11日から引き上げられ、普通車の「初乗り」の上限が1.03キロで600円までとなりました。生活に直結する値上げの背景を取材しました。
(NHK富山放送局 記者 山口雅史)
値上げの日にタクシー会社は
タクシー運賃が値上げされる9月11日。
早朝に訪ねた先は、富山市のタクシー会社です。
朝の点呼では、タクシー会社の運行管理者が、運転手に運賃の値上げについて改めて伝えていました。
「きょうからタクシー運賃が変わりますので、お客様には今まで以上に親切な対応をお願いします」
このタクシー会社では、値上げの前日から徹夜で、約140台ある車両のほぼすべての運賃表示を、新しく貼り替えていました。
どれぐらい値上げされる?
今回の運賃値上げでは、これまでと何が変わるのでしょうか。
まず、「距離あたりの運賃」が引きあげられました。
普通車の「初乗り」は
▼1.178キロあたり620円までが
▼1.03キロに短縮して600円までとなりました。
また、運賃が100円ずつ加算される距離も
▼254メートルから
▼223メートルに短縮しています。
こちらは、北陸信越運輸局がまとめた、値上げ後の運賃の目安です。
富山駅から出発した場合
▼県立中央病院まで1600円(180円値上げ)
▼富山空港まで4700円(580円値上げ)
高岡駅から出発した場合
▼高岡市民病院まで1700円(180円値上げ)
免許を返納し、タクシーで通院や買い物をする高齢者など、多くの人にとって負担が増えます。
利用者の反応は
次に訪ねた先は、富山駅。タクシーを利用する人に、値上げについて受け止めを聞きました。
【65歳男性客・東京に出張するため自宅から富山駅までタクシー利用】
「仕方がないと思います。新型コロナの影響を受け、タクシー業界は大変な苦労をしたと思うので、料金に反映するしかないのではないか」
【静岡から旅行で訪れた47歳女性客・南砺市利賀村から富山駅までタクシー利用】
「山間地での観光でタクシーは欠かせないので、運賃が上がってでも、タクシーのサービスの提供を継続してほしい」
背景にコロナ禍後の「人手不足」
理解を示す声も出る中で、利用者への負担が増す今回の値上げ。
業界が苦渋の決断を行った背景には、深刻な「人手不足」という課題があります。
県タクシー協会がまとめた、県内のタクシー会社の運転手の数です。4年前は、1100人を超えていました。
しかし、新型コロナの影響で収入が激減したことから離職者が相次ぎ、今年8月末の時点でコロナ禍の前より25%も減少したのです。
一方で、利用客はコロナ禍の前の8割から9割にまで回復しています。
客を長時間待たせたり、送迎の予約に応じられなかったりするケースが相次いでいるということです。
「事業継続のため値上げに理解を」
「県タクシー協会」の会長を務める県内タクシー大手「富山交通」の土田英喜社長は、運転手を確保して、今後もタクシー事業を継続するためとして、運賃の値上げに理解を求めました。
「県タクシー協会」会長・県内タクシー大手「富山交通」の土田英喜社長
「新型コロナの影響で運転手の収入が一般の労働者より低くなり、人材を確保するのに高いハードルになっていて、新たに運転手を募集しても、なり手がいない状況です。利用者には申し訳ないが、運転手の待遇を改善することで、人材の確保につなげていきたい」
【取材を終えて】
「車があっても運転手がいない」。今回の取材で何回も聞いた言葉です。"人手不足" と言葉ではよく聞かれます。しかし、現場に足を運ぶとタクシーのように私たちの生活に密着するサービスですら、その存続が危惧されるほどの状況になっていることが改めて分かりました。
免許を返納し、タクシーが主要な移動手段となっている高齢者もいると思うと、負担が増えることを決して軽視することはできませんが、運転手の待遇改善と利用者の負担、うまくバランスを取りながら、タクシー業界が持続可能な形になるにはどうすればいいのか、今後も取材を続けたいと思います。