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ロシア向け中古車禁輸 国内最大拠点富山は

  • 2023年09月04日

    10万8277台。2022年に富山県からロシアに輸出された中古車の数です。            実に日本全体の52.9%を占めました。

    しかし、政府はウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁強化の一環として中古車を含むほとんどの自動車の輸出を禁止に。

    いま中古車の輸出業界に大きな衝撃が走っています。

    (富山放送局記者 藤田賢)

    大人気の日本車が・・・

    ウクライナ侵攻以降、ロシア国内では日本製の中古車の需要が急激に高まっていました。   円安に加えて、社会情勢が不安定になる中で資産としても注目されていたからです。
    そうしたなか、日本政府は8月9日から中古車を含む自動車などの輸出を禁止する措置を始めました。対象は排気量が1900cc超のガソリン車やディーゼル車のほか、ハイブリッド車や電気自動車にまで及んでいます。

    この結果、小型のガソリン車を除くほとんどの自動車がロシアに輸出できなくなりました。

     

    【注文は200件から10件に】

    ベーラム・ナワブ・アリさん

    パキスタン出身のベーラム・ナワブ・アリさん(60)。
    1997年から富山県射水市で中古車輸出販売業を営んでいます。
    海外の販売業者や個人からの依頼を受け、日本国内で中古車を買い付けていますが、
    なかでもロシアは、日本海を挟んで距離的に近いことから、この20年間中心的な取引先でした。

    ロシアで人気が高い車種はSUVやミニバンタイプのハイブリッド車。
    去年(2022年)の夏はロシアからの注文だけで1日200件を超える買い付け依頼がありました。

     

    会社の敷地は閑散・・・

    しかし、今年(2023年)の7月中旬、政府がハイブリッド車を含む自動車のロシアへの輸出を禁止するという報道が出てから、アリさんの会社への買い付け依頼は激減しました。
    8月に入ってからは1日に数件にまで落ち込んだといいます。

    アリさんの会社の敷地には、去年の夏は輸出を控えた車が目いっぱい並んでいましたが、8月の制裁強化の直前にはわずか20台ほどで、閑散としています。

    「現時点で買い付け依頼は10%から20%だけ残っている。80%注文が減って
     仕事がなくなってしまいました。人生がダメになる。神様助けてください」(アリさん)

     

    “最後の”出荷

    出荷前の点検をするアリさん

    8月7日、アリさんはウラジオストクに向けて輸出するため、輸出規制の対象となるハイブリッド車を含む中古車2台を伏木富山港まで運びました。ロシア向けとしては当面最後の出荷になるということです。

     

    輸送船に積み込まれる中古車


    制裁強化前の「駆け込み」需要でしょうか。港に接岸した船には次々と中古車が積み込まれる様子も確認できました。

     

    アリさんによりますと、市内の同業者の中にはロシアからの注文が途絶えたことで経営に行き詰まり、商売をやめようとする人も少なくないということです。

    「同業者からは『仕事がなくて困っている』と相談の電話がかかってきます。仕事を辞める仲間もいっぱいいると思います」(アリさん)

     

    ロシアがだめなら・・・

    ロシア以外の選択肢は・・・

    制裁の強化で、ロシアに輸出できるのは小型のガソリン車に限定されます。
    こうした厳しい状況の中、アリさんはロシア以外の国に目を向け始めています。
     

    「ロシア向けの輸出はダメになったけど、しかたない。政府の方針や法律的に、今は他の国に新しいお客さん探して売って頑張っていくかんじです。それしかないからね」。


    アフリカやチリ、ドバイなど、これまで取り引きのある国の業者からの買い付け依頼を増やしていきたいと考えていますが、販路の開拓は容易ではありません。
    受注できた場合でも輸送にかかる期間や費用が増えるなどの課題があります。


    これまでロシアとのつながりが強かっただけに、今回の輸出禁止の措置による影響は県内の輸出業者にとって大きな痛手となっています。
    願うのは先の見えない戦争の終結です。

    「戦争が終わればまた仕事が始まるから、ロシアに輸出したいとは思っています。
     みんなの気持ちは戦争が早めに終わればいいということ。
     戦争になるとこっちもだめ、あっちもだめとなるので、良いことはないですね」

     

    【取材後記】
    取材の際、アリさんと一緒に射水市内を移動していると、中古車販売会社の敷地内にほとんど車が置かれていない景色を目にしました。これまで中古車産業が盛んだっただけに地域の活気がなくなってしまわないか心配になりました。
    ウクライナを巡る問題が収束しない中、地域経済への影響はさらに大きくなる懸念があります。

      • 藤田 賢

        記者

        藤田 賢

        新聞社を経て、2021年入局。
         富山局で県警を担当した後、現在は高岡支局。
        富山県西部の行政や経済を担当。

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