万葉集を現代訳しヒット!その秘密は?佐々木良さんインタビュー
- 2024年01月19日
香川にゆかりのあることばのプロに聞くシリーズ企画「かがわ×ことばの達人」。初回は、高松市で出版社を立ち上げ、万葉集を現代語訳した本が大ヒットした作家・佐々木良さんに、五味哲太アナウンサーが話を聞きました。共感を呼ぶことばを紡ぎ出す秘密とは?
(シリーズ企画2回目はこちら)
月4000円余のオフィスで売上約2億!
こちらの2冊は、万葉集の歌を現代のことばで読み解き、発行部数あわせて23万部のヒット作です。佐々木さんが高松市中心部にある家賃月4000円余りの小さなオフィスで制作しました。1人で出版社を立ち上げたオフィスから、2冊合わせて約2億円の売り上げをたたき出しました。
こちらは本で取り上げた万葉集の一首です。プロポーズを待つ女性のやきもきした心情を表すこの歌の特徴は、「来る」ということばのリズム感です。佐々木さんは、歌の本来のリズム感を生かしてお笑い芸人のネタのようにいわば“超訳”し、クスっと笑いを誘う関西弁の表現に仕立てています。
時代背景にこだわって決めた ~若者ことばと関西弁~
いまをときめく佐々木さんにまず聞きたいのが、なぜ万葉集を若者ことばで、そして関西弁なんですか?
万葉集の世界では10代や20代の男女が結婚しますから、いまの感覚よりグッと若いんです。だから私より若い世代のことばを使うべきじゃないかと思って、若者ことばを使いましたね。それに万葉集が生まれた奈良時代の首都が奈良だったんですね。当時の奈良時代の標準語は奈良のことばでしたから、奈良のことばで訳してあげるっていうのが大事かなと思って、奈良のことばを使いました
佐々木さんとしては、順番に考えていった結果、この本にたどりついたんですか?
そうなんです。奈良弁で若者ことばでやるというのを本当に大真面目に考えて、この本にたどり着きました
最初にこの本を読んだときに、そこまで大真面目に考えていたとは…すみません。思っていませんでした。むしろ“エッジを立てて奇抜な感じでやってやるぜ”ということかなと思いましたが、全然違うんですね。でも、その真剣さに裏打ちされているからこそ皆さんに受け入れられたという面もあるのかもしれませんね
そうかもしれませんね
香川と万葉集には深いつながりも
佐々木さんは、高松で1人で出版社を起業して本を出していますが、なぜですか?
香川に出版社があった方が、香川の文化や歴史を世の中に発信しやすいし、東京で本を作るとなると、皆さん同じような本が、けっこうできちゃっていると思うんですよ。なので、地方からの新しい視点で発信することが今回すごく受けた点なのかなと思いますsね
そこで注目したのが万葉集?
これは意外と知られていないのですが、香川県はけっこう万葉集にゆかりのある土地なんです。万葉集のほとんどが奈良の歌なんですけれど、全国いろんな各地あるのに奈良以外で最初に出てくる歌が香川県の歌なんです。5番目や6番目の歌が香川県の歌で、丸亀の方の歌なんですよ。東京だと景色が変わっていたりするじゃないですか。だけど香川って“こういうところで万葉集が詠まれたんだ”というのが、現地にいて感じるところがすごくある。まるで万葉集の時代にタイムスリップしたかのような感じがしますね
斬新な訳の秘訣は毎日読む“アレ”
本を読むと31歳の私でもちょっとついていけないような若者ことばを
使われていますけれども、これはどこから来るんですか?
僕も若者ことばはわからないんですよ。40歳になりますから。そこでギャル雑誌とか読みますし、子ども向けの漫画みたいなものも読んでるんです。そういう本から10代の子がどういう恋をしているのかとか、20代前半はどういう恋をしているのかっていうのを、いろんな万葉集の歌を詠んでいる歌人の年齢に合わせて、恋のことばを探してますね
ギャル雑誌を読むんですか!?
読みますね。38歳ぐらいになってからギャル雑誌を真剣に読むようになりまして、ギャル雑誌に線をすごい書いたりとか付箋とか貼ってて、もう毎日読んでいますよ。若者の悩みが凝縮されていて世の中がけっこう見えてくるので楽しいんですよ
数々の若者ことば どうやって本に?
本を普通に作るなら、万葉集を読んで若者ことばにしようと考えて創作すると思うんですけど、僕が作っているのは逆です。漫画や雑誌の現代のことばから万葉集を探していくっていうやり方。逆引き万葉集の作り方ですね
じゃあギャル雑誌を読んでいて、この1行は万葉集で言うと「あれだ!」ということをやってるんですか?
そうです、そうです
万葉集のことばといまの若者のことばは比べるとどうですか?
それが変わらないんですよ。現代の人たちはLINEで20文字とかで彼氏とかにメッセージを送るわけじゃないですか。だけど万葉集の時代は短歌で木簡に書いて送っているわけですから、当時はスマホはなかったけどスマホのようなことをしていたとも言えます。ギャル雑誌を読んでいても万葉集読んでも、やっぱり面白いなと思いますね
万葉集超訳本 今後の目標は?
万葉集の本は全50巻作る予定なんです
いま2巻出していますよね?あと48巻作るということ?
万葉集は全部で4500首あるのでまだまだ先は長いです。だけど、この本の中で表現している若者ことばは5年後は使っていないかもしれなくて、新しい代わりのことばが生まれてきたりとかする。万葉集を通して令和のことばを残していくことは、僕はすごい大事なことかなと思って続けていきたいなと思ってますね
すごいですね。作り終わるの何年先の予定ですか?
僕が80歳ぐらいの予定ですね。だから80歳になってもギャル雑誌を読んで若者ことばを抜き出していくという作業を延々としていかないと思っています。それが目標ですね
五味アナウンサーのひとこと!
80歳になってもギャル雑誌などを読み続けて、万葉集の本を作り続けたいという思いには驚きました。実は4年ぶりの再会だった佐々木さん。そのときに話していた「出版社を立ち上げたい」という目標をしっかり実現していますので、その実行力に期待したいと思いました。
※放送内容は当時のものです