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本の世界に新風!香川で広がる“ひとり出版社”“ひとり書店”

  • 2023年12月11日
本の世界に新風!香川で広がる“ひとり出版社”“ひとり書店”

「活字離れ」や「出版不況」など厳しい言葉で語られがちな本の業界。しかし、香川県内ではこれまでとひと味違うタイプの出版社や書店が登場し、人気を集めています。キーワードは、“ひとり出版社”と“ひとり書店”。どういう取り組みなのか、取材しました。(NHK高松放送局 竹内一帆記者)

ひとりで出版社 売上1億円超のヒット作が

佐々木良さんが出版したヒット本

万葉集を現代の言葉で読み解いたこちらの2冊の本。1000年以上も前に詠まれた日本最古の歌集が、令和の現代の身近な言葉に置き換わることで共感を呼びました。これまでの発行部数、計20万部のヒット作になりました。

万葉集 巻十 1929番歌

例えばこちらの一首。左側は万葉集に収められているもともとの歌です。結婚している女性が、自分に告白してきた男性への返事として詠んだもの。告白を断る歌ですが、読み解くのは少し難解です。

「ワンチャン」と超訳

この一首を現代風に読み解いたのがこちら。男性の告白を拒否する言葉を「ワンチャン(=ワンチャンス)ないで」と、いまどきの若者言葉で表現。クスッとにやけてしまいそうなおもしろさが話題を集めました。

オフィスは市中心部の四番丁スクエア内

この本を生み出したのは、作家の佐々木良さん。高松市内のこちらの小さなオフィスを拠点に、執筆から販売までをひとりで手掛ける“ひとり出版社”を立ち上げて、出版しました。家賃が月4000円余りのこのオフィスから、1億円を超える売り上げをたたき出しました。

佐々木さん

売れ行きはすごいところまで行きましたよね。大手の書店さんのランキングで上半期第1位をいただき、第2位が村上春樹さん、4位が東野圭吾さんと名だたる方よりも売れたのは、地方でやってる自由さがけっこう世の中に受け入れられたのかなと思いますね

丸亀にオープン“ひとり書店”

広さは4坪ほどの書店

一風変わった業態は、書店でも。ことし8月、丸亀市にユニークなシステムの店がオープンしました。店内の本棚には四方30センチほどのスペースが60あり、この場所を一般に貸し出しているのです。本棚ひとつひとつがいわば“個人経営の書店”で、スペースを借りたオーナーは自分でセレクトした本を置いて販売できます。

書店の理念に共感した人が参加できる

オーナーは月2500円以上の利用料などを支払った上で、売り上げから一部を差し引いた額を受け取る仕組み。古書ばかり集めた本棚や、同じタイトルの文学シリーズだけを集めた本棚などオーナーこだわりのセレクションばかりで、さまざまなタイプの“店”が集まる“書店街”となっています。

この店を“ひとり”で運営するのが、地元出身の藤田一輝さん。店を立ち上げた理由のひとつは、近所にあった書店がどんどん減っていることへの危機感でした。

藤田さん

僕自身が小中高と地元であるこの地域で過ごしてきたのですが、当時通っていた本屋さんがいま結構なくなってしまっています。店を始めたのは、本がほしいという自分のニーズと、本を介して人が集まれるような場所を作りたいという思いからです

この日行われていたのは、棚の新たなオーナーを募集する説明会です。本好きの参加者たちは、ユニークな“ひとり書店”の仕組みに関心を寄せていました。

参加者

本好きの方々が集まっているので居心地の良い場所だなと思いました

参加者

自分が読んだ本をこの店で紹介できて、ゆるい感じで本のコミュニケーションがとれていいんじゃないかなと思います

人と人の輪広げる工夫が随所に

 

棚に置かれた本を開くとオススメ文が

店には、本を通じてオーナーと読者がつながることができるよう工夫がこらされています。そのひとつが本に挟まれてあるオーナーからのメッセージ。メッセージには、本をオススメする理由などが書かれていて、買った人は返事を書くこともできます。

店番に立つ人は営業日ごとに異なる

また、店番をするのは藤田さんではなく、本棚を借り本を並べたオーナー自身。日によって違う人が店番をするようにすることで、日々異なる出会いや交流を生み出そうという狙いです。

さらに、本を購入すると、店番の人がいれるコーヒーをプレゼント。コーヒーを受け取るまでの待ち時間は、本を買った人と店番の人がゆったりと交流できるひとときとなります。藤田さんがここを拠点に実現したいと考えているのが、店を行き交う人たちが本を通じて関係を深め、新たな活動を生み出す人と人との輪の広がりです。

藤田さん

オーナーの人には今は単発で店番を任せていますが、店番だけではなくて、例えば、トークイベントなどを今後は行っていきたいと思います。この店を続けていけばいくほど、いろんな形で繋がった方々が地域でいろんなことをやっていく形になったらいいなと思っています

  • 竹内一帆

    高松放送局記者

    竹内一帆

    2015年入局 経済・交通など幅広く担当し、取材の合間のうどん店めぐりが趣味。読書は寝る前に1日1ページがルーティーン

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