イライラがつのりカッとなって子どもに手をあげそうになったり、強い言葉で責めてしまったりすることはありませんか? とっさの行動とはいえ、心が痛みますよね。育児のイライラを子どもに向けないためにはどうすればいいのか、専門家と一緒に考えます。

育児のイライラ 子どもに向けないためには

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)

イライラがつのり、カッとなって子どもをたたいてしまった… どうすればいい?

まず、思わず子どもに手を上げてしまったというママの体験談を聞きました。

3人の子どもたちを育てています。育児は忙しく、今は真ん中の子がイヤイヤ期で、いちばんしんどいです。
ある日、真ん中の子の夜泣きで睡眠不足の状態で朝を迎えました。上の子の園の支度もスムーズにいかず、下の子の昼寝の寝かしつけもうまくいかず、イライラがつのっていました。そんなとき、真ん中の子が「牛乳が欲しい」と言うのであげたら、わざとこぼされて牛乳だらけになって… カッとなって思わず子どもをたたいていました。大泣きする子どもを見て我に返り、とっさに「ごめんね」と言って抱きしめましたが、少しおびえているようでした。
それまで、人をたたいたことはありません。虐待のニュースにも「どうしてこんなことを」と思っていました。まさか、自分が手を出すとは思ってもみませんでした。ただ罪悪感しかなく、「ひどいことをしてしまった」と、余計につらくなりました。1回手を出してしまったことでストッパーが外れて、これから自分がエスカレートしてしまわないか不安です。
(お子さん4歳7か月・2歳3か月・8か月のママ)

鈴木あきえさん(MC)

この方の気持ちがとてもわかります。ひと事ではありませんよね。私も、いちばん言いたくない、きつい言葉を言ってしまったことがあります。

古坂大魔王さん(MC)

イライラしないのがいちばんだとわかっていても、人間だから間違いもありますよね。

育児で大変な状況が続くと、イライラしてしまうもの

大日向雅美さん

大変な状況ですよね。夜泣きで眠れず、保育園の支度で大変。ホッとしたいのに今度は寝かしつけられなかった。こんな状況が続いてイライラしないほうが人間ではないと思えるほどです。ママは本当によく育児をしていると思います。

―― みなさんは、カッとなってたたいてしまう行為について、どう思いますか?

すくすくファミリー

イライラしてしまったときは、近くに住む義母に子どもたちを預けています。今のところたたくまではありませんが、これから先はあるかもしれないと感じています。話を聞いてわかるところがとても多くて、ママの気持ちを思うと苦しくなって…。

すくすくファミリー

私も子どもが3人いて、嫌なことが連鎖してしまうことがあります。1人が何かダメだと、2人目もうまくいかなくて、そういう日に限って3人目も機嫌悪くて…。万が一たたいてしまったときは、子どもに対してしっかりフォローして、反省できる時間があれば次につなげられると思います。

―― そもそも、1度でもたたいてしまったら虐待になるのでしょうか。みなさんはどう思いますか?

すくすくファミリー

難しい問題だと思います。回数ではなく、1回でも虐待になるような気がします。

すくすくファミリー

罪悪感を持ち過ぎたら、とても子育てができないので、1回で虐待は違うように感じます。でも、子どもを守り、親を支援する意味で、「ダメなことはダメ」とルールがあるのはいいことだと思います。

すくすくファミリー

一般的には、虐待になるかもしれません。でも、その言葉にとらわれず、「自分はどうしてたたいてしまったのか」と考え、行動をしっかり見つめ直した先に答えがあるように思います。明日につなげていくことが大事だと思いました。

―― 大日向さん、どう考えたらいいのでしょうか?

たたいてしまったことを「点」ではなく、その前後を含めて「面」で見る

回答:大日向雅美さん

とても重い問いかけですよね。2019年に「児童虐待防止法」と「児童福祉法」の一部が改正されて、「体罰禁止」「親権者は児童のしつけに体罰を加えてはならない」という法律ができました(※1)。そのとき、日本中の親たちから「手をあげていいなんて思わない、でも、あげざるをえないことだってある。それを法律で禁止するのか」といった声がたくさんあがりました。
実は、この法律には罰則がありません(※2)。その目的は、手をあげてしまった親を罰するのではなく、それほど子育てが大変だから、みんなで支えましょうというコンセンサスをとることなのです。
たたかれる子どもにとっては、1回でも何回でも怖くて痛い。手をあげないほうがいいに決まっています。でも、あげざるをえない親の状況を、社会のみなさんがきちんと見つめて支えることが大切だと考えています。
そのためにも、たたいてしまったことを「点」で見ずに、その前後がどうだったのかを「面」で見ることが大事です。例えば、たたいてしまった後に子どもを抱きしめたか、どんなコミュニケーションをとったか、それらを含めて考えましょう。
※1 児童虐待防止法および児童福祉法の改正(2020年4月施行)
※2 刑法の暴行罪・傷害罪・強要罪・保護責任者遺棄等罪が適用され罰せられる可能性はあります。

「歯止めが効かなくなるのではないか」という気持ちも大事

回答:大日向雅美さん

「1度たたいてしまうと、歯止めが効かなくなるのではないか」という気持ちも大事です。「体罰はしつけ」「この子のためにやった」と、親が自己弁護して行為を合理化してしまうと、坂を転がるように止めることができなくなってしまいます。先ほどの体験談で、「ストッパーが外れてしまったらどうしよう」という言葉がありましたね。私は、それがとても心に響きました。その気持ちがあれば大丈夫だと伝えたいです。


きつめの言葉で子どもを責めるのは虐待になるの?

続いて、子どもを言葉で責めてしまい悩んでいるというママの体験談です。

2人目が生まれて半年後、そのとき3歳になる上の子に対して、きつい言葉を使うようになりました。それまでは一切なかったのに、なかなか言うことを聞かないときにイライラが止まらず、「どうして意地悪なことするの」「そんな悪い子だと思わなかった」など、罪悪感を抱きながら、ダメだとわかっている言葉でどなっていました。子どもは怒らない夫にべったりになり、自分が原因だと落ち込みました。
母や夫に相談したこともあります。最初は、ひどいことをしている自覚から、なかなか打ち明けられませんでした。軽蔑されるかもしれないと思ったんです。でも、勇気を出して相談したら、大変さ、しんどさを理解してくれて、思った以上に味方になってもらえました。パパの仕事柄、ワンオペになることも多いのですが、もともと家にいるときは全力で子どもに関わっています。相談してからは、私がイライラしていると声をかけてくれるようになりました。
その後、自治体の支援センターの相談会に参加して、精神科医や心理士の方に話を聞いてもらい、今は少し落ち着いています。参加する前は「このお母さんは病んでいるんだ」と思われることに抵抗があったのですが、「このままではいけない」という思いのほうが強くて相談できたと思います。
(お子さん4歳7か月・2歳3か月・8か月のママ)

古坂大魔王さん(MC)

子どもを言葉で責めてしまうと、罪悪感が出てくると思います。相当イライラしていると、思っていることの2~3倍の言葉になってしまうのではないでしょうか。

鈴木あきえさん(MC)

私も、話しながらも、後悔がはじまるようなときがあります。心の中で「この言葉、言わないで!」と言い聞かせても、言ってしまって。言わないではいられない自分もいます。

―― 大日向さん、きつい言葉も虐待になるのでしょうか。

「心理的虐待」になりえるが、見えづらい。虐待には3つのレベルがある

回答:大日向雅美さん

一般的に、虐待は4種類あります。「身体的虐待」と「性的虐待」。無視をする、必要な世話をしないなどの「ネグレクト」。そして、「心理的虐待」です。言葉できついことを言ったり、きょうだいの1人だけを溺愛して対照的に無視したりするもので、なかなか見えづらいのです。
また、私たちはあまり程度を考えずに「虐待」と言いますが、虐待には3つのレベルがあります。それを「マルトリートメント」といいます。

マルトリートメントとは

解説:大日向雅美さん

マルトリートメント※文部科学省「養護教諭のための児童虐待対応の手引」より

「マルトリートメント」とは、「大人の子どもへの不適切なかかわり」を意味する言葉で、より広く児童虐待をとらえる概念です。
「レッドゾーン(要保護)」は、子どもの命や安全を守るため児童相談所などが強制的に介入して親子を分離するレベルです。
「イエローゾーン(要支援)」は、問題をさらに悪化させないために、さまざまな支援機関や専門家が連携して支える必要があるレベルです。
「グレーゾーン(要観察)」は、場合によって地域の支援機関などが見守ることが必要なレベルで、誰しもが陥りやすいゾーンです。

苦しいときは、「虐待」というより「不適切な関わり方」と考える

大日向雅美さん

たたいたりきついことを言ったりして子どもがおびえたとき、その姿に快感を覚えていたら危ない状態です。でも、ほとんどの親は「どんなにつらくても手をあげるのはよくない」「言葉できついことを言うのはよくない」とわかっていて、苦しんでいると思います。それは快感ではありません。私は、それを「虐待」という言葉でくくるのは、親がかわいそうだと思います。虐待というよりも「不適切な関わり方」と考えていきたいと思っています。

親の感情の豊かさを否定することではない

大日向雅美さん

子どもをおびえさせるほど大きな声を上げたり、たたいたりするのは、たしかにいけないことです。ただ、私たちには感情が、喜怒哀楽があります。その感情に触れた子どもが、「震えるほど怒っているのは、自分がいけないことをしたからだろう」「〇〇をしちゃだめと、こんなになるほど私を守ろうとしてくれた」と感じることもあります。そういった感情の豊かさを、全て否定することではないと思います。

自分は「虐待した」ではなく、「グレーゾーンなんだ、立ち直ろうとしている」と考えて

大日向雅美さん

体験談の方は、夫や母に、本当によく打ち明けられたと思います。そして支援センターにまで行かれた。このとき、「私は虐待したんだ」と思っていると、なかなか一歩が踏み出せません。だから、「私はグレーゾーンなんだ、立ち直ろうとしているんだ」と、自分に言い聞かせてほしいのです。とても大事なことです。それから周りの人たちや、専門機関のドアをノックしてみてください。打ち明けた相手が、みんな「本当に大変ね」と言うとは限らないかもしれない。でも、今の時代は「そんな親は鬼だ」と言う人のほうが少ないでしょう。実際に、すくすくファミリーのみなさんは、体験談に涙を流し、共感していました。時代はそういう方向に向かっていると思います。

育児のイライラなどで悩んだときの相談窓口

―― 大日向さんの話を聞いて、いかがでしたか?

体験談のママ

ありがとうございます、感極まってしまいました。ずっと罪悪感がありましたが、自分がしたことはよくなかったけど、追い詰められて起こってしまった「不適切な対応」だったと考えて、これからに生かしていくことが大事だと、前向きに気持ちを切り替えることができました。

―― 今、何か工夫されていることはありますか?

体験談のママ

イライラしたときの状況や思ったことを、日付と一緒に記録しています。自分は、何がつらくて、どうすれば楽になるのか、ノートに書いて整理しようと思ったことがきっかけでした。ときどき見返すと傾向がわかってくることがあります。

イライラしているときこそ自分を客観視する

大日向雅美さん

イライラしているときは、自分が見えなくなりますよね。そんなときこそ、自分を客観視することが大事です。客観的になることで、クールダウンすることもあります。ある方は、自分がどなっているときに録音して、あとで聞いていたそうです。「こんなに耳を覆いたくなるようなことを子どもが聞いているんだ」と、見つめ直すことができたといいます。
自分を見つめる工夫は大事ですよね。繰り返さないための、すばらしい工夫だと思います。

―― ほかに聞きたいことはありますか?

体験談のママ

カッとなってしまったときの対処で「その場を離れる」「6秒数える」と聞いたことがあります。でも、私はあまり冷静になれず、うまく気持ちを切り替えることができませんでした。怒りをコントロールする方法があれば聞きたいです。

すくすくファミリー

  • 怒ったその瞬間は難しいので、睡眠が大事だと思います。
  • 私も「6秒待つ」ができない性格です。最近は、台所に移動して、冷たい水を1杯飲んで、次の家族行事のこと・たのしいことを考えていると落ち着きます。
  • 突然子どもたちに痛いことをされると、わざとじゃなくても、「痛いでしょ!」と怒ってしまいますね。そんなときは、ひとことで叱って、「じゃ、ちょっとトイレにいくから」と言ってトイレにこもります。
  • イライラしているときほど笑顔をつくって、「大丈夫!」「ま、いっか!」と落ち着く言葉を唱えています。少し怒りがおさまります。

社会で子育てを変えていかないといけない

大日向雅美さん

怒りをコントロールする方法は、人それぞれに向き・不向きがあり、正解はありません。一方で、「そもそも、なぜ育児にイライラするの?」という根源的なことを考えることも大事だと思います。戦後の高度経済成長期以降、ママは家事・育児、パパは仕事という、性別役割分業が続いていました。でも、それ以前の主な産業が農業や漁業のときは、村落共同体のみんなで働き、みんなで子どもに目をかけ、手をかけていました。今のような状況は、人類のあり方として本当に異常で、苦しいと思います。こんなに罪悪感で自分を責めている親がいると知ったら、社会のみんなが「ごめんなさい」と言うべきなのです。あなたが罪悪感を持つことではない、社会がこの異常な子育てを変えないといけないと思います。


虐待を受けて育ったけど、子どもに連鎖させたくない…

私自身が虐待を受けて育ち、子どもに連鎖させないと決意して子育てをしています。自分の存在をありのままを肯定的に受け止めてくれる大人がいる。そんなメッセージを伝えられる子育てがしたいです。
でも、子どもの理不尽なわがまま、かんしゃくを受け止めるのが無性に苦しいときがあります。私が親から愛情をもらっておらず、枯渇状態で子どもに与えなくてはならないからかもしれません。私はどうしたらいいのでしょうか。
(お子さん6歳・4歳のママ)

虐待の連鎖は一面の真実でしかない

回答:大日向雅美さん

「子ども時代に虐待を受けると、親になったときに虐待を繰り返す。だから、虐待はやめましょう」と言われることがあります。これは、二重に親を苦しめる言葉だと思います。
虐待を受け、親から愛されなかった人たちの大半は、なんとかして同じ苦しみをわが子に味わわせないように、懸命に努力していることがほとんどだといいます。そのような親は事件を起こさないので、あまり知られることはありません。一方で、残念ながら虐待してしまった親が、子どものころに虐待を受けていたことがわかると、「だから繰り返す」とされてしまいます。でも、その割合は少なく、一面の真実でしかありません。
虐待を受けた方に、「あなたはどうして立ち直れたんですか?」と聞くと、「見守ってくれる、支えてくれる、大丈夫だよと言ってくれる、そんな人が1人でも身近にいることで、なんとか乗り越えようとしている」といいます。
私は、世代間連鎖という言葉を安易に使いたくないと思っています。育児でイライラするという悩みは、すくすくファミリーのみなさんも同じことを言っています。その原因を、虐待を受けた子ども時代に求めるのか、1人で育児するという不自然な状況に求めるのかで、変わってくると思います。不自然さであれば、「今の状況がおかしい」「みんなで支え合おう」と考えるわけです。


育児のイライラなどで悩んだときの相談窓口

育児のイライラなどで悩んだときは、1人で抱え込まずに自治体の支援センターなど、近くの窓口に相談してみてください。

育児のイライラなどで悩んだときの相談窓口

  • 地域の保健センター
  • 地域子育て支援拠点
  • 児童発達支援センター
  • 児童相談所
  • 子育て世代包括支援センター
  • 小児科 など

専門家からのメッセージ

罪悪感を、次の社会をつくる力に

大日向雅美さん

今回は、とてもつらい、重いテーマだと思います。でも、みなさんなんとかしようと工夫して、自分を見つめています。その力を、罪悪感ではなく、みんなで支えて、子どもの育ちを喜びあう社会をつくっていく方向に、エネルギーを転じるきっかけになればと思っています。自身の話をしてくれたみなさんは、つらかったと思います。よくぞ打ち明けてくれたと思います。その言葉を絶対にむだにしたくないと考えています。

古坂大魔王さん(MC)

虐待する人をゼロにするのは難しいかもしれませんが、そんな親たちが減るように、今回の話をいろいろな人に伝えていきたいと思います。

鈴木あきえさん(MC)

罪悪感に押し潰されそうなとき、「自分だけ、できない親だ」と思ってしまいます。そんなとき、同じように苦しんでいる、どうにかしようと頑張っている親たちと話せるだけで、すっきりすることもあります。育児のイライラについて定期的に話して、パワーアップしていきたいと思いました。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです