思い通りにならない子育て。「ひとりにさせて」と思っても、自分の時間を持つことは簡単ではありません。実は、自分の時間を持つことは、子育てのときこそ重要だといわれています。では、どうすれば自分の時間を持てるのか、なぜ自分の時間が大切なのか、みんなでじっくり考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)
柴田悠(京都大学大学院 教授/社会学)

自分のための時間をつくることにとまどいがある…

番組のアンケートでは、ママ・パパのおよそ7割が「自分の時間を十分に持てていない」と答えました。なぜなのでしょう。

鈴木あきえさん(MC)

私も、自分の時間の大切さと、その時間を取ることの難しさを、親になって初めて感じました。

すくすくファミリー

朝4時ごろに起きて、子どもが起きてくるまでが自分の時間ですね。

すくすくファミリー

パパ/自分の時間を持てているほうだと思います。20~30秒のちょっとした時間でも、自分の時間と認識することで、意識的に息抜きをしています。例えば、ごみ捨ての帰りに外で深呼吸しながら伸びをすることがあります。積み重ねれば、1~2時間ほどになっていると思います。
ママ/2人目が生まれてから、自分の時間はほとんどなくなりました。専業主婦でずっと家にいますが、時間の作り方が下手かもしれないと、少し悩みます。ただ、友達との食事やマッサージなど、自分がリフレッシュするために子どもを預けるのはとまどいを感じます。

鈴木あきえさん(MC)

「自分が休むために子どもを預けることに抵抗がある」という気持ち、とてもわかります。

―― 大日向さん、柴田さん、みなさんの話を聞いていかがでしょう?

自分の時間を持つことへの外圧がなくなった一方で、内罰的な心理状態に

回答:大日向雅美さん

「時間の作り方が下手なのでは」「誰かに預けるのは罪悪感がある」と聞いて、胸が痛くなります。うしろめたさや、自分を責める気持ちは、人間の心理のバランスの問題だと思います。
かつては、「母となった女性が、自分の時間を欲しいと考えるのはよくない」という外圧が強くありました。今は、社会全体が「自分の時間は必要」と変わってきています。でも、外からの圧力が少なくなった分、逆に内罰的になり、自分自身で「それはよくない」と考えるなど、自分に制約をかけがちです。「一時預かりを使うには、それなりの理由が欲しい」と、自分で圧力をかけてしまうのはつらいですね。そんなに思い詰めなくてもいいときが、早くきてほしいと思います。

子どもを一時的に預けることで、育児ストレスが減り、育児の幸福感が上がり、不適切な養育行動が減る

回答:柴田悠さん

最近では、子どもを預けることで親子にどのような影響があるのか研究が進んでいます。2018年に発表された研究によると、余裕のない状況の親が子どもを預けた場合、子どもと少し離れることで心の余裕ができ、親のストレスが減るのです。子育ての幸福感も上がり、「子どもと一緒にいられて幸せ」「子どもとの触れ合いが成長になる」といった、ポジティブな気持ちも高まってくる。また、子どもにつらくあたってしまうような不適切な養育行動が減るといいます※1
※1 出典:「保育所は幼児教育の場として子どもと親にどのような影響を及ぼすか?」東京大学 山口慎太郎ほか(2018年)


私は、自分の時間を持つことに抵抗を感じていました。「子どもとずっと一緒にいられるのは幸せ、自分の時間を持つことは甘え」と考えていたのです。でも、自由に動けるパパをうらやましく思い、イライラをぶつけてしまうことがありました。「もう何もしたくない」と思っているときに、パパは飲みに行ったり、仕事で沖縄にでかけたり。そんなことが積み重なってイライラが爆発しました。
驚いたパパは、私に「自分の時間を持つこと」を提案しました。パパは娘を連れて公園へ行き、私は子どもが生まれて初めて持つひとりの時間をカフェで過ごしました。何をするわけではなく、コーヒーを飲んでぼ~っとしていました。でも、時計が気になったり、子どもの写真を見て「早く会いたいな」と思ったり、子どものことが気になるんです。ただ、30分ほどの時間でしたが、そのわずかな時間でイライラが消え、明日からも前向きに頑張ろうと思う気持ちを取り戻せたように思います。パパも、ふだんの私に戻ったと言っていました。今では、パパの休みに合わせて定期的にひとりの時間を持つようにしています。
(お子さん1歳1か月のママ)

古坂大魔王さん(MC)

育児の最初のころは、「30分、ぼ~っとする」ことすらできないですよね。苦しいですよね。

自分の時間が持てないことにみんなで気づき、少しずつ持つことからはじめる

回答:大日向雅美さん

ママが得た30分は、何時間もの重みを持っていると思います。そのような時間を、本当に持ってほしい。まずは「自分の時間が持てない」ことをみんなが気づいて、5分、10分、30分でも時間を持つところからはじめましょう。時間の価値を改めて考えさせられました。
そのことに気がつけたのは、爆発したことがきっかけでしたね。それは大事なことだと思います。思いを思いのままに打ち明けて、30分以上の意味がある時間を持てたのだと、とてもうれしく思いました。

古坂大魔王さん(MC)

たしかに、爆発は大事ですね。私も妻に爆発されて変わりました。

鈴木あきえさん(MC)

私も、何度も爆発してきましたよ。

私生活を社会全体で守ることが大事

回答:柴田悠さん

夫婦で話し合って進めることができたのが、すばらしいと思いました。自分の時間を持つことの大切さを示す研究もあります。欧米18か国の中で、仕事と私生活(自分の時間)の両立を支援している国と、支援が乏しい国を比較したものです※2

仕事と私生活の支援が充実した国では、社会全体で幸福感が高い

その研究によると、仕事と私生活の両立支援が充実している国では、子育てをしている人もそうでない人も幸福感に差がなく、社会全体で幸福感が高かったのです。

仕事と私生活の支援が乏しい国では、社会全体で幸福感が低く、子どもがいるとさらに低くなる

一方で、仕事と私生活の両立支援が乏しい国では、全体的に幸福感が低く、子どもがいるとさらに低くなることがわかりました。
私生活を社会全体で守ることの大事さを示す研究だと思います。
※2 出典:「Parenthood and Happiness: Effects of Work-Family Reconciliation Policies in 22 OECD Countries」Jennifer Glassほか(2016年)


こども誰でも通園制度

親が自分の時間を持つことが難しい中、国が本格実施を目指している「こども誰でも通園制度」が注目されています。この制度は、親の就労状況や理由を問わず、子どもを預けることができる制度です。モデル事業を行っている保育園を訪ねました。

仙台市にあるこの保育園は、通常の保育をしながら、定員の空きを利用して子どもを受け入れています。

朝9時、この制度を利用する親子が登園してきました。こちらのママは専業主婦で、現在は育児と家事に専念しています。「こども誰でも通園制度」は親の就労状況や理由を問いません。育休中や求職中、子育てに専念している人など、誰でも子どもを預けることができるのです。

対象は、生後6か月から2歳までの、まだ通園していない子どもたちです。親子の希望にあわせて定期的に利用することができます。

保育士

はじめての取り組みで不安もあり、在園児の中にモデル事業の子どもが週1~2回入ってきて、慣れてくれるのか心配でした。でも、今は子どもの順応力はすごいと感じています。何度か登園しているうちに、泣きながらでも親に自分から「バイバイ」する子もいました。ママ・パパからも「今まで家庭だけでは得られなかった成長を感じた」「自分の時間ができて助かる」と言ってもらえて、励みになり、役立っていると感じてうれしいですね。

実際にこのモデル事業を利用している親に話を聞いてみました。

  • 自分が落ち着いて休める時間をつくれたことが大きいです。SNSで見てた、行ってみたかったランチの店にも行けます。
  • 出身地を離れて周りに誰も知人がおらず、ずっと息子と2人だったので、とても不安な毎日でした。ここに預けるようになってからは、先生たちと話ができて、居場所が見つかった気がして、気持ちが楽になりました。一時的に子どもと離れますが、いい距離感ができて、子どもとうまく向き合えるようになったと思います。

まだ「こども誰でも通園制度」はモデル事業ですが、2024年の通常国会で関連法案が提出されます。2023年現在、制度の実施方針が検討されています。


親の心を守ることが、子どもを守ることにつながる

柴田悠さん

「こども誰でも通園制度」は、親の育児うつを予防するなど、親の心を守る上で大事な取り組みだと思います。親の心を守ることが、ゆくゆくは子どもを守ることにつながります。

保育士の労働環境を余裕のある状況にしていくことが大事

柴田悠さん

現在、保育士が不足している地域がまだまだあります。保育士をしっかり確保していかないと、現場である保育士や園が大変な側面もあります。保育士の処遇や配置基準を改善し、保育士の労働環境を余裕のある状況にしていくことが大事です。
親の心の余裕だけでなく、保育士の余裕も同じように大事です。余裕がないと、しっかりとした保育ができないのは当然だと思います。私たち専門家も、そういったことを政府に訴えていきたいと思います。


自分の時間、何をすればいいの?

すくすくファミリーから、「自分の時間が持てても、何をすればいいのかわからない」という声もありました。

パパから「子どもたちを見ているから、何かしたら」と言われて、不意に一人の時間ができたとき、そわそわしました。いつも忙しいのが日常なので、かえってもの足りなさや、ぽっかり穴が空く感じがしたんです。子どもがいないと時間を埋められなくなってきている自分がいます。
(お子さん7歳・5歳・2歳5か月・3か月のママ)

ママと「自分の時間が持てたらどう過ごすか」を夫婦で話し合いました。私はすぐにやりたいことが10個ほど出てきましたが、ママは「ほとんどない、たまった家事がしたいぐらい」だったんです。やりたいことが思い浮かばないことにとても驚きました。
(お子さん2歳7か月・6か月のパパ)

―― 大日向さん、これはどう考えたらいいでしょうか。

子どもに振り回されながら時間を過ごすと、自分は何をしたいのかわからなくなることも

回答:大日向雅美さん

パパはしたいことがたくさんあるのに、ママは思いつかない。そこにパパは驚いたといいます。とても重大な問題をはらんでいると思いました。これは、パパ・ママ、男性・女性ということではなく、生活スタイルの違いだと思います。仕事は、今日、今週、来月と予定を立てるもので、その隙間に自分のしたいことを考えることができます。でも、子どもとのつきあいには予定が立てられません。相手の都合にお構いなしなのが子どもですから。
子どもに振り回されながら時間を過ごしていくと、頭の中が真っ白になって、ときには思考停止状態になります。「自分は何をする人?」「自分は何をしたいの?」と、わからなくなってしまうこともあります。そういう状態に置かれることが、子育ての中で自分の時間を持てないつらさです。

自分の生き方を考える

回答:大日向雅美さん

自分の時間をつくるのは、人間宣言なのです。自分の生き方をスケジューリングしながら、自分がどう生きたいかを考えていけたらいいですね。そのためにも、夫婦で何ができるのか、いろんな支援を使って埋めることができるのか、考えてみましょう。

鈴木あきえさん(MC)

パパ・ママがお互いの違いに驚いたということが大事な1歩なんですね。これからは、夫婦でさらに話し合っていくということですね。

大日向雅美さん

パパが驚いたことは、すごいですね。先ほど「爆発するのが大事」と言いましたが、一緒に暮らしていて相手の違いに気づく感性がすてきだと思いました。

みんなは自分の時間をどう過ごしているの?

すくすくファミリーのみなさんに、どのように自分の時間をすごしているか聞いてみました。

服作り

服作りをして、自分を取り戻しています。ママになって2年ほどですが、離乳食などで自信がないことが多く、正解がない子育てのなかで自己肯定感が下がっていると感じて。服作りには、その服を着て子どもたちが楽しんでいる姿を写真で撮れるというゴールがあるので、自己肯定感がとても上がります。
(お子さん2人のママ)

早朝ウォーキング

早朝ウォーキングをしています。子育て中は、両腕に何もない状態で自分のペースで歩く自由もないので、本当に開放感があります。「この坂道は、ちょっと早歩きで歩きたいな」「今、気分が乗ってるな」「今、落ち込んでて、ちょっとゆっくり歩きたいな」と思いながら歩いていると、一人で歩くことがこんなにも自分に集中できるんだと気づきました。
(お子さん2人のママ)

早朝筋トレ

早朝の筋トレで、体力強化しています。体を動かすことでストレスがリセットされ、新たな気持ちで子どもに向き合うことができます。
(お子さん5歳・3歳のパパ)

手帳に自分の思いを書く

手帳に自分の思いを書いています。ポイントは3つです。1つ目は「Keep」、今後も続けていきたいことを書きます。2つ目は「Problem」、現在抱えている問題です。そして「Try」、問題を解決するためにやってみることや、挑戦したいことを書きます。書くことで、今自分はどこにいて、これからどうしたいのか、自分の現在地がわかるように思います。「人生をこうしたい」ということは、節目節目でまとめています。子どもとすごしていると毎日が忙しく過ぎていきますが、大事にすごせるように思います。
(お子さん2人のママ)


自分の時間の過ごし方に迷ったら、散歩、自然の中で20分以上ぼ~っとするのがおすすめ

柴田悠さん

人それぞれに、「いちばん心地いい」「リラックスできる」「自分の気持ちに向き合える」という方法があると思います。もし迷ったら、まず散歩をするのがおすすめです。疲れて散歩もできないときは、ぼ~っとするだけでもいいのです。
ある研究に、自然の豊かな公園で20分以上ぼ~っとするだけでも幸福感が上がるという実験結果がありました。散歩できない場合は、自然のある公園で20分ぼ~っとしてみてください。それだけでも気分がリフレッシュしたり、自分の気持ちに気づけたりすることがあると思います。木でも、森でも、海でもいいので、自然が大事です。

鈴木あきえさん(MC)

親になるまで、ぼ~っとすることがそんなに大事だとは気づきませんでしたね。

しなやかに自分の時間を求めることをあきらめない

大日向雅美さん

ぼ~っとしているときも、息をしていますよね。自分の時間を持つということは、呼吸をすること。そして、自分の生き方を見つめることのように思います。みなさんの過ごし方は、さまざまでしたね。正解はありません。人によって違うし、自分の中でも時間の使い方が変わっていきます。しなやかに、何があっても自分の時間を求め続けることをあきらめないことが大事だと思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです