子どもの発熱の原因はさまざまですが、今回は感染症による発熱について考えます。今、発熱を伴う重症化しやすい病気は、予防接種でかなり防げるようになってきているといいます。でも、子どもの発熱は親にとっていつでも非常事態ですよね。発熱したら体をあたためるの、冷やすの? 熱があるときの食事は? そんな疑問に専門家が答えます。

専門家:
福井聖子(大阪府小児救急電話相談事務局 所長/小児科医)

#8000 小児救急電話相談(こども医療電話相談)

「#8000 小児救急電話相談(こども医療電話相談)」は、休日・夜間の子どものケガや病気の対処法、受診の判断に迷ったとき、小児科医・看護師に相談できる窓口です。
全国統一の短縮番号「♯8000」をプッシュすることにより、お住まいの都道府県の相談窓口に自動転送されます。
※地域によって実施時間などが異なります

―― 福井さん、「#8000」は子どもの急な病気やケガの相談ができますが、発熱の相談は多いのですか?

福井聖子さん

どの都道府県も、発熱に関する相談がいちばん多くなっていますね。

鈴木あきえさん(MC)

私も、以前「#8000」にかけたことがあります。こちらがとても焦っているので、専門家の声を聞くだけで安心しますね。「その地域にお住まいでしたら、この病院とこの病院、この時間ならこの病院に行けます」と教えてもらえました。対処法も教えてくれるので、お守りのように感じます。
※住んでいる地域の「医療機関案内ダイヤル」を伝える地域もあります


子どもが発熱したとき、体をあたためるの? 冷やすの?

子どもが1歳になったころ、夜中に39度ぐらいの熱が出たことがあります。かかりつけ医に行ける時間ではなく、急に熱が上がって動転してしまいました。大人であれば「あたたかくして寝る」「頭を冷やす」といった対処をすると思いますが、子どもの場合はどうすればよいのか、はっきりわからなかったんです。子どもが急に発熱したとき、体をあたためるのがよいのか、冷やすのがよいのか、どうしたらいいでしょう?
(お子さん1歳6か月のママ)

まずは熱がどうなるかをみる

回答:福井聖子さん

はじめてのときは、とても心配ですよね。発熱そのものは、基本的に急いで対処する症状ではないんですよ。熱が上がっているときは、まず家でゆっくり安心して過ごし、落ち着いて熱がどうなるかをみましょう。

熱が上がっていて寒気があるときはあたため、熱が上がりきったら涼しくする

回答:福井聖子さん

熱の見方として、最初に寒気がするときは高い熱が出る場合が多いです。それほど高くない熱だと、寒気までいきません。感染症のときの発熱は、ウイルスや菌などとたたかうための体の防御反応です。体中を震わせて熱を上げようとするため寒気がするのです。手足が冷たくなったり、顔色が悪くなったり、子どももつらそうに見えます。そんなときは、あたためてあげましょう。無理に汗をかかせる必要はありません。

子どもの発熱

熱が上がりきると、今度は体から熱を外に出すように体が調節していきます。とても暑そうで、熱が上がっているように見えますが、子どもの熱は横ばいになります。熱が外に出やすいように涼しくして、楽に過ごせるようにしてあげましょう。

―― 涼しくするときは、アイス枕や冷却シートを使うのですか?

冷却シートに解熱効果はあまりない

回答:福井聖子さん

実は、冷却シートに熱を下げる効果はあまりありません。でも、気持ちよくなるので、子どもが楽になるのであれば使って、子どもが「もういらない」と言うなら無理に使う必要はありません。
※冷却シートの使用時は、シートが口や鼻に貼り付かないように注意してください

熱中症は保冷剤などで冷やす、発熱はそれほど冷やさなくてよい

福井聖子さん

熱中症の場合は、体を冷やさないといけません。脇・首・足の付け根などを保冷剤などで冷やします。
一方で、感染症の発熱は、それほど冷やす必要はありません。室温を少し涼しくする、薄着にする、ぬれたタオルで体を拭いてから、うちわであおぐなどがやりやすいと思います。


子どもの発熱、受診の目安は?

子どもが発熱したとき、どのようなタイミングで病院に行けばよいのでしょうか? 夜間など救急受診を迷うときもあります。発熱時の受診の目安はありますか?

全身状態が悪い、病気に体力が負けそうなときは受診を。ふだんの様子を知ることも大事

回答:福井聖子さん

熱に加えて、全身状態が悪いとき(病気に体力が負けそうな状態)は、医療の助けが必要なので、受診したほうがよいでしょう。
全身状態は、子どもの機嫌などでみますが、4か月くらいまでの赤ちゃんは機嫌がとてもわかりにくいので、受診の目安は、生後4か月の前後で変わってきます。

生後4か月未満の赤ちゃんは、おっぱいやミルクを飲まなくなる、泣き声が弱々しいなどです。激しく泣いているときはまだ力がありますが、ふだんと違って弱々しいときは気をつけてください。その他、手足の動きが悪いぐらいぐったりしている、顔色・手足の色が悪い、呼吸が息苦しそう、38℃以上の発熱などが目安になります。ただ、予防接種を受けた後の発熱は、38℃以上でも、明らかに予防接種の副反応の場合は様子をみてもよいでしょう。心配なときは受診してください。

4か月以上の場合は、異様にぐずる、ぐったりしている、まったく遊ばない、顔色が悪い、呼吸が苦しそう、いつになく頭を痛がるなどが目安になります。

これ以外でも、「どこか変」と感じるときや、心配な場合はためらわず受診をしましょう。子どもの様子が「どこか変」と感じるには、遊び方、食べ方、体温・皮膚のハリなど、ふだんの子どもの様子を知っておくことも大事です。確実に「これはいつもと違う」という部分を、ふだんの生活の中で把握しているといいですね。親の直感も大切です。


すぐに受診が必要な場合

以下のような場合は、夜間・休日関係なく、すぐに受診しましょう。

生後4か月未満

  • おっぱいやミルクを飲まなくなる
  • 泣き声が弱々しい
  • ぐったりしている
  • 顔色・手足の色が悪い
  • 呼吸が苦しそう
  • 38℃以上の発熱 など

生後4か月以上

  • 異様にぐずる
  • ぐったりしている
  • まったく遊ばない
  • 顔色が悪い
  • 呼吸が苦しそう
  • いつになく頭を痛がる など

その他

親から見て「どこか変」と感じるとき

熱が出て急変しやすい肺炎球菌・Hib(ヒブ)感染症は、予防接種で激減

福井聖子さん

発熱の原因となる感染症には、さまざまなものがあり、重症化するものにはワクチンが開発されてきました。
その中でも、「細菌性髄膜炎」の原因となる肺炎球菌・Hib(ヒブ)感染症は、熱が出て急変しやすく、重い障害を残したり、子どもが亡くなったりする病気として恐れられてきました。ワクチンが開発され、予防接種の定期接種の対象となってから激減しています。

子どもに多い 発熱しやすい感染症

―― 子どもの高熱が続くと、脳に悪い影響がありますか?

通常、発熱そのものが脳にダメージを与えることはない

回答:福井聖子さん

発熱そのものによって、脳にダメージがあることはないといわれています。ただ、41℃以上の熱が続くなど、特殊な状況な場合は除きます。通常、子どもがかかる感染症では、そこまでの高熱はでませんし、40℃が続いても脳に悪影響がでることはありません。
「高熱が脳に影響する」というイメージは、脳症・脳炎・髄膜炎などの、高熱を伴う「脳の病気」からきていると思います。これらは、そもそも脳にダメージを与えることがある病気で、後遺症の心配もあります。すぐに受診してください。

―― 子どもが発熱したとき、脳に影響がある病気なのか、いわゆるかぜなのか、判断する目安はありますか?

脳の症状が出る

回答:福井聖子さん

高熱が出ているけれど、いつものように眠っているような場合は大丈夫です。脳症・脳炎・髄膜炎などの脳の病気は、脳の症状が出ます。意識がもうろうとしている、受け答えがおかしい、呼吸が速い、呼吸が深い、けいれんするなどです。このような場合は、すぐに受診してください。これらの症状以外でも心配なら受診しましょう。


発熱時の食事はどうしたらいい?

以前、息子(1歳9か月)が39℃の熱があるのに、ごはんをすごく食べたがったことがありました。「食べるのは元気なことだ」と思って、どんどん食べさせたのですが、最後に全部吐いてしまいました。発熱のときの食事の注意点などがあれば知りたいです。
(お子さん6歳・1歳9か月のママ)

発熱時などは、胃腸の動きが悪くなりやすい

回答:福井聖子さん

基本的に「このようにしなさい」といったものはありませんが、病気のストレスで、胃腸の動きなどが悪くなりやすくなります。39℃などでつらそうなときは、食事は少なめのほうがよいかもしれません。たくさん与えたあとにもどしてしまっても、そのことで病気が悪くなることはありませんので、次から注意すればいいと思います。

おう吐後30分程度は胃腸を休ませる

回答:福井聖子さん

おう吐したあとは、どうしても吐き気が続き、すぐに食べると吐いてしまいます。発熱以外のときでも、おう吐のあとは30分程度胃腸を休ませたほうがよいでしょう。

―― 食事の内容は、どのようなものがよいですか?

発熱時の食事は、消化のよいもの・刺激の少ないもの

回答:福井聖子さん

胃に負担がかからない、消化がよいもの、刺激の少ないものがよいでしょう。消化によいものは炭水化物に多く、うどんやおかゆなどです。タンパク質であれば、白身魚や鶏など、あまり脂っこくないもの。また、アレルギーがなければ、プリンや豆腐などは食べやすいと思います。

子どもの様子を見ながら調節していく

回答:福井聖子さん

病気になったときの食欲は、子どもによって違います。お子さんが「食べたい」と言ったのも、ある程度食欲があったのでしょう。ただ、「栄養がつくから」といって無理に食べさせると、負担になっておう吐することもあるので、子どもの様子を見ながら、そのときに合わせて調節していきましょう。


子どもの発熱、解熱薬は使ったほうがいい? 使わないほうがいい?

もうすぐ2歳になる娘は、ふだんは元気いっぱいですが、たまに発熱することがあります。熱でぐったりすると心配で、解熱薬を使ったほうがいいのか悩みます。ただ、ママは「あまり薬に頼りたくない」、パパは「かわいそうだから解熱薬で楽にしてあげたい」のように2人で考えが違います。
また、かかりつけの医師のほか、夜間診療などで違う医師にかかることがあります。そのとき、医師によっても解熱薬に対する考え方が違うので、いつも迷います。解熱薬は使う・使わない、どちらがよいでしょう?
(お子さん1歳11か月のママ・パパ)

解熱薬は病気の根本を治すものではない

回答:福井聖子さん

まず、解熱薬は病気の根本を治す治療薬ではありません。熱で苦しいとき、熱を下げて楽にするなどの効果のために使う、対処療法の薬です。病気を治すための薬ではないので、できるだけお薬は使わないと考える医師もいます。一方で、解熱薬を使うことで、眠れなかった子が眠れる、水分をとれなかった子が飲めるようになるなど、楽になって体力回復の助けになると考える医師もいます。

使うときは、小児科で処方される解熱薬を

回答:福井聖子さん

小児科領域では、強い解熱薬を処方しません。安全なかたちで解熱薬を使います。大人用の解熱薬を子どもに使うと、副反応などが考えられます。子どもには、小児科で処方される解熱薬を使い、大人用は使用しないでください。
※生後6か月未満は、体温を下げ過ぎてしまう場合もあるので医師に相談を

解熱薬の使用目安

福井聖子さん

解熱薬の使用目安は、熱が38~38.5℃以上です。でも、「熱の高さ=状態の悪さ」ではありません。体温だけでなく、全身の状態を見ながら使ってください。1度使ったら、6時間以上間隔をあけて様子を見ましょう。

解熱剤使用の目安(38~38.5℃以上)

眠っているときにわざわざ飲ませる必要はありません。眠ること自体に治療効果があります。起きているときも、水分をきちんと飲む、少しぐずるけど遊んでいるなど、機嫌がよさそうなときは使わなくても大丈夫です。

また、解熱薬(飲み薬、座薬)を使うのは、熱が上がりきったあとがよいでしょう。少し寒がるなど、熱が上がっているときはあたためて様子をみて、手足があたたかくなって熱が上がりきってから使うとよく効き、楽になります。解熱薬を使うタイミングも大切です。

―― 熱が出ているときはウイルスと戦っているから、飲ませないほうがいいと聞いたことがあります。解熱薬を使うと治りが悪くなるのでしょうか?

実際に様子をみていると、そこまでの違いは感じない

回答:福井聖子さん

理論的にはあるかもしれません。ですが、実際に様子をみていると、解熱薬を使ったことで長引いたといった違いは、あまり感じません。解熱薬でぐっすり眠れて、体力を回復したということもあります。


子どもが熱性けいれんを起こしたとき、どう対応する?

娘(3歳8か月)は、これまでに熱性けいれんの経験が4回ほどあります。
1歳4か月のとき、39℃近い熱が出て、ママがだっこしていたときにけいれんを起こしました。そのとき、ネットで見た記事を参考に、時間を計り、けいれんの様子を記録するためにスマホで撮影しました。12時間後にもけいれんが起き、全身がこわばり、唇の血色も悪く見えました。
育児書やネットで熱性けいれんについての知識はあったので、おう吐したときに窒息しないよう横に向けるなどしました。でも、いざ目の前にすると怖くて焦ります。1分ぐらいでおさまると聞いていましたが、体感では1分どころではありません。今でも鮮明に覚えています。
翌年も高熱が出て、今度は5分以上続くけいれんを起こしました。このときは夫婦で考えて救急車を呼びました。けいれんのときの受診の基準や、親がとったほうがいい行動を知りたいです。
(お子さん8歳・3歳8か月のママ・パパ)

熱性けいれんを起こしたら、横にする、顔を横に向ける、時間を測る

回答:福井聖子さん

熱性けいれんは、子どもの1割程度に起こるとされ、1~5歳くらいに多くみられます。熱がぐっと上がるだけで、頭の中に火花が散るみたいになり、体がこわばるなどします。

熱性けいれんを起こしたら…

倒れるとケガをするので横にするか、だっこしてください。だっこでこわばりが伝わり怖く感じるのであれば、横にしてあげましょう。顔が上向きだと、おう吐したときに口に詰まってしまうので横に向けるのです。

以前は、舌をかまないように口にものを入れる話がありましたが、それは窒息する恐れがあるので危険です。舌をかんだりはしないので、口にものは入れず、横に向けておけば大丈夫です。そして、時間を計ることが大事です。家のどこかに、秒針付きの時計があるといいですね。

けいれんが止まると、泣き出したり、体の力が抜けて硬直が解けたり、顔色がもどったりします。
ご相談のママ・パパは、対応がすばらしくて、とても頑張ったと思います。

救急車を呼ぶ目安は、5分以上続くけいれん

回答:福井聖子さん

5分で救急車を呼んだこともよいと思います。救急車を呼ぶ目安は、5分以上続くけいれんだといわれています。ただ、厳密に5分というわけではなく、一応の目安です。多くのけいれんは3分以内に止まるので、5分続くときは、もう少し長く続くかもしれません。その時点で救急車を呼ぶと、安全な時間内に到着できるので、「5分で動いてください」と言われています。5分未満でも、心配なら救急車を呼びましょう。

動画は診断に役立つが必須ではない

回答:福井聖子さん

けいれんの様子を撮影した動画は、熱性けいれん以外に、てんかんなどほかの病気が隠れていないかを医師が判断するのに役立ちますが、必須ではありません。動画がなくても、医師から質問があるので診断への影響はありません。

熱性けいれん 観察のポイント

撮影しなくても、観察することが大事です。左右差がないか、黒目はどちらを向いているかなどがポイントです。


専門家からのメッセージ

乳幼児期に看病する経験は、その後の子育てにも生きてくる

福井聖子さん

小さな子どもが熱を出したとき、こんな表情になっている、手が熱くなっているなど、かわいそうだと思って一生懸命に子どもを看病しますよね。その気持ちは、子どもが成長してからも大事なものになっていくと思います。中学生になって思春期に入っても、顔色をみれば体調不良ではないかと感じて、「体調、悪いの?」と言えます。小さいときの経験や積み重ねが、子どもが大きくなってからも生きてくると思います。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです