7か月前から赤ちゃんとの生活がはじまった丸山桂里奈さん。離乳食を1日に2回食べるようになり、成長を感じるといいます。でも、楽しみにしていた子育ては想像以上の大変さで、赤ちゃんが泣きやまなくて、一緒に泣いてしまったこともあったそうです。そんな桂里奈さんと赤ちゃんとの生活を振り返りながら、まもなく出産・育児が始まるプレママ・プレパパや専門家と一緒に、はじめての子育てのヒントを探ります。

専門家・ゲスト:
丸山桂里奈(元サッカー女子日本代表)
大日向雅美(恵泉女学園大学 学長/発達心理学)

産んでみてはじめてわかったこと

2023年2月、女の子を出産した丸山桂里奈さん。産後、感染症にかかってしまい19日間の入院生活、退院後に子育てがスタートしました。産後2~3か月はお世話に追われ怒とうの日々で、記憶がなくなるほどだったといいます。

自宅に戻って12日目、自身の動画配信で育児の状況をこう話しました。

この前も、自分の顔を5日間ぐらい洗っていなかったんですよ。髪の毛も、帰ってきてから3日ぐらい洗ってなかったです。顔も洗うのも忘れちゃうぐらい、全く時間がなくて、こんなこと生きてきた中ではじめてです。
(丸山桂里奈さん)

赤ちゃんが何をしても泣きやんでくれない、理由のわからない「謎の泣き」にも、たびたび途方に暮れました。

自分が産んだ子でとてもかわいい、育児も大丈夫だろうと思っていました。でも、かわいいとかいう問題では解決できない、それだけでは育児は無理だと思いました。サッカーの走り込みも大変でしたが、大変さが違います。
(丸山桂里奈さん)

でも、産後2〜3か月になると、泣いている理由が少しずつわかってきたそうです。

ただ、まだ授乳後の吐き戻しがあったり、眠ってくれないときもあったり、相変わらず悩みはつきません。

きっと育児に正解はないのだけど、わからなすぎて、自分自身で詰め込んでやってしまいます。ママたちにいろいろ教えてもらえてとても助かりますが、人によって意見が違って、看護師さんもいろいろですよね。考えだすと果てしないです。
(丸山桂里奈さん)


鈴木あきえさん(MC)

まさに産後のリアルですね。自分の産後の記憶が鮮明によみがえってきました。楽しさ、うれしさだけではない、責任感や心配、とにかく眠い。いろいろな気持ちでいっぱいになっていました。

丸山桂里奈さん

子育てはすごく大変だけど、本当に自分の愛する存在で、鼻に入れても痛くないと思えるんです。

古坂大魔王さん(MC)

きっと、目に入れても痛くないですね。

産んでみてはじめてわかったこと「果てしなく続く育児」

丸山桂里奈さん

自分が子どもを産んで、「これからずっとお母さんなんだ」と思って、そのことに向き合うと1日が本当に一瞬なんですよね。朝も昼も夜も、ずっと娘につきっきりです。ごはんや家事など、自分たちの生活でしなくてはいけないことがあってもできなくて、葛藤もありました。赤ちゃん中心なのは当たり前なんですけどね。

鈴木あきえさん(MC)

私が子どもを産んで、自分の家に帰ったときに、すごくうれしい気持ちと同時に「あ! 今後、一人の時間がないんだ…」と絶望感のような気持ちも少しありました。

丸山桂里奈さん

わかります。私もそうでした。

産んでみてはじめてわかったこと「謎の泣き」

丸山桂里奈さん

本当に何をしても泣きやみませんでしたね。例えば、おむつかな? おなかすいたかな? 寂しいのかな? などいろいろ考えて、ありとあらゆることをやっても泣いていて、だっこしてもだめで。泣きやみそうかなと思ってもずっと泣いて、「もう、どうしたらいいんだろう」と毎日思っていました。全くわからなかったです。

―― 7か月になった今はどうですか?

丸山桂里奈さん

今は、ある程度、意思疎通ができていると感じます。「おなかすいてるんだな」「おむつ汚れているのかな」と徐々にわかってきました。一緒にいると、通じ合うものがあるように思います。

―― 理由のわからない泣きには、どのように対応していたんですか?

丸山桂里奈さん

自分が全部、ありとあらゆることをしていたので、一緒に泣いてしまったときもありますよ。
赤ちゃんを落ち着かせるために、家の中を歩きまわってみたり、歩きまわるルートを変えたりしましたね。泣きやむまで、ずっとだっこをしていたように思います。気づけは1~2時間ぐらいたっていることもありました。高く上げてみたり、下げてみたりもしましたね。関係ないようでしたが。

―― ちなみに、ご両親と同居しているんですよね?

丸山桂里奈さん

そうなんです。私の実家で一緒に暮らしています。もちろん、両親のサポートもありますが、親も仕事があるので、育児のメインは夫婦2人でやっていこうと決めて、そうしています。家族の支えがあるのは、とてもありがたいです。2人でも大変なのに、1人で育児をしている方はなおのこと大変だと思います。

―― 大日向さん、桂里奈さんの話を聞いていかがでしたか?

大日向雅美さん

産後の動画配信は、とても貴重だと思いますよ。映像でみると、目もうつろで、表情もない状態で。それから7か月、これまでのことを語るまでに力をつけたんですね。

丸山桂里奈さん

本当に貴重ですね。そのときは、こんな自分になれると考えられませんでしたが、振り返ると「あのときは一瞬だったな」と感じます。とてもいい経験になったと思います。


産後のサポート、祖父母に頼れないときは

我が家の場合、両親のサポートが受けづらい環境です。私の両親はなくなっているので、里帰りもありません。今後、どういった形で行政以外に助けを求めていけばいいのか不安です。どう世界を広げていけばいいでしょうか。
(妊娠7か月のプレママ)

近所の方に声をかけておく

大日向雅美さん

よく祖父母を頼ろう、「祖父母力」という声がありますね。でも実は、現実的ではない場合が多いんです。だから、祖父母がいないということをネガティブにとらえ過ぎないで、相談にあった「どう広げていけばいいでしょう?」「どう探したらいいでしょう?」ということを、地域の方に聞いて探してみましょう。とてもいい質問だと思います。
ママだけでなく、パパと一緒に近所をまわってみてください。例えば、「何月ごろに生まれます」「ご迷惑をかけるかもしれませんが」と声をかけておくわけです。事前にまわっておくのはとても大事だと思います。

地域の子育て支援サービスに、あらかじめ足を運び相談してみる

大日向雅美さん

行政でも、NPOが運営している子育てひろばや、子ども家庭支援センター、包括支援センターなどが、地域にたくさんあります。今、体ひとつで動きがとれるうちに調べておきましょう。そして、あらかじめ足を運んで、スタッフに「困ったら助けてくださいね」と相談しておくのもいいと思います。

丸山桂里奈さん

自分が産むまでは、あまり気にかけていませんでしたね。今は、親にやさしい環境やサービスがあるといいなと、本当に思います。

鈴木あきえさん(MC)

子育てに対する社会の姿勢や、行政のサポートにも気がいくようになったんですね。

丸山桂里奈さん

そうなんです。以前は全く考えていませんでしたね。


産後のメンタル

実は桂里奈さん、臨月のときに大日向さんと対談して、ある不安を語っていました。「友人が赤ちゃんを産んで、そのあと心の不調を訴えていた、私もひと事ではないと思う」といったものでした。実際に、産んでから気持ちの変化はあったのでしょうか。

退院して3日目のSNSに、当時の心境がつづられていました。

心細かったり不安になったり、自分ってこんな神経質だったかな? ってくらい、まじで自分がわからなくなるときもあります。娘にも不安な気持ちがうつらないように、私が気楽にいかなくちゃね!! 深呼吸します。
(丸山桂里奈さん)

こんなふうに、たびたび不安な気持ちに襲われていた桂里奈さん。産後のメンタルとどう向き合ったのでしょうか。


鈴木あきえさん(MC)

桂里奈さんも、産後の気持ちが不安定になったこともあったんですね。

丸山桂里奈さん

毎日、本当に気持ちのアップ・ダウンが激しくて、行ったり来たりという感じでした。何があるわけでもないのに、突然泣けてきたり。そういったことが今までなかったので、自分でも驚きました。

古坂大魔王さん(MC)

丸山さんは、サッカー選手としては自分に厳しくしていたほうですか?

丸山桂里奈さん

まったくそんなことはありません。適当でした。でも、子どものことになると違うんですね。教科書通りにしないといけない、全部しないといけないと思って、追い詰められたところもありました。これまでの人生で、そんなことを考えたことがなかったです。まわりの人たちから「そんなに追い詰めないほうがいいよ」と言われても、「それは私の立場になってみないとわからないよ」と思っていたんです。

古坂大魔王さん(MC)

よく「産後うつ」ということも聞きますね。ひと事ではなかったですか?

丸山桂里奈さん

産む前は「絶対自分は大丈夫だろう」と思っていたんです。でも産んでみると、「自分の子どもだから自分の一生をかけて」と考えながら、「この大変なことが一生続くの?」と思って、このままだと自分がだめになるかもしれないと感じるぐらい追い詰められていました。「産後うつ」はひと事ではないと思いましたね。

大日向雅美さん

先ほどから言われている「産後うつ」ですが、細かいことにこだわると、それはうつではなく「マタニティブルーズ(産後ブルー)」なんです。産後、女性ホルモンの急激な変化により、ー時的に心が不安定になる状態を言います。
これは、ほとんどの人がなりえます。出産前から、一過性のブルーになることをわかっていれば、「あっ来た来た!」と思って、周りの人もわかった上でサポートしていると、薄紙を剥ぐように治っていきます。

マタニティブルーズは、ほとんどの場合、産後、数週間のうちに落ち着いてきます。ただし、長引く場合は注意が必要です。少しでも不安を感じたら、かかりつけの産婦人科や助産院、地域の保健センターなどに相談をしましょう。また妊娠中から不安を強く感じる方は、早めに専門機関とつながっておくと安心です。

おもな相談先:出産した施設、地域の助産院・保健センター、全国助産師会の電話相談など


子どもが産まれてからの夫婦

桂里奈さんは、出産前に理想の夫婦像についてこう語っていました。

よく知り合いから夫の愚痴を聞くんですよ。こうはなりたくないなと思って。2人で協力してハッピーに子育てできるようになるには、どうすればいいのかな。
(丸山桂里奈さん)

夫婦で協力して子育てしたいと語っていた桂里奈さんでしたが、実際はどうだったんでしょうか。

桂里奈さんの期待に応え、夫の本並健治さんは、赤ちゃんのお世話を習っていました。子育てがスタートしてから、積極的に育児に向き合っているのです。

桂里奈さんいわく、夫は「あやしのプロ」「寝かしつけのプロ」「げっぷを出すプロ」だそうです。「私がやるより赤ちゃんが安心する」と、とても頼りにしています。

でも、この7か月、涙ながらに夫に訴えたり、ときには夫婦で言い合ったり、いろいろあったそうです。


丸山桂里奈さん

「子育てはハッピーにやりたい」「夫の愚痴は絶対言わない」と言っていましたが、今となっては、「本当にそんなことを言ってたの? 何で?」と思うくらいです。産む前はわからなかったんですね。育児は協力してやろうと言っても、だっこのしかたひとつで意見が割れて、お互い引かずにケンカになるなど、いろんな衝突がありました。

―― ぶつかり合いながら、どう夫婦の関係を立て直したんですか?

丸山桂里奈さん

ママの立場だと「パパには、言わなくてもこれぐらいわかってほしい」と思っていたんです。でも、夫からすれば「言ってくれないと分からない」と。それで、「これをやってほしい」と全部言うようにしました。すると夫も「そこは気づかなかった。僕はこういうところをやるね」と言ってくれて。そんなコミュニケーションで乗り越えた気がします。

―― 言葉をたくさん交わしたんですね。

丸山桂里奈さん

そうですね。最初は「これを言ったら『嫌だな』と思われるかな?」と、いろんなことを考えていましたが、そんなことは関係ないと思うようになりました。本当に大変だから、とにかく全て吐き出そうと思って。それから徐々に変わっていったと思います。

―― 大日向さん、桂里奈さんの話を聞いていかがでしたか?

大日向雅美さん

出産前に会ったとき、「夫の愚痴を言いたくない」と言っていましたね。桂里奈さんの本並さんへの感情は、恋だったと思います。それが今は、愛に変わったなと感じました。愛は、お互いの嫌なところ・醜いところも受け入れることができるか、バトルができるかだと思います。いろんなプロセスを経て、それでも一緒に生きていこうとなったわけですよね。
夫への恋一色が、子どもが生まれてどう変わるのかたのしみにしていましたが、もう愛に変わってきているのだなと思いましたね。


仕事が忙しいパパ。子育てと仕事、どう両立すればいい?

仕事が忙しいパパが、育児に関わることができるか気がかりです。ママは、ひとりで子育てすることになるのではと心細く思っています。パパは、一生懸命働いて家族を養っていかないといけない気持ちもあり、ワークライフバランスをどうしたらいいのか悩んでいます。
(妊娠7か月のプレパパ・プレママ)

古坂大魔王さん(MC)

これは会社との話し合いだと思いますね。ママと同じ時間を過ごすことが大事だと思うんです。私は、2人目の子どものときに、たくさん時間をとるようにしました。

どうやったら夫婦の関係がうまくいくか考えてほしい

大日向雅美さん

ワークライフバランスといっても、理解のある会社も、見かけだけの会社もありますよね。昔から全く変わらないところもたくさんあります。だから、やっぱり戦うことなのです。古坂さんが「時間が大事」と言うように、育児に関わる時間を絶対に確保してほしいです。
でも関われなかったら、家庭とは別のところでボロボロになるほど戦っていいと思います。通用しなかったときは、「上司に言ったけど、全然だめだったよ」「許せないよね」と、妻に弱音を吐いてもいいのです。そんな会話もほしいですね。「僕は家族を養う」というその気持ちも大事にしながら、どうやったら夫婦の関係がうまくいくのか、きれいごとではなく、現実を見ながら考えてほしいですね。

プレママ

とても言葉が刺さりました。自分が出産する側なので、どうしても体や気持ちの変化を先に感じます。夫は仕事が忙しくて、大変さもわかるけど、やっぱり一緒にいたい、話を聞いてほしい、寄り添ってほしい思いがあります。この前も夫婦で話し合ったばかりで、こんな言葉を聞けて、「そうだよな」と思えて、勇気をもらいました。

プレパパ

まだ、周りに育児休業をとった人がいない環境なんです。そういった意味では考え方を改めて、会社と話し合って、前例をつくっていくことも意識したいと思いました。

古坂大魔王さん(MC)

育児休業は、全面的に休むことに無理な場合があるので、週1回を2年間など、いろいろな形で取得できるようになるといいですよね。


夫婦で伝えるようにしている言葉は?

桂里奈さんの、夫婦で伝えるようにしている言葉、言わないようにしている言葉があれば教えてください。
(妊娠7か月のプレパパ)

丸山桂里奈さん

シンプルかもしれませんが、まず「ありがとう」を伝えるようにしています。あとは、「首がすごい太いね」といったこともすごく喜びます。「肩幅広いなー」と、そういうこともなるだけ言うようしてますね。

鈴木あきえさん(MC)

それは、いいかもしれませんね。夫からすると、自分を見てくれているんだと感じてうれしいと思います。

古坂大魔王さん(MC)

私は、感情で話をしたほうがうまくいく気がします。どうしても、理論的に「こういう事実があって…」と話しがちで、たいてい失敗しました。それよりも「疲れたし、かわいいし、好きだし、愛してるし」と、ロジカルよりもエモーショナルなほうがいいと思うんです。

夫婦は喜怒哀楽を分かち合うために生きている

大日向雅美さん

桂里奈さんがおっしゃったように、感謝、そしてねぎらいですね。この2つがあれば十分だと思います。パパが仕事から帰って、「どうだった?」と聞く。それは赤ちゃんのことではなくて、ママに「今日はどうだった? 大変だったね、ありがとう」と。ママも、パパに「お仕事お疲れさま」と言うわけです。
古坂さんが言ったように感情で話すことも大事ですね。夫婦は、何か筋を通しながら生きているわけではなく、喜怒哀楽を分かち合うために生きているのですから、エモーショナルは大事だと思います。そのとき、感謝とねぎらいがベースにあれば大丈夫です。


最後に

―― 最後に、桂里奈さんが子育てを頑張ることができる、その源を教えてください。

丸山桂里奈さん

私の場合は、源は仕事を頑張ることですね。先日、女子のワールドカップの試合で、解説を担当したんです。これまで、なかなか本解説の仕事がなくて、副音声が多かったのに、勇気を持って私を選んでくれたんだと思いました。試合後は、周りの人たちから「すごくよかったね」と言われて、うれしくて。それが育児も頑張ろうと思う源になっているのではないのかなと思っています。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです