子どもの目は、いったいどれくらい見えているの? テレビに近づいて見ているけど目が悪くならない?
子どもの視力がどのように育っていくのかくわしく解説します。

子どもの目

専門家:
仁科幸子(国立成育医療研究センター 眼科医長/眼科医)
三井田千春(国立成育医療研究センター 眼科/視能訓練士)

小さい子の目は、どのくらい見えているの?

子どもが10か月を過ぎたころから、いろいろなものに興味を示すようになりました。特にキラキラ光るものが好きで、見つけるとすぐに手を伸ばします。外出時もいろいろなものに反応します。空を飛ぶ鳥や飛行機、水槽の中で光る小さな熱帯魚。動物も大好きで、離れたところからでも気づいているようです。1歳ぐらいの視力は0.1程度だと聞きますが、もっと見えているように感じます。小さな子どもの目は、どのくらい見えているのでしょうか?
(1歳2か月の男の子をもつママ・パパより)

視覚だけでなく、音や動きにも反応している

回答:仁科幸子さん

子どもの視力は、生まれた直後は0.01程度で、ぼんやりとしか見えていません。1歳頃で0.1〜0.2、4〜5歳でようやく1.0になります。これらの視力で見えやすい距離は、1歳頃までは30cm程度、2歳頃で50cm程度、3〜4歳で1m程度だといわれています。小さな子どもが遠くのものに反応していても、はっきり見えているわけではありません。視覚だけでなく、音や動きにも反応しているのです。また、子どもは光るものや、動くものを認識しやすい傾向もあります。
お子さんの場合は、興味があるものに手を伸ばすなどの様子から、視力が順調に発達していると感じます。

子どもは視神経や脳のしくみが未発達

回答:仁科幸子さん

目で「ものが見える」しくみは、カメラにたとえることができます。


角膜と水晶体はカメラのレンズにあたります。毛様体(もうようたい)にある筋肉で、このレンズの厚みを変えてピントを合わせます。

虹彩と瞳孔は光の量を調節するもので、カメラの絞りにあたります。

ものを見るとき、絞りとレンズを調整して、網膜の中心にある黄斑部(おうはんぶ)という部分にピントを合わせます。

実は、網膜に映っている映像は上下がさかさまです。左目と右目の映像も、ほんの少しだけずれています。両目それぞれの映像が、視神経を通り、脳で認識されます。このとき映像が上下正しい向きに修正され、両目の映像が融合されて立体感のあるものが「見える」ようになります。「視力」とは、目だけでなく、視神経で情報を伝え、脳で情報を処理するところまでを含めた「しくみ」をいいます。

赤ちゃんの目の構造は大人とほとんど同じですが、網膜に映った映像を、視神経を通じて脳で認識するしくみが未発達です。視力が育つとは、これらの「しくみ」が育つことなのです。

視力を育てるためには、何が大事になりますか?

いろいろなものを見る体験が大事

回答:三井田千春さん

視力を育てるには、いろいろなものを見る体験を積むことが大事です。家の中や外で、近くのものも、遠くのものも見せてあげてください。そのとき、パパやママが「赤くて大きいね」といった声かけをすると、言葉の刺激も加わります。そういった体験が、視力の発達につながっていきます。
お子さんの場合は、いろいろな動物を見せてあげるなど、よい体験ができていると思います。

小さな子には、どんな絵本がよいでしょう。大きさや色など、子どもが認識しやすいものがあれば参考にしたいです。

はっきりとした色で、形の大きなもの

回答:仁科幸子さん

小さな子どもにとって、はっきりとした色、光っているもの、ある程度大きな形のものが認識しやすいものになります。そのようなおもちゃや絵本がよいでしょう。また、小さい子どもは、人の顔にとてもよく反応します。6か月の赤ちゃんでも、パパやママの表情から刺激を受けているのです。

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テレビに近づき過ぎてしまう。このままでは視力が悪くなる?

娘がテレビを見るとき近づき過ぎて心配しています。お気に入りの番組が始まると、かぶりつくように画面を見ながら、テレビと一緒にうたを歌ったり、体を動かしたりしています。何度も注意してテレビから離すのですが、すぐにテレビの前に戻ってしまいます。私自身は目が悪いので、子どもの目が悪くならないようにしてあげたいと思っています。テレビに近づき過ぎて見ていると、視力が悪くなってしまうのでしょうか?
(3歳1か月の女の子と3か月の男の子をもつママより)

視力が未発達だと近づこうとする

回答:仁科幸子さん

小さな子どもは視力が未発達なので、どうしても興味を持ったものに近づこうとします。でも、お子さんの場合は、うたを歌ったり、体を動かしたりして、単に近くで見ているだけではないので、問題はないと思います。

テレビを見るとき、テレビからの距離や見る時間の長さの目安はありますか?

画面の縦の長さの3倍は離れて正面から見る。時間は30分程度

回答:三井田千春さん

テレビを見るときは、画面の縦の長さの3倍ぐらい離れて、正面から見るようにしてください。長時間テレビを見続けると疲れてしまうので、30分程度で休憩をするほうがよいでしょう。また、暗い部屋で明るい画面を見ることも、目の疲れにつながります。ある程度明るい部屋で見るようにしましょう。

子どもがいつもテレビにかぶりつくように見ている場合、親が気をつけることはありますか?

極端に近づくときは「弱視」の疑いがある

回答:仁科幸子さん

子どもがテレビにかぶりついて見ているような場合、多くの親が遠くのものが見えにくい「近視」になることを心配されます。でも、極端に近づいて見ることが続く場合は「弱視」の疑いがあります。弱視で、よく見えていないために、近づいて離れない可能性があるわけです。

<弱視とは?>

弱視とは、何らかの原因で網膜に鮮明な映像が映らなくなったため、視神経から脳まで正しい情報が伝わらず、脳での情報処理が育たなくなっている状態です。50人に1人は、弱視の子どもがいるといわれています。
弱視になると、ものを近づけても離してもピントが合わず、はっきりと見ることができません。「近視」の場合はメガネをかければ見えるようになりますが、「弱視」の場合は、ものを見る脳の機能そのものが育っていないため、メガネをかけても見えないのです。
弱視に気づかないまま大人になると、脳の発達期間が終わっているので、治療することができません。子どものうちに、早く弱視の原因を見つけて治療を始めれば、ほぼ正常な視力に近づけることができます。

強い遠視、強い乱視に注意

回答:仁科幸子さん

近視、遠視、乱視の違いを知っておきましょう。

「近視」とは、網膜の手前にピントがきてしまい、遠くのものが見えにくい状態です。近い距離であれば、ピントが合ってはっきり見ることができるので、視神経と脳の発達が促されて視力が育ちます。

「遠視」とは、網膜の後ろ側にピントがきてしまう状態です。「強い遠視」は、脳にぼやけた映像しか伝わらないため、視力が育ちません。この場合、治療が必要になります。

「乱視」とは、眼球のひずみで縦方向と横方向のピントが1か所に合わないため、網膜の中心に正しい映像が映らない状態です。「強い乱視」は、脳に鮮明な映像が伝わらず、視力が育ちません。この場合、治療が必要になります。

子どものころに気をつけたいのは、片目、または両目の強い遠視や強い乱視です。脳の機能が発達しないため、「弱視」の原因となります。

子どもが弱視かもしれないとわかる、サインのようなものはありますか?

いくつかのサインがある

回答:三井田千春さん

ものを見るとき目を細めている、画面を見るとき顔が付くぐらいの距離になっている、顔を傾けたり横目で見ている、このような場合は弱視の可能性があります。また、左右どちらかの目を隠したときに嫌がる場合は、片目だけが弱視になっているかもしれません。これらのサインが見られるときは、病院で受診をしてください。

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斜視でメガネをかけているが、立体的にものを見られるようになる?

息子が1歳8か月のとき「斜視」であることがわかりました。それからは、治療のためのメガネを、お風呂と寝るとき以外は常にかけています。斜視だと、立体的にものを見ることが難しくなり、ものの動きや距離感が捉えにくく、つまずきやすく、運動が苦手になりやすいと聞きます。息子も、以前はよくつまずいていましたが、メガネをかけてからは、あまりつまずかなくなりました。
今後、水泳や激しい運動をするとき、メガネを外さなければいけないので、危険はないか心配しています。今は治療をしていますが、今後、立体的にものを見ることができるようになるのでしょうか?
(2歳5か月の男の子をもつママより)

立体視と斜視について

回答:仁科幸子さん

左右の目からの情報を脳で処理して、ものの立体感や奥行きをつかむしくみを「立体視」といいます。実は、左右の目からの情報には少しのずれ(視差)があり、脳が立体的に認識するための手がかりになります。立体視が育つためには、両目の視力が必要です。
「斜視」は、左右の目の視線が、片目だけずれている状態です。ずれているほうの目は、脳まで情報が伝わらず「弱視」になることもあります。左右で視線が大きくずれると、脳が両目の情報を一緒に処理できないので、立体視のような両眼視機能が発達しなくなることもあります。特に、生後6か月くらいまでに斜視になった場合は、そのままでは立体視が育ちません。できるだけ早く原因を見つけて治療を始めることが大切です。
お子さんの場合は、メガネが定着して、うまく対応できていると思います。

短時間ならメガネを外しても大丈夫

回答:仁科幸子さん

メガネを外しても、短時間であれば治療に影響することはありません。また、メガネなしでも身近なものはおおよそ見えています。全く見えなくなるわけではないので問題はないと思います。激しい運動をするときにも使用できるタイプのメガネもありますので、場合に応じて対処しましょう。

斜視かどうかを簡単に判断する方法はありますか?

フラッシュを使った写真でわかる

回答:三井田千春さん

カメラで子どもを撮影することで、斜視であるかどうかを調べることができます。フラッシュを使い、正面から撮影してください。写真の瞳に映ったフラッシュの光の点を確認します。

フラッシュの光が、両目とも黒目の真ん中に映っている場合は、斜視がない状態です。これを「正位」といいます。

光が黒目の中心に映らず、ずれている場合は斜視の疑いがあります。

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スマホやタブレットとの上手なつきあい方は?

子どもがぐずったときなど、最後の手段としてスマホを見せることがあります。小さい子どもにスマホやタブレットを見せるとき、目に負担をかけないような、上手なつきあい方はありますか?

連続して見続けない

回答:三井田千春さん

連続して見続けると目の負担になるので、休憩を入れるなど、時間をあけることを心がけてください。

見た後は、外で体を動かし、遠くを見るなど、さまざまなものを見る

回答:仁科幸子さん

子どもが小さい時期は、両目で立体的に見る機能や、両方の目をバランスよく使ったり、協調して動かしたりする機能が発達する時期です。小さな画面を近い距離で見るとき、寄り目になって、近い位置にピントを合わせ続けることになります。できるだけ大きな画面で、できるだけ距離をとったほうがよいでしょう。
そして、集中して見続けた後は、どんな年齢の子どもでも、遠くを見たり、体を動かしたり、外で遊んだり、いろいろなものを見て目を動かしてあげるとよいと思います。

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すくすくポイント
子どもの目はどのように検査するの?

小さな子どもの目は、どのように検査しているのか、小児眼科クリニックでお話をうかがいました。


この器具は、強い遠視・近視・乱視・斜視などがないかを、おおまかに判断するものです。子どもは光を数秒見つめるだけなので、集中力の続かない小さな子でも簡単に検査することができます。

子どもにおもちゃを見せて、左右の視線が合っているか、斜視がないかを検査します。

赤ちゃんはしま模様に反応しやすいという特性があるため、しま模様の細かさを利用して視力を測る方法もあります。


お話ができるような子どもは、おなじみの「ランドルト環」を使うこともあります。手に持った輪を回して答えるので、ゲーム感覚で検査できます。

こちらは、両目で立体的に見えているかを調べる検査です。特殊なメガネをかけて、形が浮き上がって見えているか、子どもに答えてもらいます。

検査で病気が見つかったときは?

検査で病気が見つかったとき、ママやパパはどんな心がまえでいたらよいのか、小児眼科クリニックの院長にお話をうかがいました。

子どもの治療を進めるには、ママやパパなど、まわりの大人のサポートが必要です。病院と一緒に、協力体制をつくっていきたいと思っています。早く病気が見つかった場合は、早く治療を始めることができます。見つかるのが遅くても、そこからスタートできるので、前向きに治療を進めていきましょう。
(小児眼科クリニック 院長)

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです