生まれたときの体重が2500gに満たない「低出生体重児」が、今、10人に1人の割合で生まれています。突然、小さな赤ちゃんを迎えて戸惑うママ・パパ… 周囲の何気ないことばに傷つくことも…
小さく生まれた赤ちゃんを育てるママ・パパの悩みや疑問を、専門家と一緒に考えます。
加部一彦(埼玉医科大学総合医療センター新生児部門 小児科医)
安藤朗子(日本女子大学家政学部児童学科 准教授 臨床心理士)
低出生体重児と未熟児は何がどう違うのでしょうか?
子どもが生まれたのは、妊娠して38週と1日、2390gでした。妊娠中のトラブルはなかったのですが、病院の先生から「お母さんの体が小さいので、赤ちゃんもお母さんに合わせて小さめに生まれてくるよ。」と何度も言われていました。低出生体重児だと言われたときは、そのことば自体を知らなかったので、未熟児なのかなと感じました。低出生体重児と未熟児はどう違うのでしょうか?
(1歳5か月の女の子をもつママ)
生まれたときの体重を表している 未熟というわけではない
回答:加部一彦さん
「低出生体重児」ということばは、赤ちゃんが生まれたときの体重を表しています。
「低出生体重児」とは、2500g未満で生まれた赤ちゃんのことです。特に、1500g未満で生まれた「極(ごく)低出生体重児」、1000g未満で生まれた「超低出生体重児」の赤ちゃんは、高度な医療ケアが必要になります。
また、お腹の中にいた期間によって、赤ちゃんの成熟度は左右されます。妊娠37週0日から41週6日までが「正期産」。それ以前の、妊娠22週0日から妊娠36週6日までの間に生まれると「早産」と言われます。
以前は、小さく生まれた赤ちゃんを「未熟児」と言っていました。でも、小さければ未熟というわけでもありません。お腹の中にいた期間が長ければ、相対的に成熟しています。小さく生まれても未熟児ではありません。現在は、学問的に「未熟児」ということばは使わないことになっています。
お子さんは、38週お腹の中にいたので、もちろん早産ではありません。それなりに成熟して生まれてきています。
「低出生体重児で生まれた」と周りに言うと、普通の出産じゃなかったの?といった反応で戸惑います。
周りの人は、ママの気持ちをくんで、かけることばには気をつける
回答:安藤朗子さん
「こんなに小さくて大丈夫なの?」と言われて、ママやご家族が不安になることがあると思います。
「小さい」には「小さくてかわいい」という意味も含まれていると思いますが、小さいことを気にしているママにはなかなか伝わらないですよね。周りの人は、ママの気持ちをくんで、かけることばに気をつけてほしいと思います。「手足を活発に動かしていて元気ですね」など、赤ちゃんの元気な様子をことばにするのがよいと思います。
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低出生体重児のとき何に気をつけたらいい?
赤ちゃんが逆子だったので帝王切開をすることになりました。38週には体重が2500gを超えるだろうと言われ出産の日を決めたのですが、実際に生まれたときの体重は2226gで低出生体重児でした。
出産前に用意していたベビー服や肌着はどれも大きすぎました。おむつも、新生児用だと大きすぎて使えず、低出生体重児用のものをネットで購入しました。そんなとき、やっぱり小さいんだなと、あらためて思いました。
1番つらかったのは、産院で他のママと一緒に授乳するときです。授乳の前後で、体重を量って医院に置いてあるノートに書かないといけなくて。自分が出来の悪い母親みたいで、それをノートに残してさらしているみたいで…
産まれる前に、低出生体重児についての知識があれば、もう少し心構えができたのかなと感じます。
(3か月の女の子をもつママ)
赤ちゃんの位置や見るタイミングで推定体重は変わる
回答:加部一彦さん
赤ちゃんの体重は、エコーなどで様子を見て推定します。最近は、以前に比べて正確に推定できるようになっているのですが、赤ちゃんの体重を直接量っているわけではないので、赤ちゃんの位置や見るタイミングで変わることがあります。あくまで推定体重なのです。
赤ちゃんは38週で生まれて成熟しているので問題はないと思います。
低体重で生まれたときに心配することはありますか?
早産か正期産かで状況が違う
回答:加部一彦さん
低体重でも、早産か正期産かで状況が違います。
早産のときは、体の機能が未成熟なことも多く、NICU(新生児集中治療室)などが必要な場合もあります。
正期産だけど低体重の場合は、一般的には生まれた直後に体の中の糖が減ってしまって低血糖になったり、呼吸がうまくできなくて一時的に呼吸を補助するといったことがあります。退院して家に帰るころには、小さくても元気な赤ちゃんで心配がなくなることが多いです。
小さく生まれた赤ちゃんが、かかりやすい病気などありますか?
心配するほどの差はありません
回答:加部一彦さん
小さいと感染症にかかりやすいのではないかと心配されるかもしれません。もちろん出産時の週数や成熟度によりますが、基本的に心配するほどの差はありません。
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パパはどう気持ちの準備をしたらよいですか?
夫婦で気持ちを話し合う
回答:安藤朗子さん
ママが不安なときには、パパがママの気持ちを受けとめて支えてください。でも、パパもママと同じように不安を感じるのは当然です。夫婦でお互いの気持ちを話し合うことが大切です。
病院によっては、臨床心理士やソーシャルワーカーなどの専門家がいますので、いろんなことを相談してみましょう。つらい気持ちや不安を1人で抱え込まないようにしてください。
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小さく生まれたのは私のせい?
次男を妊娠しているとき、臨月になってから急にお腹の中で成長が止まってしまいました。39週目に1800gで生まれ、2週間NICUに入院しました。今は、とても順調に成長していますが、妊娠中の私の過ごし方が悪かったのではないかと、自分を責めてしまうことがあります。
妊娠中、お腹が痛いときも仕事をしていたので、もう少し休んだら違ったのかなと思ったり、すごく胃が痛かったときも病院にいかずに過ごしていましたが、ちゃんと診てもらったほうがよかったのかなと考えてしまいます。
小さく生まれたのは私のせいなのでしょうか?
(5歳9か月と9か月の男の子をもつママ)
原因はわからないことが多いので自分を責める必要はない
回答:加部一彦さん
基本的には原因がわからないことが多いのです。妊娠中に、極端に乱れた生活をしていたというわけでなければ、自分を責める必要はありません。
気持ちを無理に抑えず信頼できる人に話す
回答:安藤朗子さん
自分に責任を感じてつらかっただろうと思います。どうしても、多くの方が責任を感じたり、原因を探そうとします。どうして自分の子が…と、失望感や怒りを感じることもあるかもしれません。でも、そういった気持ちを無理に抑えずに、信頼できる人に心を開いて話してください。話すことで、不安な気持ちが整理されることがあると思います。
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小さく生まれた子は成長の伸びが途中で止まる?
子どもたちは一卵性の双子の兄弟です。胎盤のトラブルによる影響で、生まれたときの体重が1860gと2596gで約800gの差がありました。体格の差は変わらないのですが、順調に身長・体重が増えて安心していました。
ですが、1歳半の健診で「1860gで生まれてきているので、3歳までは順調でも、それから先は横ばいになるかもしれない。」と気になることを言われてびっくりしました。あまり気にしていなかったので、少し心配になってきました。
小さく生まれてきた子は、成長の伸びが途中で止まってしまうのですか?
(1歳10か月の双子の男の子をもつママ)
発育が順調で活発なら大丈夫
回答:加部一彦さん
小さく生まれたから成長が途中で止まるということは、一般的にはありません。今までの発育が発育曲線に沿って順調で、活発に動いているのであれば大丈夫です。
一応そういうことがあるかもしれない程度にとらえて、深刻に考え過ぎなくてもよいと思います。
小さく生まれたことで発育が伸び悩む可能性はあるんですか?
可能性はゼロではありません
回答:加部一彦さん
可能性はゼロではありません。そのために発育の状況を病院で検査していくわけです。何かあればすぐにわかるので、病院からきちんと話があると思います。
赤ちゃんは、ゆっくりでも順調に発育していれば大きな問題はありません。
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小さく生まれた子どもの成長を促す方法はある?
子どもたちは二卵性の双子の姉妹です。妊娠36週のとき帝王切開で生まれました。1971gと1698gでした。ところが、今では小さく生まれた子のほうが大きくなって、成長に差が出てきています。どんどん差が開いていったらどうなるんだろうと、少し心配になります。
治療でしか成長ホルモンを補ってあげられないのかと疑問に思っていて、例えば効果的な食べものや運動など、何か力になれることはないのかと考えています。
成長を促すいい方法はあるのでしょうか?
(1歳8か月の双子の女の子をもつママ)
大きくなるのはこれから。違いもそれぞれの個性
回答:加部一彦さん
成長ホルモンを治療で補うことがありますが、ほんとうに小さい子が対象で、ごく限られた場合だけです。また、乳幼児期は、まだそれほど成長ホルモンがつくられていません。これから大きくなるのです。同じ日に生まれた姉妹、それぞれ別の個性を持っていると考えてください。
手先を使う遊び、体のバランスを養う遊びがおすすめ
回答:安藤朗子さん
小さく生まれたお子さんを育てるとき、「まだ早いかな」「まだできないだろう」など、ついつい過保護になりがちです。自立に向けて、積極的に、いろいろなことに挑戦させてあげてください。
積み木、お絵描き、折り紙など手先を使う遊びや、体のバランスを養うような遊びは子どもの成長を促進させるのでおすすめです。また、お手伝いをたくさんしてもらいましょう。お手伝いをした後に褒めてあげれば、それが子どもの自信につながります。
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すくすくポイント
小さく生まれた赤ちゃんと、その家族のグループ
小さく生まれた赤ちゃんを育てる不安や悩み、誰かにわかって欲しいですよね。
そんなとき、心強い支えになってくれるのが、同じ立場のママ・パパのグループです。
そんなグループの1つ「がんばりっこ仲間」を紹介します。
低出生体重児・障害児と、その家族を中心に、さまざまな形で一生懸命頑張っている仲間を支えるコミュニティなんです。
がんばりっこ仲間のきっかけ
「がんばりっこ仲間」ができたのは、2004年、542gという超低出生体重児で生まれた太陽くんのママ、林英美子さんの思いがきっかけです。
「誰かと話したい、情報が欲しい、でも誰と何を話したらいいのかわからない。そういう中で、いろいろな人と少しずつ話をしていくと、みんな一緒なんだとわかりました。だったらコミュニティにしようということになったんです。」
がんばりっこ仲間の活動
現在、日本全国におよそ2000人の仲間がいて、活発に情報を交換しています。
当事者のママ・パパだけでなく、医師や看護師など医療関係者もサポーターとして参加しています。気になることを直接質問することもできるんです。
いちばん大切にしている活動は、メンバー同士が直接会って話し合う、集いの場。
東京、埼玉、神奈川、大阪、熊本など、全国各地で交流できる場を提供しています。
同じような不安や悩みを抱えているからこそ、すぐに打ち解けて話ができるんです。
1000g未満の超低出生体重児として生まれた子どもたちや、その家族もたくさん参加しています。
<参加者の声>
- 自分の中にため込まなくなるので、気が楽になりました。
- ここでは、低出生体重が当たり前です。話をして「あぁ、これでよかったんだ」と安心しながら、これからもやっていけます。
- 「頑張ったね、大丈夫だよ」と言ってくれて、すごく支えになりました。
集いの場では、日頃ため込んだ思いがあふれ、思わず涙をこぼすママもいます。
「『頑張らなきゃ』『笑ってなきゃ』と考えているお母さんがたくさんいらっしゃいます。でも、決してそうではないと思っています。もっともっと自分の気持ちに素直でいいんだと。どんな気持ちも、どんな子どもも、どんな親も、ウェルカムな場所でありたいと思っています。」
小さく生まれた赤ちゃんと、毎日頑張っているママ・パパたち。
ぜひ、直接会って話せる仲間を見つけて、ほっとできる時間を作ってください。
小さく生まれた赤ちゃんをもつご家族へのメッセージ
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです