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神奈川・厚木 立体駐車場火災 被害拡大の原因に「プール火災」の指摘も

  • 2023年12月8日

神奈川県厚木市の立体駐車場で152台の車が燃える火災が8月に発生。国内最大の被害となり、専門家の間に衝撃が走りました。同様の火災は世界各地で相次いでいます。

なぜ、立体駐車場でここまで被害が広がったのか。NHKは現場の防犯カメラの映像を独自に入手。消火を妨げ、被害を広げた原因の一端が見えてきました。(全2回の前編)

(首都圏情報ネタドリ!取材班)

大規模火災の被害状況は

火災から2か月。交渉の末、厚木市の現場にNHKのカメラが入りました。

2023年10月撮影

火元となった立体駐車場の2階には、100台以上の車が当時のまま残っていました。骨組みがむき出しになった車体。ホイールだけになったタイヤ。いかに激しく燃えたかを物語っています。

火災は1台の車から始まりました。消防によると、火元となった車は、停車後まもなくエンジンの下から出火しました。

15分ほどで駐車場全体に煙が充満。4時間にわたって燃え続け、最終的な被害は駐車場全体で152台にのぼりました。

2023年8月20日撮影

火災報知器の警報を聞いて、現場に駆けつけた従業員は…

従業員

車のほうに消火に向かっているときに、かなり大きな爆発音が「ボンッ」と鳴ったので、消火は危険だと判断しました。

 

消火活動ができないほど火の回りが早い事態は、これまでの想定を超えていました。

過去に立体駐車場での火災に見立てて行われた実験では、出火した車から両隣に燃え移るまでにかかった時間はおよそ20分。燃え広がる前に消火ができると考えられていたのです。

“プール火災”発生したか

なぜ火災は想定を超えるスピードで広がったのか。今回、NHKは現場に設置された防犯カメラの映像を独自に入手。当時の様子が初めて明らかになりました。

防犯カメラは、出火元となった立体駐車場の2階の様子を2つの方向から記録していました。

午後2時37分。カメラは出火元とみられる車が駐車する様子を捉えていました。

その6分後には、画面に黒い煙とみられるものが。しかし、その後も次々と車が入っていきます。

停車から8分後。車の前方付近が燃えている様子が確認できました。

映像を分析した火災研究の第一人者、東京理科大学の関澤愛教授です。

注目したのは、初めて炎が確認できた3分後、床に広がっていく炎です。

東京理科大学 関澤愛教授
「この時点で、おそらく燃料タンクなどの油が漏れて、床面に広がりだしている様子がわかります。燃料が流れて車の左右、あるいは後方方向にもこういった火が付いた油が流れている可能性があるのではないかと思います」

関澤さんは、床に広がった炎は「プール火災」と指摘。油などの液体の表面が燃える状態のことです。

ここから関澤さんが導き出したメカニズムです。車から漏れ出した燃料などに火がつき、流れることで炎が広がります。

下側から車をあぶることで、燃料タンクなどに引火。次々と車に火が燃え移り、延焼が早まった可能性があるというのです。

火元の床で炎が確認されたおよそ30分後には、離れた場所でも床が燃えている様子が確認できました。

関澤教授
「火が付いた油の上にある車は、当然、火にさらされて燃え出すでしょうし、さらに油が広がっていくという可能性はある。今後は従来の火災パターンだけでなく、さまざまな出火パターンや延焼パターンを視野に入れて検討していく必要があると思います」

“フラッシュオーバー”が起きた可能性も

さらに、火元の車以外からも同時多発的に火が出た可能性を指摘する専門家もいます。

さまざまな火災現場で鑑定を行う冨田光貴さんが注目したのは、天井の焼け方です。

法科学鑑定研究所 冨田光貴さん
「非常に高熱を受けていたでしょうね。鉄骨が湾曲しているので、600~800度ぐらいにはなっていたと思います。火元から天井を炎が伝わって、その周辺の温度が高温になってきたことで火災が一気に発生、拡大した」

浮かび上がってきたのは、本来、密閉された空間で起きる「フラッシュオーバー」と呼ばれる現象です。

炎や熱を帯びた煙が天井を伝って周囲に広がることで、駐車場全体の温度が急激に上昇。それによって、火元から離れた場所でもタイヤなどが燃え出し、火災が広がった可能性があるというのです。

現場の車が火元からの距離に関わらず、同じような焼け方をしている状況がフラッシュオーバーと同様の現象が起きた証しだと冨田さんは指摘します。

冨田さん
「通常は空気の通り道があれば、炎と煙が逃げ場を失うことはないので、フラッシュオーバーは起きにくいと思われていましたが、この規模で火災が起きているとなると、同様の現象が起きていたのかと思います」

さらに、自動車の急速な進化が、火災の拡大に関係しているという指摘もあります。材質の変化によって車の燃え方にどのような変化が起きるのか、後編の記事でお伝えします。

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