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静岡でも広がれ!パラスポーツ「車いすソフトボール」

  • 2023年09月14日

    この大きなボールを使う競技は、「車いすソフトボール」。 ソフトボールの球と比べてかなり大きく、クレープフルーツくらいあります。比較的柔らかく、グローブをはめずに素手で扱います。車いすに乗れば誰もが一緒にプレーでき、障害のある人の健康づくりや交流にもつながるという期待がかかる競技です。プレーする仲間を増やそうと静岡市で行われた体験会を取材しました。

    その名の通り、選手全員が車いすに乗って投げ、打ち、走ってプレーする「車いすソフトボール」。40年ほど前に米国で生まれ、日本には10年前に競技団体ができました。国内には23のチームがあり、競技人口(登録選手の人数)は約400人(2023年9月現在)。 今月、静岡市で体験会が開かれ、選手やその家族・友人、スポーツに携わる行政関係者などが参加しました。

    体験会を開いたのは、浜松市を拠点に3年前から活動する「車椅子ソフトボール 静岡REX」。代表は、浜松市の訪問介護事業所の役員で介護士の佐藤光春さん(59)です。

    チームを作ったきっかけは、佐藤さんが以前ケアを担当していた、重い障害を抱える車いす利用者の切実な声でした。「大好きな野球を、やってみたい。」

    初めて車いすソフトボールをプレーしたときの嬉しそうな表情は、まるで生命そのものからほとばしるような喜びで、スポーツの可能性を思い知らされました。競技環境を整え、希望する人の受け皿を作ることの大切さを強く感じました。

    体験会では、車輪が「ハ」の字に開いたスポーツ用車いすを用意。基本操作のレッスンから始まり、キャッチボールやノック、ミニゲームを楽しみました。「車いすの操作って難しい!」という声や、「ナイスプレー!」と讃えあう声が飛び交い、初めて会う参加者同士でも自然と笑顔がこぼれます。 

    ナイスバッティング!ボールが大きいため、初心者でも捉えやすいことが魅力のひとつです。
    ヒットが出ると、みんなの拍手のなか笑顔でハイタッチ!
    車いすで行うため、舗装された広いスペースが必要です。 
    この日は、静岡市が社会実験として平時の利活用を進めている市内の調整池が会場に。

    誰もが一緒に楽しめる!ルールの工夫

    障害のありなしや程度に関わらず、「誰もが一緒に楽しめる」。実はこのことこそ、車いすソフトボールの大きな持ち味です。基本的なルールはソフトボールと同じですが、障害の程度など様々な選手がともにプレーするため、以下のようなルールが設けられています(内容は主なもの)。

    障害の重さ・軽さに応じて「持ち点」を割りふり、その合計が1チームで21ポイント以下になるようにします。障害が最も軽いクラスや健常者は持ち点3です。1チームは9人ではなく10人。つまり、持ち点3の選手が多すぎてもチームを作れません。障害の比較的重い選手や、持ち点がマイナス1.5になる女子選手を入れるなどして、21ポイント以下に収めます。このルールによって様々な選手が一緒にプレーできるのです。なお守備位置は、ソフトボールと同じ9人に加え、10人目の選手は自由な場所を守ることができます。

    ストライクをとるには、コースだけでなく高さも重要。投手は山なりのボールを投げ、
    地面からの高さを1.5mから2.7mの間に収める必要があります。

    車いすソフトボールは、障害のありなしを問わず一緒にプレーできる「ユニバーサルな競技」なのです。 

    忘れかけていた「プレーの喜び」がよみがえる

     この日は、名古屋のチームに所属する日本代表選手の大橋昭文さん(38)が、指南役で参加していました。実は、車いすソフトボール日本代表は国際大会を2連覇中のチャンピオン!その主軸です。元は高校球児だった大橋さん。20年前に交通事故で車いす生活になり、腹筋と背筋の機能が限られています。

    ホームランのような大飛球は打てませんが、 外野の間に鋭い打球を飛すバッティングが、僕の持ち味です!

    ミニゲームで右打席に入った大橋さん。一般的には両手で握るバットをテニスラケットのように右手1本で持ちます。車いすソフトでは打撃のスタイルも様々なのです。スイング一閃、捉えた打球はあっという間に外野へ飛び、参加者から思わず拍手が。
    大橋さんが車いすソフトボールに出会たのは10年前。車いすの生活になってからは初めて打席に入ると…。

    ああ、これ。これだよ。忘れかけていたこの感覚…。

    もう味わえないと思っていた、野球をプレーする楽しさ。車いすソフトボールによってたちまちそれがよみがえってきて、感動したそうです。

    試合後は、選手同士ハイタッチで健闘を称えあいます。

    知名度アップが課題!

    主催者「静岡REX」の主将、加藤浩さん(63)も、また野球がやりたい、という長年の思いを車いすソフトボールによって実現させた元球児です。

    社会人になってからもクラブチームで続けていたほど野球が好きでした。事故のため15年前から車いす生活を送っていますが、車いすソフトボールに出会ったのは、新聞で静岡REXの活動を知った去年のこと。それまで競技の存在を知らなかったといいます。 

    障害があって野球やソフトボールをやりたくてもできないという、以前の私のような人は他にも少なくないんじゃないでしょうか。車いすソフトボールの需要は高いと思います。私自身、同じ境遇のスポーツ仲間がなかなか増えず、残念に思っています。競技の認知度を上げてプレーできる仲間が増えていけば、もっともっと楽しくなるはずです!

    実は「静岡REX」は、メンバーの多くがいわゆる健常者。障害があり車いすで生活する選手は、加藤さんを含めてまだ2人しかいません。障害者に対して競技の存在をもっと広く知ってもらい、選手を積極的に受け入れていくことが今の課題です。

    選手募集中という『車椅子ソフトボール 静岡REX』。
    「私たちと一緒に、車いすソフトボールやりませんか!」

    スポーツは心と体を豊かにします。特に車いすソフトボールを通じた交流によってどんなことが期待できるのか、パラスポーツを通じた体の不自由な人と健常者の関係性について研究する、常葉大学教育学部の中村真博助教に聞きました。中村さんは、自身も埼玉のチームに所属する車いすソフトボールの選手です。

    車いすソフトボールは、日本での競技開始当初から障害者と健常者、さらには女性や若年層でも共に同じフィールドでプレーするための工夫を行っている競技です。共にプレーをする中で、健常者が自然に障害者の身体について理解しやすいような空間になっていると思います。
    最近よく「障害者スポーツを通じて共生社会を構築しよう」といった言葉も聞きます。フィールドで障害者と一緒に車いすソフトボールを行い、その後フィールド外で飲食をともにすることで、障害者と健常者のより深い関係性を構築することができ、お互いの理解は促進するものと思われます。

    では、日本での普及にむけた課題はどんなところにあるでしょうか。

    車いすソフトボールの他にも、車いすハンドボールや車いすアメフトなど、新しい車いすの団体競技が増えています。 選択肢が増えることはとても良いことですが、医療技術の進歩などによってアクティブな車いすユーザーは以前よりも減ってきているため、競技間で障害者選手の取り合いが生じかねない状況です。 アメリカのように、1人の選手が様々なスポーツを行いやすいシステムや競技スケジュールの構築など、それぞれの競技がうまく連携していく必要があると思います。

    車いすソフトボールの競技団体では、将来的にはパラリンピック競技として採用されることもめざしています。メジャースポーツとして普及していくとともに、野球やソフトボールが盛んな日本では、身近なところで競技のすそ野を広げ、親しみ深いレジャーとしても広がっていくか、注目です。

      • 堀越将伸

        静岡放送局アナウンサー

        堀越将伸

        2023年夏から静岡勤務。
        ソフトボールは高校時代、球技大会でサヨナラエラーした苦い思い出が…

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