致問題“次政権は食糧
支援など独自アプローチを”

安倍政権が一貫して最重要課題に掲げながら、解決に至らなかった北朝鮮による拉致問題。次の政権はどう取り組むべきかなどについて拉致被害者の蓮池薫さんがNHKのインタビューに応じ、日本政府にはアメリカと北朝鮮の交渉の進展を待つだけでなく、食糧支援の提案など、北朝鮮に対する独自のアプローチが求められていると指摘しました。

蓮池薫さんは昭和53年に拉致され、北朝鮮で24年間を過ごしました。平成14年に帰国を果たし、今は新潟県にある大学の准教授を務めています。

インタビューで蓮池さんは、安倍政権の拉致問題への取り組みについて、「拉致問題の重要性をアメリカにしっかりとすりこみ、米朝首脳会談を通して北朝鮮の指導者に直接、解決を訴えてもらったことは、北朝鮮に対して意味のあるメッセージになった」と評価する一方、「日本独自の取り組みがもう少しあってもよかった。日朝首脳会談への動きが具体化するのを見ることができなかったのは非常に残念だ」と話しました。

そして、次の政権がこの問題にどう取り組むべきかについて、蓮池さんは「非核化をめぐる北朝鮮とアメリカの交渉が進まないなか、日本として『ただ、待つだけ』というのは許されることではない」と述べたうえで、「北朝鮮は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため国境を遮断するなどした影響で食糧難に陥っている可能性がある。同じ人道問題として、例えば、食糧支援をセットで提案すれば解決の可能性を見いだせるのではないか」と指摘しました。

最後に、蓮池さんは「家族、特に親子が再会し、一緒に暮らせるようになることが、本当の意味での拉致問題の解決だ。ことしに入ってからも2人の親が亡くなり、もう取り返しがつかない。次の政権はあらゆる可能性を見据えて取り組むという覚悟と意思を持ってもらわなければならない」と述べ、一刻も早いすべての拉致被害者の帰国に向けた取り組みを改めて強く求めました。

安倍政権下での拉致問題

安倍政権は一貫して、拉致問題を政権の最重要課題に掲げてきました。

▽2012年12月28日
8年前の12月、第2次安倍政権の発足直後に拉致被害者の家族と会談した際、安倍総理大臣は「今回、もう一度総理大臣の職に就いたのは、なんとか拉致問題を解決しなければならないという使命感からだ。この問題は、必ず安倍内閣で解決するという決意で臨みたい」と述べました。

▽2014年5月27日~29日
解決に向けた期待が高まったのが、6年前の5月、スウェーデンのストックホルムで開かれた日本と北朝鮮の政府間協議です。
北朝鮮が、拉致被害者や拉致された可能性が排除できない「特定失踪者」などの全面的な調査を行うと約束したのです。
しかし、2016年2月、北朝鮮は核実験やミサイルの発射を強行。これに対し、日本が制裁措置を強めたため、北朝鮮は調査の中止を発表し、ストックホルムでの合意は実現しませんでした。

▽2017年11月6日
拉致問題の解決に向けた糸口が見えないなか、2017年11月、アメリカのトランプ大統領が就任後、初めて日本を訪れ、拉致被害者の家族と面会しました。
家族は、被害者の1日も早い帰国に向けた協力を求め、トランプ大統領は面会後の記者会見で、解決に向けて日本政府と協力する意向を強調しました。

▽2018年6月12日
そして、よくとし6月、史上初の米朝首脳会談が実現します。会談の中でトランプ大統領は、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長に拉致問題を提起しました。
日米が連携し、拉致問題の解決を北朝鮮に迫る姿勢を示した形です。

▽2019年2月17日
その半年後には、被害者家族が「北朝鮮が対話に乗り出している今が解決に向けた最大の山場だ」として、被害者全員の早期帰国が実現するなら、帰国した被害者から秘密を聞き出し、日朝国交正常化の妨げになるようなことはしないとする新たな活動方針を発表。北朝鮮の決断を促します。

▽2019年5月6日
安倍総理大臣も、去年5月、「拉致問題を解決するために私自身が条件をつけずに向き合わなければならないと考えている」と述べ、前提条件をつけずにキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長との首脳会談の実現を目指す考えを明らかにしました。
しかし、その後、日朝首脳会談は実現しておらず、拉致問題が解決する見通しは立っていません。
この間、拉致被害者の親は、子どもとの再会を果たせないまま相次いで、この世を去っています。
ことしに入っても2月に有本恵子さんの母親の嘉代子さんが、6月には横田めぐみさんの父親の滋さんが死亡し、第2次安倍政権の発足以降、政府が認定している拉致被害者の親は、5人が亡くなっています。
今も健在な親は2人だけで、親子の再会を果たすにはもはや一刻の猶予も許されない状況になっています。