ルーズ船 下船し入院中
日本人乗客2人死亡

新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船の乗客で、日本人の80代の男女2人が20日、死亡しました。クルーズ船の乗客・乗員で新型コロナウイルスの感染者が死亡したのは初めてです。

横浜港に停泊しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、これまでに乗客・乗員合わせて621人の感染が確認され、このうち28人が重症になっていました。

感染が確認された人は医療機関に入院し治療を受けていましたが、いずれも日本人の乗客で、神奈川県に住む87歳の男性と都内に住む84歳の女性の合わせて2人が死亡しました。

このうち神奈川県の87歳の男性は今月10日に発熱があり、翌日には呼吸も苦しくなったため船を下りて医療機関に入院しました。

15日には呼吸状態が悪化して人工呼吸器を装着しましたが、19日、血圧が低下し呼吸状態も悪化し、20日死亡が確認されました。男性の死因は新型コロナウイルスによる感染症で、気管支ぜんそくなどの基礎疾患があったということです。

厚生労働省によりますと新型コロナウイルスによる感染症が死亡の原因となったのは初めてだということです。

また84歳の女性は今月5日ごろには発熱の症状があり、その後、12日に船を下りて入院し、息切れと食欲不振があったため酸素投与や抗菌薬の投与が始まりました。

しかし呼吸状態が悪化し14日には酸素マスクを付けるようになりましたが、症状が改善せず、20日死亡が確認されました。女性の死因は肺炎で基礎疾患は無かったということです。

クルーズ船の乗客・乗員で新型コロナウイルスの感染者が死亡したのは初めてです。

厚生労働省は2人の発症時期などからウイルスに感染したのは客室での待機を求めた今月5日より前だった可能性が高いとみて、感染のいきさつを調べています。

新型コロナウイルスに感染し国内で死亡した人は神奈川県の80代の女性を含めて3人となります。

84歳女性 症状出てから搬送まで数日

20日に死亡が確認された84歳の女性は、発熱や下痢の症状があり、今月6日には船内で医師の診察を受けていましたが、搬送されたのは12日になってからでした。

これについて厚生労働省は「医療機関への搬送は昼夜問わず、優先順位を付けて行っていて、判断が不適切だったとは考えていない」としています。

乗船していた男性 「本当に気の毒」

新型コロナウイルスに感染しクルーズ船から医療機関に搬送された80代の乗客2人が死亡したことについて、夫婦で乗船していた島根県の65歳の男性は「楽しいクルーズ旅行になるはずだったのに、こういう結果になってしまったのは本当に気の毒です。同じ船に乗っていた人たちは運命共同体のような存在だと思っていたので、亡くなったのはとても残念ですが、また同じことが起きないようにきょう亡くなった人のことを教訓にして、今後の対応を進めてほしいです」と話していました。

加藤厚労相「適切に対応も大変残念」

加藤厚生労働大臣は記者会見で、死亡した80代の女性が、今月5日に発熱の症状が見られてから、医療機関に搬送されるまでに1週間程度かかったことについて「横浜に入港した頃から熱があり、船内で診察を受けた。息切れや食欲不振があり発熱が続く状況で、医師が判断して検体を採取し、搬送した。適切に対応されたと思う」と述べました。

そのうえで「それぞれの皆さんの健康を最優先に、医師やスタッフが努力した。ただ亡くなった事実は大変残念だ」と述べました。

新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船での対応について、加藤厚生労働大臣は、整理されていない点が残っているとして、今後、検証する考えを重ねて示しました。

この中で、加藤厚生労働大臣は、横浜港に停泊しているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」について、「イギリス籍の船で、船主はアメリカだが、日本に寄港した際に問題が生じた。基本的には、船長が現場を統括するが、誰が管轄権を強く持っているのか、必ずしも整理されていない」と述べました。

そのうえで「こうした事態が今後生じた時にどう対応するべきか、日ごろから、どういう備えをしておくべきか、様々な課題がある」と述べ、クルーズ船での対応を今後検証する考えを重ねて示しました。

加藤厚生労働大臣は、記者会見で、東京オリンピック・パラリンピックの中止もありえるのかと問われたのに対し、「今、オリンピックについて、どうこう言うより、イベントの開催はそれぞれの段階で求めることは異なるので、国内での感染状況を見ながら、適切なメッセージを発信したい」と述べました。

安倍首相 乗客2人死亡で哀悼の意

クルーズ船の乗客2人が死亡したことについて、安倍総理大臣は20日夜、記者団に対し、哀悼の意を示したうえで、感染拡大や重症化の防止に政府一丸となって全力で取り組む考えを強調しました。

この中で、安倍総理大臣は、新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船の乗客2人が死亡したことについて、「お亡くなりになられた方々に対して、心からご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げたい」と述べました。

そのうえで「高齢者や基礎疾患のある方々は、優先的に検査を行い、陽性の方は、入院治療を行ってきた。きのうから検査結果が陰性で、健康上問題のない方々は、下船していただいているところだが、今後も対応に万全を期していく」と述べました。

そして「国内では、感染拡大の防止、そして各地の自治体とより一層連携しながら、感染者の重症化防止に全力で取り組んでいく。政府には国民の健康と命を守る大きな責任があり、その責任を果たすために政府一丸となって全力で取り組んでいく」と述べました。

専門家「リスク高い人への早期ケア重要」

クルーズ船で新型コロナウイルスに感染した乗客2人が死亡したことについて、感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「大変残念だ。もともとの持病や高齢だということ、それに長期間船内に待機していたことなど、さまざまな要素が絡んでいる可能性があるため、現時点で断定的なことは言えない。高齢者など重症化のリスクが高い人たちに対して、早期にケアを行うことが今後も重要だ」と指摘しました。

また東京医科大学の濱田篤郎教授は「新型コロナウイルスは、高齢者や持病のある人たちが重症化しやすいとされていて、亡くなった2人にも高齢であることや持病の影響があったのではないかと考えられる」と話しています。

そのうえで、「特に高齢者の方は、できれば満員電車など人混みを避けたほうがよい。どうしても出なければならないときは、手洗いの徹底やマスクをつけるなどの対策を行うことが重要だ。かぜの症状が2日間続いた場合は、主治医に電話するか、保健所のコールセンターに連絡してほしい。今後、感染者が増えれば重症化する人も増えるので、適切な治療ができるよう医療体制の整備を早急に進めることが必要だ」と話しています。