イランが繰り返し報復宣言
米大統領が強く警告
アメリカのトランプ政権は、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をイラクの首都バグダッドで殺害したと現地時間の3日、発表しました。
イランの最高指導者ハメネイ師は、国民から英雄視される司令官の殺害を受けて、国を挙げて3日間、喪に服すると表明し、2日がたった5日には葬儀が営まれました。
またイラン国民の間ではアメリカへの怒りが高まっていて、ハメネイ師をはじめ政権の幹部は繰り返し報復を宣言し、革命防衛隊の幹部は「アメリカの35の重要施設を狙うことができる」と述べました。
さらに4日にはイランと強いつながるのある武装組織「カタイブ・ヒズボラ」が「5日の夜以降、アメリカ軍基地から1キロ以上離れるべきだ」とする声明を出し、アメリカ軍への攻撃を示唆しました。
これに対しトランプ大統領は4日、ツイッターでイランが報復に出た場合、直ちに激しく反撃するとしたうえで、すでに攻撃対象として52の目標を選定し、「目標のいくつかはイランとイランの文化にとって非常に重要なものだ」として強く警告しました。さ
らに4日深夜にも「私が強く忠告したのにもし彼らがまた攻撃してきたら、今までやられたことがないほど激しく攻撃する」、「われわれの軍事装備は世界最高かつ最大で、イランがアメリカの基地やアメリカ人を攻撃すれば、ためらいなくそれらを送り込む」と立て続けに投稿してけん制しました。
イランではアメリカによる殺害の発表から丸3日がたったあとの現地時間の6日にも喪が明ける可能性があり、イラン側がどのような報復に出るのか、情勢は緊迫しています。
アメリカ 増派部隊が出発
AP通信などによりますと、アメリカ国防総省がイランとの緊張の高まりを受けて増派を決めた部隊の一部が4日、クウェートに向けて出発しました。
出発したのはアメリカ南部ノースカロライナ州を拠点とする陸軍第82空挺師団の数百人の兵士で、国防総省が4日に配信した映像では、兵士たちが装備の点検をしたり、航空機に搭載したりする様子が確認できます。
民主党 攻撃の判断に疑問 追及の構え
トランプ大統領の指示でアメリカ軍がイランの精鋭部隊の司令官を殺害したことに対し、野党・民主党は攻撃の判断に疑問を呈し、追及の構えを見せています。
民主党のペロシ下院議長は4日、法律の規定に基づき、政権側から軍事力を行使した際の報告を受け取ったとしたうえで「報告の文書からは攻撃を決定したタイミングや方法、そして正当性に関して、深刻で切迫した疑問を感じた」と述べ、攻撃の判断に疑問を呈しました。
そして「今回の攻撃は議会との協議も、軍事力の使用許可も、明確で適切な戦略の説明も、ないまま実施された」と述べ、政権側に説明を求めるとして判断の経緯や根拠などを追及する構えを示しました。
また大統領選挙の民主党の有力候補、バイデン前副大統領は3日、アイオワ州の演説で「現政権は最大限の圧力をかけてイランの侵略を阻止し、核合意でうまく交渉するとしてきたが、どちらにも失敗した。そして司令官を殺害しイランからの攻撃を防ぐというゴールを定めたが、この行動はほぼ確実に反対の影響を与えるだろう」と述べて、司令官の殺害がさらなる攻撃を引き起こすと批判しました。
アメリカではことし11月の大統領選挙に向けて選挙戦が本格化していて、今回の司令官殺害とイランとの緊張の激化が選挙戦の行方にも影響を与える可能性があります。
イラン軍司令官「米に反撃を実行する勇気ない」
イランのメディアが5日に伝えたところによりますと、イラン軍のムサビ司令官は「ソレイマニ氏の殺害は節度のない、許しがたい行為だ」と述べて、アメリカ軍の攻撃を改めて強く非難しました。
そのうえで、トランプ大統領がイランが報復に出た場合は、52の目標を選定して、直ちに反撃するとしていることについて「アメリカには実行する勇気がないと思う」と述べてけん制しました。
茂木外相「在留邦人の安全確保」
茂木外務大臣は5日夕方、東京都内で記者団に対し、「中東情勢が緊迫していることは 間違いないと思っている。中東地域における在留邦人の安全確保とともに、関係国ともしっかり連携し、情勢の安定化と平和構築に引き続き、外交努力を全力で傾けていきたい」と述べました。
イラク暫定首相「信頼関係崩れた」
アメリカ軍が首都バグダッドでイランのソレイマニ司令官を殺害したことについて、イラク政府は「主権の侵害だ」と強く反発しています。
アブドルマハディ暫定首相は5日、議会で演説し「イラクとアメリカの利害は大きく食い違う状態になり、もはや信頼関係は崩れた」と述べ、議会に対し、アメリカ軍のイラクからの即時撤退に向けて必要な行動を起こすことを認めるよう求めました。
これを受けて関連の決議案が賛成多数で可決され、イラク政府が今後、トランプ政権と駐留アメリカ軍の扱いについて話し合うことになりました。
アメリカの軍事作戦をめぐっては、イスラム教シーア派の最高権威シスターニ師が批判するなど、イランと同じ宗派のシーア派を中心にアメリカへの反発が広がっています。
また、イラク国内では今回の司令官殺害をきっかけに、イラクを舞台にアメリカとイランの戦いが激化するのではないかと懸念も強まっています。
イラン各地で葬儀や追悼集会 100万人以上参列も
ソレイマニ氏のひつぎは5日早朝、イラン国内に到着したあと、南西部の都市アフワズと、シーア派の重要な聖地・マシュハドに移され、それぞれ大規模な葬儀が行われました。
このうちマシュハドでは、中心部の大通りが追悼のために集まった市民で埋め尽くされ、国営通信は100万人以上が参列したと伝えました。
ひつぎは6日には、首都テヘランに移されて大規模な葬儀が行われる予定で、政府は急きょ、休日とし国民に参列を呼びかけています。
ソレイマニ氏はイランの中東政策における軍事・外交上の最重要人物で、国民からは英雄と呼ばれるほど人気があり、イランでは国を挙げて司令官の死を悼むとともに、アメリカへの怒りをつのらせています。