国で拘束の北海道大教授
解放され帰国

北海道大学の男性教授が中国を訪問中に当局に拘束されていた問題で、菅官房長官は15日午後の記者会見で、男性教授が解放され、15日、日本に帰国したことを明らかにしました。男性教授に健康上の問題はないということです。

北海道大学の男性教授が中国を訪問中に当局に拘束されていた問題で、菅官房長官は15日午後の記者会見で、「本日15日に、9月に北京市で拘束された40代の邦人男性が帰国したことを確認した。健康上特段の問題はないと聞いている」と述べ、男性教授が中国当局から解放されて、すでに日本に帰国したことを明らかにしました。

そして菅官房長官は、男性教授が解放された経緯について、「事柄の性質上、詳細については、コメントを差し控える」と述べたうえで、「日本は、さまざまな会談の際に、邦人保護の観点から、中国に強く働きかけをしてきた」と述べました。

さらに、菅官房長官は、「ご家族をはじめ、皆さんの強い思いを実現できて、一つ、ほっとしている」と述べました。

この問題をめぐっては今月4日、安倍総理大臣が訪問先のタイで中国の李克強首相と会談した際、「男性教授が拘束された状況は受け入れられない」として、来年春の習近平国家主席の日本訪問に向けた環境づくりを行うためにも、早期解放と帰国への中国側の前向きな対応を求めたのに対し、李首相は「よく留意する」と答え、両国間で調整が続いていました。

男性教授はすでに新千歳空港で家族と合流

日本政府関係者によりますと、帰国した男性教授は、新千歳空港で家族と合流し、午後4時すぎに自宅に到着したということです。

中国外務省 教授の解放を認める

これについて、中国外務省も15日、記者会見で、男性教授を2か月ぶりに解放したと明らかにしました。

中国外務省の耿爽報道官は記者会見で「中国の国家安全部門は教授が、宿泊していたホテルで中国の国家機密に関わる資料を収集していたため取り調べを行っていた」と述べ、拘束の理由を説明しました。

そのうえで「教授は事実を認め反省の意を示したため、法律の規定に基づいて保釈手続きを行い、教授はすでに帰国した」と述べました。

今回の問題をめぐって中国側は、これまで拘束の理由などについて一切、明らかにしていませんでした。

教授の拘束とこれまでの経緯

北海道大学の40代の男性教授は中国近現代史が専門で、ことし9月上旬から中国政府系のシンクタンク「中国社会科学院」の招きで北京を訪れていました。

今回の問題をめぐって、中国外務省報道官は「中国は法に基づいて、中国の法律に違反した疑いのある外国人を処罰している」と述べましたが、拘束の具体的な理由などについて一切、明らかにせず、北京の日本大使館の職員が面会するなどして情報収集を進めてきました。

男性教授の拘束を受けて、日本の中国研究者の間では不安が広がり、中国への渡航を取りやめたり、交流事業を見直したりする動きが相次ぐなど影響が広がっていました。

安倍総理大臣は今月、李克強首相との会談で教授の早期帰国に向けた中国側の前向きな対応を強く求めていました。

茂木外相 習国家主席来日前に「強く申し込んできた」

茂木外務大臣は15日夕方、記者団に対し、「来年春に習近平国家主席を国賓として、いい環境でお迎えしたいという中で、一つ一つの懸案をしっかり処理していく一環として、私からも安倍総理大臣からも中国側に強く申し込んできた案件であり、それが実現した。詳細は本人などから確認したいが、まずは無事の帰国をよかったと思っている」と述べました。

「歴史観異なる研究 批判する傾向」

解放された北海道大学の教授と交流があり、中国の政治外交史を研究している東京大学大学院の川島真教授は、中国当局が教授を解放したことについて「よかった。今月上旬に行われた日中首脳会談が影響した可能性はある」と述べ、両国のトップどうしの会談で、この問題について議論したことが影響を与えた可能性があると指摘しました。

そして、北海道大学の教授が中国当局に拘束された背景については「この教授は、実際の歴史資料に基づいてしっかりと研究を行ってきた。中国共産党の歴史に関わる日中戦争当時の研究では第一人者だ。しかし中国では最近、共産党の歴史観と異なる資料に基づく研究を批判する傾向があり、こうした中国の事情が拘束に影響を及ぼした可能性が高い」と指摘しました。

一方で、拘束された理由については、いまだに分からない部分が多いことから「研究者の間では、『また拘束されるかもしれない』という懸念を拭い去ることができず、直ちに学術交流が再開できるものではない。交流も控えめになる可能性は高い」と述べました。

さらに、今後の日中関係の在り方については「中国は経済分野で、みずからは自由で開かれた経済だと主張しているが、安全保障分野や人権をはじめとする価値観の分野では、日本とは相いれないところが多く、こうした点についてはしっかり主張していくべきだ。これができなければ真の意味で、日中関係が正常な軌道に戻ったとは言えない」と指摘しました。