洋放出しか方法がない
という印象だ」原田環境相

福島第一原子力発電所にたまり続けている、放射性物質のトリチウムなどを含む水の処分について、原田環境大臣は「海洋放出しか方法がないというのが私の印象だ」と述べました。この水を海などに放出することについては、反対する地元の声も根強く、大臣の発言は議論を呼びそうです。

福島第一原発で出る汚染水を処理したあとの水には、取り除くのが難しいトリチウムなどの放射性物質が含まれ、毎日、170トン前後増え続けています。

この水について、原田環境大臣は10日の閣議後の会見で、環境省の所管を外れる事柄だと前置きをしたうえで、「思い切って放出して希釈すると、こういうことも、いろいろ選択肢を考えるとほかに、あまり選択肢がないなと思う」と述べました。

記者から「水を海洋放出して希釈するということか」と確認する質問が出ると「それしか方法がないなというのが私の印象だ」と重ねて述べたうえで、「しかし、これは極めて重要な話なので、軽々にこうすべきとは言えないが、まずは安全規制や科学的な基準をしっかり説明する。風評被害の回避も含めて内外に誠意を尽くして説明することが何よりも大切だと思う。政府全体でこれから慎重な議論をすると思う」と述べました。

汚染水を処理したあとの水をめぐっては、原子力規制委員会が、基準以下に薄めて海へ放出することが科学的に合理的な処分方法だとする見解を示している一方で、地元の住民などからは再び風評被害が起きることへの心配の声が根強く、現時点で解決の糸口が見えていません。それだけに、今回の原田環境大臣の発言は議論を呼ぶことになりそうです。

菅官房長官「発言は個人的意見」

菅官房長官は午後の記者会見で、「原田環境大臣の発言は、政府の検討状況も踏まえて、個人的な意見として述べたものと承知している」と述べました。

そのうえで、「処理水の取り扱いは、経済産業省の小委員会で風評被害など社会的な観点を含めて総合的な検討を行っており、現時点で処分方法を決定した事実はない。政府として、まずは小委員会での議論を尽くしてしっかり検討を進め、国際社会には理解をさらに深めてもらうよう透明性を持って丁寧に説明していきたい」と述べました。

漁業関係者「あまりに無責任」

原田環境大臣の発言について、福島県の漁業関係者は強く反発しています。

福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は、組織として海洋放出に反対する立場を強調したうえで、「処理水の処分は、国が小委員会などを開いて、検討しているさなかだ。きちんとした検討が必要な時期に軽率な発言がなされ、冷静な議論が阻害されないか懸念している」と述べました。

また、発言が内閣改造の前日だったことについて、「就任の際に発言して議論するのではなく、大臣交代の前に言うのはあまりにも無責任だ」と指摘しました。

相馬双葉漁業協同組合の立谷寛治組合長は、「海に流すだけではなく陸地で処理する方法もある。福島の魚が安心、安全だと全国に発信している中で海に放出することは絶対に容認できない」と話していました。

また、相馬市の漁師の佐藤忠雄さん(80)は、「漁業者のことを考えて発言しているのか。現にここで生活している人間でないとわからないことだ。絶対に海に流してほしくない」と話していました。

同じく相馬市の漁師の高橋隆さん(67)は、「廃炉になるまで長期にわたって処理水を流し続けることになり、世界からクレームが寄せられる。他に方法がないのであれば漁業者への補償を考えてほしい。われわれの時代に流したからこんな状態になってしまったという汚点だけは後継者に残したくない」と話していました。