野古 新たな土砂投入
「県民投票を無視」反対の声

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、政府は、すでに埋め立てを進めている区域に隣接する新たな区域でも土砂の投入を始めました。政府は、今後も、着実に工事を進める方針で、沖縄県との対立がさらに深まることは避けられない情勢です。

沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、政府は、すでに護岸を完成させた、南側の区域のうち、6ヘクタール余りで、去年12月から土砂の投入を進めています。

そして、現在の区域の埋め立てにめどがたったとして、隣接する新たな区域でも、土砂の投入を始めることになり、25日午前、沖縄防衛局が沖縄県に通知し、午後3時からダンプカーで土砂の投入を始めました。

新たな区域は、広さが33ヘクタールで、政府は、今後も工事を着実に進め、来年夏にも、この区域の埋め立てを終えたいとしています。

一方、軟弱地盤が見つかった東側の区域では、地盤を強固にする改良工事に3年8か月程度かかると試算されていることから、政府は、改良工事と埋め立て作業を並行して進めるなどして、工期の短縮に努め、普天間基地の返還時期が大幅にずれ込むことを避けたい考えです。

沖縄県は、「埋め立て反対」が多数となった県民投票の結果を受けて、玉城知事が安倍総理大臣に工事を1か月程度中止して協議に応じるよう要請していて、政府と沖縄県の対立はさらに深まることは避けられない情勢です。

沖縄 玉城知事「断じて許されるものでない」

海外出張中の沖縄県の玉城知事はコメントを出しました。この中では「政府が県の求めに応じず、土砂を投入したことに、激しい憤りを覚える。全体の実施設計、さらに工期や費用も示さないまま工事を強行することは、断じて許されるものではない」としています。

そのうえで、「県民投票で明確に示された民意を無視し、工事を強行することは民主主義を踏みにじり、地方自治を破壊するもので、他の自治体でも同様のことが起こりかねない。今後もぶれることなく、毅然と辺野古新基地建設に反対するという民意に添い、その思いに応えていく」としています。

岩屋防衛相「唯一の解決策 地元への説明に努力」

岩屋防衛大臣は防衛省で記者団に対し、「午後3時ごろから新たな区域の埋め立て作業を開始したと報告を受けている」と述べました。

そのうえで、「抑止力を維持しながら、一方で沖縄の負担軽減を実現しなければならない。辺野古移設がこの両方を満たす唯一の解決策だ。23年来の懸案を1日も早く解決することが国の責任であり、最終的な目標の普天間基地の全面返還につなげていきたい。地元には、今後ともあらゆる機会を通じて丁寧に説明し、理解いただけるように努力していく」と述べました。

官房長官「粘り強く説明していきたい」

菅官房長官は午後の記者会見で、「沖縄防衛局において、地元の皆さんのご理解とご協力をえる努力を続けながら、引き続き作業の安全に十分留意し、関係法令に基づいて、自然環境や住民の生活環境にも最大限配慮し、作業を進めていくものと承知している」と述べました。

そのうえで、「普天間飛行場がこのまま固定化され、危険なまま置き去りにされることは絶対に避けなければならない。政府としては協議の場を通じて、地元の皆さんのお考えをうかがうとともに、普天間飛行場の1日も早い全面返還の実現のための政府の考え方や、沖縄の基地負担軽減のための取り組みについて、粘り強く説明していきたい」と述べました。

予定地近くで抗議集会

埋め立て予定地近くの砂浜では、工事に反対する数百人が午後、集会を開き、「埋め立てをやめろ」などと抗議の声を上げました。

この中で、ヘリ基地反対協議会の安次富浩共同代表は「政府は先月の県民投票の声を全く無視している。われわれは決してあきらめることなく団結し戦い抜き、絶対に辺野古に基地は造らせない」と話していました。

集会に参加した沖縄県浦添市の中学生は「自然はそのままのほうがよいので、埋め立てはやめてもらいたい。県民投票で反対が多数だったのに、変わらず工事が進められているのは違和感がある」と話しました。

この問題についてのドキュメンタリーを作るため、アメリカから来たという高校生は「日本政府が基地をどんなに造ろうとしても、沖縄の人たちはずっと抗議を続けていてすごいと思う。私は辺野古の海に基地を造ってほしくない」と話していました。

基地前で反対の声

埋め立て予定地に隣接するアメリカ軍基地のゲート前には、工事に反対するおよそ30人が集まりました。そして、午後3時すぎ、土砂が投入されたという情報が入ると、「沖縄県民をばかにするな」とか「埋め立てを断念するまで戦うぞ」などとシュプレヒコールを上げていました。

うるま市の70代の男性は「県民の意思を踏みにじった埋め立ては許されない。民主主義を理解していない政権のやり方はおかしい。これからも県民が力を合わせて頑張っていきたい」と話していました。

那覇ではさまざまな声

那覇市の中心部では、市民からさまざまな意見が聞かれました。70代の女性は「民意を無視して土砂を投入するのは許せません。基地が押しつけられている沖縄の立場を国には理解してほしい」と話していました。

40代の女性は「県民投票で7割近くの人が反対したのに、工事が進むのはいい気持ちがしないし、普天間基地の移設は県内ではなくてもいいと思う」と話していました。

一方、40代の男性は「予定どおりのことだと思います。普天間基地を早く無くすために辺野古に移設すべきです」と話していました。

「本土でも訴えていきたい」

県民投票の実施を求めて活動してきた「辺野古県民投票の会」の元山仁士郎代表は「県民投票も県知事選の結果も無視される形になり、屈辱的だと感じる。反対してもこういう結果になるのは沖縄だけではなく、全国でもありえることだと思うので、本土でも訴えていきたい」と話していました。

県民投票以降の経緯

埋め立てに反対する票が多数を占めた県民投票。これを受けて、沖縄県の玉城知事が今月1日、安倍総理大臣と会談しました。

玉城知事は「反対」の票が投票者の70%を超えたことを伝えたうえで、「沖縄県民の思いを真正面から受け止めていただきたい」と述べ、工事を中止するよう改めて求めました。

これに対し、安倍総理大臣は県民投票の結果は真摯(しんし)に受け止めるとしたうえで、「普天間基地は世界でもっとも危険な基地と言われており、この状況を先送りできない」と述べ、対話も継続しながら、引き続き移設計画に理解を求めていく考えを伝えました。

また、岩屋防衛大臣は5日の参議院予算委員会で、県民投票の結果にかかわらず、埋め立て工事の継続を決めていたと答弁しました。

こうした中、今後の埋め立て予定地で見つかった軟弱地盤について、防衛省は改良工事に3年8か月程度かかることなどを明記した報告書を国会に提出しました。

これについて、岩屋防衛大臣は「新たな課題が出てきたので、目標の達成は正直、難しいと思う」と述べ、普天間基地の返還は2023年度以降にずれ込む見通しを明らかにしました。

今月19日には、玉城知事が安倍総理大臣と再び会談し、軟弱地盤の問題で工事は長期化し、普天間基地の危険性が固定化するとして、工事を1か月程度中止して協議に応じるよう要請しました。

その翌日、政府は新たな埋め立て区域に土砂の投入を開始することを沖縄県側に伝えました。これに対し、沖縄県は埋め立て承認の撤回の効力を一時的に停止した国土交通大臣に、決定の取り消しを求める訴えを福岡高等裁判所那覇支部に起こしました。

専門家は地盤改良工事の問題点指摘

地盤工学が専門の日本大学理工学部鎌尾彰司准教授は、軟弱地盤の改良工事にあたっての問題点を指摘します。

防衛省はことし1月、埋め立て区域で見つかった軟弱地盤の工事の方法などを検討した報告書をまとめました。それによりますと、軟弱地盤は最も深いところで、水面からの深さは90メートルにおよび、専用の作業船の上から砂くいを打ち込んで、地盤を固めるとしています。

岩屋防衛大臣は今月4日、軟弱地盤の深さについて70メートルを超える部分は固い粘土層だと確認されたとして、90メートルから70メートルに事実上修正し、安定的に地盤改良工事ができるという考えを示しています。

これについて、鎌尾准教授は「国内の作業船で対応できるのは水面から最大で70メートルまでで、地盤調査で70メートルより下の部分に粘土層が存在することは明らかなため、地盤沈下が問題になる」として、工事をしても地盤沈下するおそれがあると指摘します。

また、沖縄防衛局は改良工事にあたり、砂のくいおよそ7万7000本、そのための砂が650万立方メートルが必要だとしていて、県は、この量が県内の年間砂利採取量の数年分におよび、東京ドームで換算するとおよそ5杯分の量に当たると試算しています。

さらに、鎌尾准教授は生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることから、県外から土砂を調達するのも容易ではないと指摘します。

鎌尾准教授は「県外から調達する場合、外来生物の侵入を防ぐため、検査などが必要となるほか、県内で調達しようとしても山を崩したり、海底をしゅんせつしたりして、大量の砂を採取することになり、環境への悪影響が懸念される」として、砂の調達についても問題があると指摘します。