適切な方法をとらせる
意図なかった」前総理秘書官

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」をめぐり、4年前、当時の総理大臣秘書官が調査に関する問題意識を、厚生労働省側に伝えていたことについて、この前秘書官は15日の衆議院予算委員会で「不適切な方法をとらせる意図はなかった」と説明しました。

平成27年に「毎月勤労統計調査」の調査対象のすべてが入れ替えられたことで、賃金の数値が大幅に変わったことをめぐっては14日、当時の中江総理大臣秘書官が、結果の公表を前に厚生労働省側に問題意識を伝えていたことが明らかになりました。

15日の衆議院予算委員会で、中江氏は「大幅に変わる理由などを尋ねたところ、『サンプルを全数入れ替えたからだ』という回答を得たので、なぜそうしたのか聞いた記憶がある。また、他の統計や諸外国の事例なども見つつ専門家の意見を聞くなど、改善の可能性を考えるべきではないかという問題意識を伝えた記憶がある」と述べました。

そのうえで「一連のやり取りはすべて政策的な観点からのもので、政府に都合のいいデータが出るように、統計手法上、不適切な方法をとらせるという意図に基づくものでは全くない」と説明しました。

また、中江氏は厚生労働省から説明を受けたのは4年前の3月31日だったと明らかにしたうえで「統計の技術的なことでもあり、当時、安倍総理大臣には報告していない。その年の9月に国会の答弁の勉強会で説明した」と述べました。

調査方法変更の経緯

「毎月勤労統計調査」は全国の約3万の事業所を対象に行われていますが、事業所の規模によって調査方法が異なります。

このうち従業員30人から499人の事業所については、以前は2、3年に一度、調査対象をすべて入れ替えて行われていました。しかし、入れ替えのたびにデータに大きな差が生じるため、いったん公表した過去の調査結果の修正が行われていました。

入れ替えが行われた直後の平成27年1月分の調査結果が4月上旬に公表されていますが、その前に、当時の中江総理大臣秘書官が厚生労働省の担当者に対して、問題意識を伝えていたことが明らかになりました。

これについて、中江氏は衆議院予算委員会で、「政府に都合のいいデータが出るように、統計手法上、不適切な方法を取らせるという意図に基づくものでは全くない」と説明しています。

そして、この年の6月に厚生労働省は、調査対象の入れ替え方法などを議論する有識者による検討会を立ち上げました。

NHKの取材に対して、厚生労働省の当時の担当者は「官邸側から『データが大きく変わることがないよう何とかできないのか』という問題意識を伝え聞いていた」としたうえで、「圧力だとは感じていない」と話しています。

この検討会は6月から9月にかけて6回にわたって議論して中間まとめを行いました。

中間まとめで、調査対象の入れ替えについては結論を示さず、現状の方法の維持と、一部ずつ入れ替える新たな方法への変更の2つが併記されました。

NHKの取材に対して、検討会の座長を務めた中央大学の阿部正浩教授は「統計を作るうえでは新たな方法への変更が望ましいと考えていたが、予算や人員がなければ難しいため両論を併記した」と話しています。

そして、10月の経済財政諮問会議で、麻生副総理兼財務大臣が、調査方法の問題が指摘されているとして「ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたい」と述べました。

厚生労働省の検討会は議論を続ける予定でしたが、その後は開かれず、厚生労働省は平成28年、新たな方法に変更することを決め、総務省に変更を申請しました。

申請は承認され、去年1月から毎年一部ずつ調査対象を入れ替える新たな方法に変更されました。
自民 加藤総務会長「疑問呈することは圧力ではない」
自民党の加藤総務会長は、記者会見で、「総理大臣秘書官に説明があって、おかしいところがあれば、『おかしい』と言うのは、チェック機能だ。疑問を呈すること自体は圧力ではなく、いろいろなことが是正されていく部分もある」と述べました。

公明 斉藤氏「問題意識妥当」

公明党の斉藤幹事長は記者会見で「調査対象が入れ替えられ、それまでと連続しない点が出てくれば、統計の素人でも不思議に思う。問題意識を持つのは極めて妥当であり、そこに恣意(しい)があるとは思わない。『問題意識』の真意は国会審議の中で明らかになってくると思うので、見守っていきたい」と述べました。

国民 山井氏「総理案件の可能性が濃厚」

国民民主党の山井国会対策委員長代行は記者会見で「平成27年の3月末に、厚生労働省が当時の中江総理大臣秘書官に『賃金が下振れする』と報告したことから始まっており、今回の『賃金偽装』が『安倍総理案件』だった可能性が極めて濃厚になった」と述べました。

立民 辻元氏「官邸ぐるみの統計操作か」

立憲民主党の辻元国会対策委員長は「またまた、総理大臣秘書官の登場だ。加計学園の問題と同じような構図ではないか。『厚生労働省ぐるみの統計不正』から出発し、今や、『総理大臣官邸・国家ぐるみの統計操作によるアベノミクス偽装ではないか』というところまで来ている」と述べました。

菅官房長官「数値大幅変化で説明求めた」

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で平成27年に調査対象を入れ替えた結果、賃金の数値が大幅に変わったことに関連し、菅官房長官は午後の記者会見で、「主要な統計の調査結果は、通常、公開前に官房長官室が各省の担当部局から事務的に報告を受けている。平成27年3月末の説明は、サンプル入れ替えに伴い数値が大幅に変わることについて、厚生労働省から情報提供を受けた当時の担当秘書官が私にも説明するように求めたということだった」と述べました。

そのうえで、「当時の担当秘書官に聞いたところでは、厚生労働省から、数年ごとに調査結果に段差が生じることに関し、『統計の専門家の意見を聞くことを検討する』旨の説明を受けた、ということだった」と述べました。