じがたい事実であり
言語道断である」特別監察委

賃金や労働時間に関する厚生労働省の調査が不適切に行われていた問題で、外部の弁護士などでつくる「特別監察委員会」が検証結果を取りまとめ、職員は不適切だと知りながら漫然と以前からの手法を踏襲していたとして、「信じがたい事実であり、言語道断である」と厳しく批判しました。

賃金や労働時間に関する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」をめぐっては、大規模な事業所のすべてを調査対象とするべきなのに、東京都内では一部の事業所しか調べていなかったことが明らかになっています。

この問題で検証を進めてきた弁護士や統計の専門家など外部の有識者で作る「特別監察委員会」が22日、報告書を取りまとめ、根本厚生労働大臣に手渡しました。

報告を受けた根本大臣は「関係者の処分を含め、速やかに責任を明確にしたうえで統計の信頼を回復し、追加支給や再発防止に迅速に取り組みます」と述べました。

報告書によりますと、平成16年から不適切な手法が行われるようになった理由について、当時の担当係長は「毎回調査していた大規模な事業所から苦情が多く、調査を担う都道府県からの要望にも配慮する必要があった」と話しているということです。

また、担当部署のマニュアルにあった不適切な手法を認める記述が平成27年から削除されたことについて、当時の担当課長は「だいぶ前からこの手法での調査が行われていることなどから記載しなくても作業に影響はないと考えた」と話しているということです。

さらに、不適切な手法で得たデータを本来の調査結果に近づける統計上の処理が去年1月分から行われたのに、それ以前の結果は修正されず放置されたままだったことについては、担当室長が、統計上の処理を行っても結果に大きな差はないと過小評価していたとしました。

この担当室長は不適切な手法で調査を行っていることについて、局長級の幹部である政策統括官に説明したということですが、問題が公表されることはありませんでした。

報告書では、職員が不適切だと知りながら漫然と以前からの手法を踏襲していたと指摘しました。

そのうえで、統計法違反を含む不適切な手法が長年継続していたとして、「信じがたい事実であり、言語道断である。厚生労働省に猛省を促したい」と厳しく批判しました。一方で、いずれのケースでも隠蔽の意図は認められなかったとしています。

「特別監察委員会」の記者会見では「問題を知りながら公表してこなかったのは隠蔽ではないか」という質問が相次ぎましたが、出席した委員会のメンバーは「組織的な隠蔽の意図までは認められなかった」と繰り返しました。

樋口委員長「統計の重要性 改めて認識すべき」

特別監察委員会の委員長を務める独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の樋口美雄理事長は、記者会見で、「事態の適切な把握を怠ったうえ、報告があっても適切な判断がなされず、組織として是正しようとしてこなかったことが問題だ」と述べました。

そのうえで「統計や行政への信頼を失わせており、これを簡単に取り戻すことはできない。厚生労働省は統計の重要性を改めて認識すべきだ」と述べました。

元都幹部「職員に楽させてほしいと要望したつもりない」

厚生労働省が不適切な手法で調査を始める直前まで東京都の統計部の部長を務めていた男性が、NHKの取材に応じ、「調査で職員に楽をさせてほしいなどと厚生労働省に要望したつもりはない。結果的に後輩たちが不適切な調査をさせられていたことは残念だ」と話していました。

22日に公表された「特別監察委員会」の報告書には、平成16年から不適切な手法が行われるようになった理由について、厚生労働省の当時の担当者が「毎回調査していた大規模な事業所から苦情が多く、調査を担う都道府県からの要望にも配慮する必要があった」と述べたと記されています。

これについて、前の年の平成15年5月まで、調査を担当する東京都の統計部の部長を務めていた早川智さんがNHKの取材に応じました。

このなかで早川さんは「総務省の統計審議会に自治体の担当者として出席した際、統計調査全般について、対象となる企業などに大きな負担がかかっていると意見を言ったことは私もある。しかし、それは調査の意義に企業の理解を得られるよう努力をすべきという意図で、職員に楽をさせてほしいと要望したつもりはない。都の職員は定められた方法で粛々と仕事をしており、都だけ方法を変えてほしいと思ったことなどなかった」と話していました。

そのうえで、「部下たちには、都の調査は全体に与える影響が大きいので緊張感を持って正確な調査を行うよう指示していた。結果的に後輩たちが不適切な調査をさせられていたことは残念だ。調査結果を聞いても、なぜ、こんなことになったのかという疑問は解消されない」と話していました。

発覚の経緯

「毎月勤労統計調査」をめぐる問題が発覚したのは去年12月。国の統計について審議する総務省の統計委員会の西村清彦委員長が、データに不自然な点があることに気付き、指摘したことがきっかけでした。

大規模な事業所はすべてを調査対象とするべきなのに東京都内では一部しか調査していないことが明らかになりました。

西村委員長は「調査のしかたが本来と違う手法で行われていたと聞き、あぜんとした。法令違反だと申し上げたが担当者の反応は鈍かった」と話しています。

不適切調査の内容は

厚生労働省によりますと、不適切な手法による調査は平成16年から始まりました。従業員が500人以上の大規模な事業所については本来、すべての事業所を調査するルールになっていたのに、調査を委託していた東京都に対し一部の事業所を抽出して名簿を送っていたということです。

マニュアル

平成16年以降の担当部署のマニュアルには「規模500人以上の事業所は東京都に集中しており、全数調査にしなくても精度が確保できる」と不適切な手法への変更を認める記述がありました。ところが、平成27年のマニュアルからはこうした記述が削除されていました。不適切な調査はマニュアルから削除されたあとも続けられてきました。

総務省への虚偽報告

そして、1年後の平成28年には、調査方法を審査する総務省に対して、実態とは異なる申請が行われていました。申請書には「従業員が500人以上の事業所はすべて調査する」と記されていました。

不適切認識で統計処理

さらに、おととしの平成29年には不適切な手法に対応するためのコンピューターシステムの改修が行われていました。

改修は不適切な手法で得たデータを本来の手法による調査結果に近づける統計上の処理をするために行われました。統計上の処理は去年の1月分から行われるようになりましたが、それ以前の結果は修正されず、放置されたままでした。

東京以外にも

そして、去年6月には神奈川県、愛知県、大阪府の3府県に対しても東京都と同じく不適切な手法で作成した調査対象の事業所リストを送っていました。各府県によりますと、このときに厚生労働省から調査手法を変更するという詳しい説明はありませんでした。