国人材への方針決定
「着実に」「実効性ない」

来年4月からの外国人材の受け入れ拡大に向け、政府は24日、新たな在留資格の制度に関する「基本方針」や、外国人との共生を図るための「対応策」などを正式に決定しました。新たな制度は事実上、単純労働の分野まで受け入れを広げるもので、大きな政策転換となります。

外国人材の受け入れを拡大するため、新たに「特定技能」の1号と2号の在留資格を設ける法律が、来年4月に施行されるのを前に、政府は25日、新たな制度に関する「基本方針」と、介護や建設など14の受け入れ分野ごとの「運用方針」、それに外国人との共生を図るための「対応策」を正式に決定しました。

「基本方針」には悪質なブローカーを排除することや、地方の人手不足を解消するため、都市部に外国人が集中しないように必要な措置をとるよう努めることが盛り込まれました。

また、分野別の「運用方針」には、来年4月からの5年間に14の受け入れ分野を合わせて最大で34万5000人余りの受け入れ見込み数と、経済情勢の変化がないかぎり、これを受け入れの上限として運用することが示されました。

さらに、外国人との共生を図るための「対応策」には、126の施策が盛り込まれました。この中には行政サービスの多言語化を進めることや、在留資格に必要な日本語の試験をベトナムなど9か国で行うこと、それに都市部に外国人が集中するのを防ぐため、地域別や業種別の外国人の数を定期的に公表することなどが含まれています。

新たな制度は事実上、単純労働の分野まで受け入れを広げるもので、大きな政策転換となります。

首相「施策を着実に実行」

安倍総理大臣は「それぞれの立場で強いリーダーシップを発揮し、施策を着実に実行に移し、外国人の皆さんが日本で、そして地方で働いてみたい、住んでみたいと思えるような制度の運用と社会の実現に全力を尽くしてもらいたい」と指示しました。

山下法相「環境整備に全力で推進」

山下法務大臣は記者会見で、「外国人材の皆さんが日本で十分に力を発揮していただけるよう準備を進め、来年4月の円滑な施行に向けて、万全の体制をとっていきたい。多文化共生社会の実現に向けた大きな一歩となるよう、関係省庁とも十分に連携して、受け入れ環境の整備を全力で推進していきたい」と述べました。

野党「実効性ない」

外国人材の受け入れ拡大をめぐって、立憲民主党など野党側は、国会内で関係省庁からヒアリングを行いました。

この中で、出席した議員からは、「都市部に外国人を集中させないために政府が行う措置は、法律による強制力がないため、実効性がない絵に描いた餅だ」とか、「悪質ブローカーを排除するための対策も、技能実習制度で行われていた従来の対策と変わず、実効性がない」といった指摘が相次ぎました。

専門家「具体性ない しっかり議論を」

今回の政府の決定について、外国人労働者の問題に詳しい指宿昭一弁護士は「『基本方針』のなかで悪質なブローカーを排除するとしているが、具体性がない。また、外国人が都市部に集中しないように必要な措置をとるよう努めるというが、内容は抽象的で、外国人が地方で働くための具体的な支援策やインセンティブが必要だ」と指摘していました。

また、外国人と共生を図るための「対応策」について、指宿弁護士は「外国人労働者を受け入れるにあたり、必要な対応についての検討項目の一覧表が出てきたようなものだ。本来ならば、法律の改正にあわせて話し合うべきことばかりだ。この『対応策』が機能しなければ、外国人の人権が侵害され、地方自治体の現場が混乱することも予想されるので、来年4月まで残り3か月しかないが、しっかり議論してほしい」と述べました。

4月から試験は介護など3分野

「運用方針」によりますと、「特定技能1号」の対象となる介護や建設など14分野のうち、来年4月から新たな技能試験が行われるのは、介護、宿泊、外食業の3つの分野になる見通しです。

このほかの11分野は、来年度中に試験を始める予定だということで、当面は、技能実習生からの移行が中心になりそうです。

14分野の最大受け入れ見込み数

「運用方針」に明記された14の分野ごとの来年4月から5年間の最大の受け入れ見込み数は、次のようになっています。

▽「介護」が6万人。
▽「ビルクリーニング」が3万7000人。
▽「素形材産業」が2万1500人。
▽「産業機械製造業」が5250人。
▽「電気・電子情報関連産業」が4700人。
▽「建設」が4万人。
▽「造船・舶用工業」が1万3000人。
▽「自動車整備」が7000人。
▽「航空」が2200人。
▽「宿泊」が2万2000人。
▽「農業」が3万6500人。
▽「漁業」が9000人。
▽「飲食料品製造業」が3万4000人。
▽「外食業」が5万3000人となっています。

約100か所の相談窓口整備

「対応策」は外国人の生活支援策が柱になっています。多様な悩みを相談できる一元的な窓口が全国におよそ100か所整備され、行政サービスや災害情報、警察の「110番」などで、多言語での対応が進められます。

来年度には、気象庁のホームページや緊急地震速報などを発信するアプリも多言語化される予定です。

また、地方の人手不足を解消するために、外国人が都市部に集中するのを防ぐ取り組みも盛り込まれました。

外国人を呼び込む先導的な地方の取り組みは、財政的に支援することや、地域別や業種別の外国人の数を定期的に公表することが明記されました。法務省は3か月ごとに公表すると説明しています。

このほか、低賃金などが問題となった技能実習制度の悪用を防ぐ仕組みなども盛り込まれています。

能力判定テストは9か国で実施

日本語の試験は14のいずれの分野も新たな「能力判定テスト」か、今ある「日本語能力試験」で、基本的な内容が理解できる「N4」以上のレベルと認められることが必要となります。

また、新たな「能力判定テスト」は、ベトナム、フィリピン、カンボジア、インドネシア、中国、タイ、ミャンマー、モンゴル、ネパールの9か国で実施されます。

この9か国とは悪質なブローカーの介在を防ぐため、2国間協定を結ぶことにしています。また、雇用形態は原則、受け入れ先による「直接雇用」とし、農業と漁業は季節によって仕事の量が変動することなどから、「派遣」も認めるとしています。

出入国在留管理庁 来年4月に新設

外国人材の受け入れが来年4月から拡大されるのにあわせて、外国人の在留管理を厳しくするため、出入国在留管理庁が新設されます。

現在の法務省の入国管理局を格上げする形で、およそ470人増員し、全体で合わせて、およそ5400人と体制を強化する方針です。