少子化対策 関係府省会議 児童手当や現物給付の議論

少子化対策の具体化に向けて、政府は7日、関係府省による会議を開き、児童手当を中心とした経済的支援の強化をテーマに有識者からヒアリングを行いました。有識者からは、現金給付の大幅な拡充に加え、保育や教育といった現物給付などとバランスのとれた支援を求める意見が出されました。

岸田総理大臣が目指す「次元の異なる少子化対策」の具体化に向けた関係府省による会議は、3月末をめどに具体策のたたき台をまとめる方針です。


2回目となる7日の会合で、小倉少子化担当大臣は「少子化の背景には、個々人の結婚や出産、子育ての希望の実現を阻むさまざまな要因がある。社会・経済情勢が変化する中、重点的・抜本的に取り組むべき施策も変化する。経済的支援、現金給付と現物給付のあり方などについてもさまざまな意見がある」と指摘し、多様な意見を聞きながら検討を進める考えを示しました。

そして、児童手当を中心とした経済的支援の強化をテーマに大学教授やNPOの代表者からヒアリングを行いました。

このうち、子どもの貧困対策に取り組むNPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長は、子育て世帯にとっては特に教育費の負担が大きいと指摘し、児童手当の所得制限の撤廃や支給対象年齢の引き上げに加え、多子世帯への加算の増額などを求めました。

また、少子化問題に詳しい中京大学の松田茂樹教授は、現金給付に加え、保育や教育といった現物給付なども組み合わせたバランスのとれた支援が必要だと指摘し、財源については、高齢者を含め社会全体で負担する仕組みを検討すべきだと訴えました。

次回は、幼児教育や保育サービスなどの充実をテーマに意見を交わすことにしています。

会議で意見述べた有識者 児童手当「支援につながるのでは」

7日の政府の会議でも有識者として意見を述べた松田教授は、政府の少子化対策の議論について「コロナ禍もあり、昨年の出生数が80万人を割るなど、対策を拡充して出生数や出生率を反転させなければ、次世代が安心して暮らすことが難しくなってしまう。少子化対策のうち現金給付については、必要性を認識されながらもこれまで進んでこなかったので、政府の検討事項になっていることを評価したい」として、政府の少子化対策は一定の評価ができるという見解を示しました。

その上で、児童手当の拡充について、政府が支給対象年齢の18歳まで引き上げも含めて具体的な検討を進めていることについては、「主要な先進国では、わが国よりも上の年齢まで児童手当を支給していて、子育て支援につながるのではないか」としています。

また、所得制限の撤廃については、「さまざまな意見があるが、少子化対策の観点からみれば、子どもを育てていない世帯から育てている世代への所得移転につながり、所得の違いにかかわらず、すべての子どもを育てている世帯を応援するメッセージにつながることが期待される」と指摘しました。

その上で、「現在の所得制限の水準では、特に大都市圏では住宅価格の高騰などにより、ゆとりを持った子育てが難しくなってきている。子どもを産み育てることは、わが国の社会経済や、社会保障の持続のために必要なことなので、所得水準にかかわらず、子どもを持たないほうが経済的に合理的な制度にしてはいけない」と話しています。

困窮家庭の子どもの支援団体「所得制限撤廃だけでは不十分」

政府が少子化対策として児童手当の拡充を議論していることについて、困窮家庭の子どもを支援する団体からは「児童手当の所得制限撤廃は必要だが、それだけでは不十分だ」として、より幅広い視点での支援の強化を求める声があがっています。

認定NPO法人「キッズドア」は、都内を中心に千葉や埼玉、宮城のあわせて64の拠点で、経済的に厳しい家庭の子どもの学習支援や居場所づくりなどの活動を行っています。

団体の渡辺由美子代表は、児童手当の所得制限撤廃など具体案の検討が始まった少子化対策について、「所得制限の撤廃は必要でやるべきだが、それだけでは昔に戻るだけで、経済支援としては不十分だ。児童手当でいちばん重要なのは18歳までの延長で、児童手当を対策の中心に据えるのであれば、増額なども含め大胆に変えていくことが必要だ」と指摘しました。

また、現在は教育費や子育てにかかる費用の負担が重く、子どもを産めば産むほど生活が苦しくなる状況になっているとして、「いちばんの目玉になるのは高等教育の無償化だと思う。現在は大学などを卒業しても、厳しい生活環境のなかで奨学金の返済が負担となり、将来の結婚や出産を考えることができない若い世代も多く、こうした負担をどう減らしていくかということも重要だ」と述べました。

そのうえで渡辺代表は「子どもを産む産まないはそれぞれの考え方なので尊重されるべきで、強制されるものではない」としたうえで、「大切なのは、子どもを産みたいと考えている人に安心して産んでもらうために、社会がどう変わっていくか。世代別に必要な支援は違うので、それぞれどういった対策をとっていくのか、場当たり的なものではなく、全体の設計図のなかで緻密に考えていくことが必要だ」と指摘しました。

児童手当拡充議論 街の人の受け止めは

政府が少子化対策として児童手当の拡充を議論していることについて、街の人たちに聞きました。

小学生2人を育てている会社員の40代の女性は、去年の制度改正で所得制限の対象となり、児童手当が支給されなくなったということで、「頑張って働けば働くほど手当がもらえなくなると、気持ちがそがれてしまいます。塾代や住宅費も高く、所得制限なしで、平等に手当を出してもらいたいです」と話していました。

4歳と生後7か月の子ども2人を育てる26歳の男性は、「自分たち夫婦が高校卒業なので、子どもにはできれば専門学校や大学まで行かせてあげたいですが、金銭面で不安があり、3人目の子どもを持つことはあきらめています。今、児童手当をもらっていて助かっているので、さらに増やしてもらえたら助かります」と話していました。

小学生2人を育てるパート勤務の40代の女性は、「物価が高騰して光熱費も上がる中、日々の生活が心配なので、児童手当が増えてももう1人子どもを持とうという気持ちにはなれないと思います。上がる電気代の補填(ほてん)など、基本の生活を皆ができるような手当に財源を使ってほしいです」と話していました。

20歳の大学2年生の女性は、「将来結婚して子どもも持ちたいが、まだまだ男性社会なので、仕事との両立が難しいと感じます。女性が働いて経済的にゆとりを持って前向きに家庭を作れる社会にしてほしいです」と話し、経済支援だけでなく働き方の改善を求めていました。

加藤厚労相“子育て政策全体を幅広く議論すべき”

少子化対策の強化をめぐり、児童手当の所得制限の撤廃を求める声が与野党双方から出ていることについて、加藤厚生労働大臣は記者会見で、児童手当だけでなく、幼児教育や保育の質の向上など子育て政策全体を幅広く議論すべきだという考えを示しました。

この中で加藤厚生労働大臣は「私の地元、岡山を回るかぎり、所得制限がかかるだけの収入で子育てをしている方はあまりいない。所得制限を中心とした議論は、多くの人たちにとっては『自分たちの話をしているのかどうか』という受け止め方もあるのではないか」と指摘しました。

そのうえで「児童手当の所得制限だけでなく、幼児教育や保育の質の向上を図ることや、さまざまな支援サービスを受けられやすくすること、さらに子育て世代の働き方に関することも含めて広範な議論をしていく」と述べ、子育て政策全体を幅広く議論すべきだという考えを示しました。

国民 玉木代表 “児童手当 所得制限撤廃し拡充を” 首相に要望

国民民主党の玉木代表は7日、岸田総理大臣と会談し、子育て支援を充実させるため、児童手当の所得制限を撤廃したうえで給付額を引き上げ、対象を18歳まで広げることなどを求めました。

国民民主党の玉木代表は7日、国会内で岸田総理大臣と会談し、子育て支援の充実と賃上げの実現に向けた提言を手渡しました。

提言では子育て支援の公的な給付に設けられている、すべての所得制限を撤廃すべきだとしていて、特に児童手当については、所得制限を撤廃したうえで給付額を引き上げるとともに、現在、中学生までとなっている対象を18歳まで広げるよう求めました。

また、子どもの多い世帯を支援する税制の導入に加え、産休や育休の取得後に職場での地位や待遇が低下しないための方策を講じることが必要だと指摘しています。

一方、賃上げの機運を中小企業や非正規労働者にも波及させるため、政府と経済界、労働界による「政労使会議」を開催し、一致したメッセージを打ち出すべきだとしています。

さらに、ことし4月以降の電気代のさらなる値上げに対応するため、予備費を活用して対策を講じるよう求めました。

このあと玉木代表は「子どもに着目した政策であれば、所得制限なくやることが哲学的に合っている。『政労使会議』について、岸田総理大臣は『やる方向で調整する』と言っていた」と述べました。