鈴木財務相 N分N乗方式「高額所得者に大きな利益で課題」

少子化対策として導入を求める声が出ているいわゆる「N分N乗方式」について鈴木財務大臣は、高額所得者に大きな利益が出るなどさまざまな課題があるとして、導入に慎重な姿勢を改めて示しました。

「N分N乗方式」は、所得税の課税の単位を現在の個人から世帯に変更したうえで、子どもの人数が多いほど所得税の負担が軽減されるとして国会で導入の是非が議論されています。

これについて鈴木大臣は、2月3日の閣議のあとの記者会見で「いわゆるN分N乗方式は、子どもを含めた世帯の構成人数に応じて課税所得を分割してより低い税率を適用することから、子育て世帯に有利な仕組みだと理解している」と述べました。

その一方で、N分N乗方式に移行した場合、共働き世帯に比べて、夫婦どちらかが働く片働き世帯が有利になることや、日本では、納税者全体の6割に最低税率である5%が適用されていて、そうした層に対する恩恵は限定的であると指摘しました。

さらに鈴木大臣は「高い税率が課される高額所得者に税制上大きな利益を与えることになるなどいろいろな課題がある」と述べ、「N分N乗方式」の導入に慎重な姿勢を改めて示しました。

「N分N乗方式」とは

夫婦と子ども2人の家庭で見ていきます。

夫婦共働きで収入から保険料などを控除した課税対象の所得が1人は400万円。
配偶者は200万円の合わせて600万円の場合です。

日本の所得税は、個人単位で課税するため夫婦の納税額は合わせて47万5000円となります。

同じ家庭がN分N乗方式になったらどうなるか。

「N分N乗方式」の場合、世帯単位で課税するのが大きな違いです。
この方式では、1世帯分の所得を合算したうえで、子どもを含めた人数「N」で総所得を割り、その数字を元に1人当たりの税額を計算。
そこに人数「N」を再びかけて所得税の納税額が決まる仕組みです。

同じ夫婦と子ども2人の家庭がN分N乗方式になったらどうなるか。
制度を導入しているフランスと同様に2人目の子どもまでは0.5人と計算すると、「N」に当たる数字は「3」となります。
これで所得税を計算すると、今の納税額より16万7500円減る計算です。

一方、夫婦子ども2人で、夫婦のどちらか1人だけが働くいわゆる「片働き」で所得が同じ600万円の場合、所得税は77万2500円となります。
こちらの家庭の場合もN分N乗方式では30万7500円が所得税になるので、所得税は46万5000円減る計算です。

立民 泉代表「問題点や課題あり党内でも議論」

立憲民主党の泉代表は、記者会見で「子どもをどうカウントするかなど考え方はさまざまで、賛否を言える状況ではない。子どもが多いほど家計が助かるメリットがある一方、共働きよりも片働きのほうが有利になる問題点や、所得の多い世帯が有利になる課題があり、党内でも議論している状況だ」と述べました。

また、児童手当の所得制限の撤廃について「まだ確定的な段階にはなっていない。予算委員会の一つの争点であり、岸田総理大臣に明言してもらいたい」と述べました。

財政や税制の専門家は

財政や税制が専門の一橋大学の佐藤主光教授は「日本の所得税は累進課税になっているので、家族の中で所得を分散した方が税金が安くなる。子育て世帯にとって有利な形で所得税を再構築したいという意向があるのではないか」と指摘しました。

そのうえで「『N分N乗方式』は、累進課税が機能しにくくなる。所得が高い人たちが有利になり、所得の再分配機能が低下することにならざるをえない。さらに、所得税の税収を変えないということであれば、税率の見直しまで踏み込むこととなる。導入にはかなり時間がかかるのではないか」と述べ、導入には課題が多いと指摘しています。