東京パラ開幕から1年 競技団体などは普及の環境整える必要性も

東京パラリンピックの開幕から24日で1年です。

自国開催で多くの支援を受け、パラスポーツに対する認知度が大きく向上した大会後の現状について、専門家は「強化費は大きく減ることなく踏みとどまっているが、これまでどおりに企業や国から補助金が入ってくる状況ではなくなりつつある。選手や競技団体は自分たちの強みを考えて強化や普及の環境を整える必要がある」と指摘しています。

「多様性と調和」をコンセプトに共生社会の実現や、障害がある人への理解を進めることが理念の一つとされた東京パラリンピックは、去年8月24日に開幕し161の国と地域、それに難民選手団から史上最多となるおよそ4400人の選手が参加しました。

自国開催の大会に向けて競技団体は企業などから多くの支援を受けて強化を進めてきた結果、日本選手団は史上2番目に多い51個のメダルを獲得し、新型コロナの影響で原則、無観客となったにもかかわらずパラスポーツに対する認知度は大きく向上しました。

大会から1年後の現状について、パラスポーツと社会の関係性に詳しい日本福祉大学の藤田紀昭教授は「競技団体の強化費は当初考えられていたほど大きく減ることなく踏みとどまっているが、これまでどおりに企業や国から補助金が入ってくる状況ではなくなりつつある」と危機感を示します。

そのうえで「選手や競技団体は自分たちの強みを考えて、普及や強化の環境を整える必要があり、特に普及の面ではパラスポーツを多くの人に知ってもらった追い風をどう生かしていくか具体的に考えていく時期で、これからが勝負になる」と指摘しています。

自国開催のパラリンピックという大きな目標が終わったあと、選手の強化や競技の普及をどう継続し、共生社会の実現を進めていくのか、一過性で終わらせない取り組みが課題となっています。

取り組みを一過性にしないことが課題

東京オリンピック・パラリンピックは「多様性と調和」をコンセプトに共生社会の実現や、障害がある人への理解を進めることが、理念の一つとされました。

しかし、新型コロナの影響でパラリンピックでは原則としてすべての会場が無観客となり、教育的な意味合いから自国開催の貴重な機会を、子どもたちには見てもらえるようにと「学校連携観戦チケット」による観戦が実施されました。

しかし、実際は学校や保護者の判断で観戦を取りやめるケースが相次ぎました。

さらに、国や東京都が学校現場で進めてきた競技の体験や障害への理解などを深めるための教育の予算が、大会終了後の今年度は大幅に削減されています。

このうち、スポーツ庁は各地の教育委員会にオリンピック・パラリンピック教育の推進校を指定してもらい、競技の体験やパラ選手の講演会などを通じて、共生社会への理解やスポーツの価値について考えてもらう取り組みを進めてきました。

この事業には昨年度、およそ2億5600万円の予算が計上されましたが、大会が行われた昨年度までで事業そのものが終了しました。

また、東京都の教育委員会によりますと、平成28年度から公立学校で進めていたオリンピック・パラリンピック教育の昨年度の関連予算は47億円余りで、このうち「学校連携観戦チケット」に関連するものを除くとおよそ6億円でした。

今年度も取り組みを継続していますが、予算額はおよそ2億1000万円と3分の1に減っています。

自国開催のパラリンピックを直接見る機会の多くが失われ、関連する教育予算も減るなかで、障害への理解やパラスポーツの認知度の向上といった取り組みを一過性にしないことが課題となっています。

パラ教育を止めない模索

東京オリンピック・パラリンピックは共生社会の実現や、障害がある人への理解を進めることが、理念の一つとされ、学校現場の授業などで取り上げられてきました。

JPC=日本パラリンピック委員会は、パラリンピックを題材にしたIPC=国際パラリンピック委員会公認の教材を制作し、各地の学校で使ってもらえるよう普及を進めてきました。

大会後も、この教材を多くの学校で使ってもらおうと、千葉市と連携した取り組みを始めていて、新たな教材を導入する場合でも教員の負担が増えないよう作成した指導ガイドの周知や、教材をいろいろな教科と組み合わせて使えることを紹介するなど教材の見直しを進めています。

今月22日に千葉市の中学校で行われたモデル授業では教員が実際にガイドを参考にしながら、大会のレガシーをテーマに授業を行い、国立競技場の観客用の車いす席について生徒たちが話し合い、共生社会の実現に向けて日常からできることなどを考えてお互いに発表していました。

授業を行った教員は、「声かけの例や指導のしかた、ワークシートの活用方法とかがガイドに載っていたので、教材研究の時間は長くなく消化できた。非常にやりやすかった」と話していました。

この教材の普及を進めているJPCのマセソン美季プロジェクトマネージャーは「パラリンピックが終わると、日本の中では終わった、旬が過ぎたと捉えられるがそうではない。パラリンピックを知らない、教えられないではなく、この教材を使えば子どもたちに教えることができるので、気軽に取り組んでほしい」と話していました。

JPCは、千葉市での取り組みをモデルケースとして、今後、全国に展開していくことにしています。