金制度改革関連法が成立
どう変わる?課題は?

パートなどで働く短時間労働者が厚生年金に加入しやすいよう、加入条件を緩和することを柱とした年金制度改革関連法が、29日の参議院本会議で成立しました。

年金制度改革関連法案は、29日の参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党に加え、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。

法律では、パートなどで働く短時間労働者の低年金対策として、厚生年金に加入しやすいよう、加入条件のうち企業規模の要件を現在の従業員「501人以上」から、「51人以上」まで段階的に引き下げ、適用範囲を拡大します。

また、60歳以降も就労を促すため、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす「在職老齢年金」制度で、60歳から64歳の人の年金が減らされる収入の基準額を、今の月額28万円から47万円に引き上げます。

さらに、現在60歳から70歳までとなっている年金の受給開始年齢の選択肢の幅を75歳まで拡大します。

今回の改正は、働き方が多様化し、高齢者の就業機会が拡大していることに対応するとともに、年金財政の安定化のため支え手を増やすねらいがあります。法律の主な部分は、再来年4月に施行されます。

年金制度はどう変わる

年金制度は、どう変わるのか。主な変更点です。

1 厚生年金の適用範囲が拡大

パートなどで働く短時間労働者は、サラリーマンなどが加入する厚生年金に加入していない人が多く、将来、受け取る年金が十分でないと老後の生活を懸念する声も上がっています。

このため、短時間労働者が厚生年金に加入しやすくするため、現在、従業員「501人以上」の企業に勤めていることが条件となっている企業規模の要件を段階的に緩和します。

2022年10月に「101人以上」に、2024年10月に「51人以上」まで、2段階で引き下げます。保険料の半分は企業が負担するため、負担が増える中小企業に配慮し、段階的な引き下げとなりました。

「101人以上」にした場合、新たに45万人が。「51人以上」にした場合、65万人が適用対象となると見込まれています。

いわゆる「就職氷河期」世代の非正規雇用の人などの低年金対策につなげるねらいもあります。

2 在職老齢年金の見直し

「在職老齢年金」は、働いて一定の収入がある高齢者の年金を減らす仕組みですが、高齢者の就労意欲をそいでいるという指摘も出ています。

このため、60歳から64歳の人については、年金が減らされる収入の基準額を今の月額28万円から47万円に引き上げます。

一方で、65歳以上の人については、与党内からも「高所得者の優遇になる」などとして、引き上げに慎重論が相次いだことから、今の月額47万円で据え置かれました。

3 受給開始年齢 選択肢の幅を75歳まで拡大

年金の受給開始年齢は、現在、60歳から70歳の間で自由に選ぶことができます。

高齢者の就業機会の拡大にあわせ、受給開始年齢の選択肢の幅を75歳まで拡大し、60歳から75歳の間で選べるようになります。

年金額は、65歳より早く受け取り始めた場合は、1か月当たり0.4%減る一方、65歳より遅らせた場合は1か月当たり0.7%増えます。

75歳から受け取り始めると、65歳からの場合と比べ、年金額は84%増えることになります。

4「iDeCo」が利用しやすく

公的年金に上乗せする「個人型」の確定拠出年金=「iDeCo」が利用しやすくなります。

60歳未満となっている加入期間の上限が、65歳未満まで延長される一方、60歳から70歳までの間で選べる受給開始年齢の選択肢が75歳まで広がります。

また、申し込みなどの手続きが、オンラインでできるようになります。

さらに、「企業型」の確定拠出年金に加入している会社員が希望すれば、労使の合意がなくても「iDeCo」に加入できるようになります。

「企業型」と併用する場合、掛金は合わせて月額5万5000円までで、このうち「iDeCo」は、月額2万円までの範囲で自由に組み合わせることができます。

「iDeCo」は、掛金や運用益は非課税となるメリットがあり、老後の資産形成につなげてもらうねらいがあります。

残された課題は

年金制度には、なお、いくつかの課題が残っています。

“さらなる適用拡大”

厚生年金の適用範囲をさらに拡大するかどうかです。
今回の改正に向けた議論の過程では、「雇用されている人は原則、すべての人が厚生年金に加入できるようにすべき」だとして、企業規模の要件そのものを撤廃すべきだという意見も多く出されました。

撤廃した場合、新たに125万人が適用対象になるということです。

今回の改正では、保険料負担が増える企業側に配慮して、撤廃は見送られましたが、さらなる適用拡大は今後の検討課題となりそうです。

“基礎年金の充実”

公的年金の将来の給付水準の見通しを示す去年の「財政検証」では、「基礎年金」の将来の給付水準が、厚生年金に比べて、大きく低下するという結果が示されました。

国会審議では、与野党双方から、懸念や対策を講じるよう求める意見が出され、付帯決議には、今後も必要な検討を行うことが盛り込まれました。

「基礎年金」の給付水準の引き上げを図るため、60歳までとなっている国民年金の加入期間を65歳まで延長し、45年間とする案も検討されましたが、今回は見送られました。

「基礎年金」の財源は、半分を国庫負担=税金で賄うため、加入期間の延長は、税の引き上げとセットで議論すべきだという指摘も出ています。

“新型コロナの影響”

国会審議では、新型コロナウイルスの感染拡大が、年金制度に与える影響についても議論となりました。

今回の改正で、厚生年金の適用が拡大され、企業の保険料負担が増える業種は、旅館や外食チェーンなどです。これらの業種では、新型コロナウイルスの影響で経営が苦しくなっているところも少なくありません。

このため、要件を緩和するスケジュールを遅らせるよう求める意見も出ましたが、労働者の年金を確保する必要があるとして、当初の案のままとなりました。負担の増える企業側への目配りが必要となります。

去年の財政検証では、経済が順調に成長した場合、現役世代の平均収入の50%以上の給付水準は維持できるという試算が示されました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済や世界経済に大きな影響を与えていることから、試算の前提となる「経済成長率」の設定が変わったのではないかという指摘も出されました。

経済への影響は数年続くという見方もあります。現役世代の老後の安心を守るために年金財政をどのように維持していくのかが引き続き、大きな課題となります。