民進党 崖っぷちの代表選挙

「党の存亡をかけた、最後の代表選挙」とも指摘されている民進党の代表選挙。前原誠司元外務大臣と枝野幸男元官房長官の一騎打ちの構図となりました。
政治改革を志し、平成5年の衆議院選挙で当時の日本新党から立候補して初当選した2人は、24年間にわたって政治行動をともにしてきました。政権交代を実現させた民主党政権では、ともに「党の顔」として、政府や党の要職を歴任しながら、成功も失敗も経験してきました。
その2人が、支持率の低迷が続き、離党者も相次いでいる野党第1党をどのように立て直し、安倍政権と対じしていくための道筋を描こうとしているのか。それぞれの主張を徹底比較し、民進党の今後を探ってみます。(政治部 野党担当 「前原番」稲田清/「枝野番」山枡慧)

突然の辞任 選挙へ

「新たな執行部に率いてもらうのが最善の策だと判断した」
7月27日、蓮舫代表の突然の辞任表明でした。東京都議会議員選挙の惨敗を受けて、執行部の刷新を求める声が高まり、「政治の師」と仰いできた野田幹事長が辞任を表明。後任人事が暗礁に乗り上げた末の辞任劇でした。

党の再生が喫緊の課題となるなか、蓮舫代表の後任を決める代表選挙に向けて、先手を打ったのは枝野さんでした。蓮舫代表の辞任表明の翌日、枝野さんは、国会内で赤松広隆前衆議院副議長と会談。自身、初めてとなる代表選挙への立候補を伝えました。

一方、前原さんは、平成28年9月の代表選挙で蓮舫さんに大差で敗れてから、連合の神津里季生会長をはじめ、民進党を支援する労働組合の幹部との会談などを地道に重ねてきました。党内では、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に代わるものとも位置づけられた基本政策を検討する責任者を務めるなど、捲土重来を期してきました。

保守系の議員に支持される前原さんとリベラル系の議員に支持される枝野さん。今回の代表選挙は、「保守」対「リベラル」の構図になると見る向きもありましたが、選挙戦を通じた2人の訴えに注目すると、実際は、そう単純ではありません。

温度差1 共産党

「野党連携」、とりわけ共産党との協力のあり方は、政権選択の決戦となる次の衆議院選挙に向けて、民進党という政党の立ち位置を決めるだけに最大の争点となっています。

前原さんは「政治家、政党の命は、理念・政策だ。衆議院選挙は政権選択の選挙であり、理念・政策が合わないところと協力するということはおかしい」と主張。蓮舫執行部が平成29年6月に共産党、自由党、社民党と結んだ合意について、「重みはしっかりと受け止めながら、是非についても見直しをさせて欲しい」と述べ、今後、衆議院選挙での共産党との協力のあり方も含めて、見直す考えを示しました。

枝野さんは、平成28年の参議院選挙で、幹事長として野党の候補者を一本化し、一定の成果を挙げたと指摘。「党の主体性をもちながら、できることを最大限やる。政権選択の衆議院選挙は一層、困難が大きいが、地域で頑張っている仲間たちを1人でも多く当選させることによって、今の政治の暴走に少しでも歯止めをかけることも、私たちの大きな責任だ」と述べ、基本的に維持したい考えを示しました。

前原さんが、野党連携に消極的な姿勢を示している理由の1つに、党内の保守系の議員を中心に共産党との選挙協力に不満が募っていることが挙げられます。平成29年4月には長島昭久元防衛副大臣、7月には細野豪志元環境大臣と、保守系の議員が党を離れました。前原さんを支持する議員には「前原さんが代表になって、野党連携を見直せば、『離党ドミノ』に歯止めがかかる」という期待感もあります。

一方、野党連携を重視し、枝野さんを支持する議員からは「自民・公明の強力な選挙協力に対抗するには、野党が候補者を乱立して共倒れしないよう、一本化するのは当たり前だ」として、野党4党の党首による合意に基づいて、次の衆議院選挙でも協力を継続すべきだという声が聞かれます。

温度差2 小池新党

東京都の小池知事に近い衆議院議員が、新党の立ち上げを目指している動きに対しても、2人には考え方に違いがあります。
前原さんは、小池都政に一定の評価を示した上で、「国政を目指す場合の政策・理念がまだ明らかにされていないし、与党か野党かもわからない」としながらも、「政策・理念が一致する政党と協力をするスタンスだ」と述べ、連携に含みを残しました。

枝野さんは「安保法制にも賛成し、アベノミクスにも賛成し、共謀罪にも賛成してこられた方とわれわれとは立ち位置が違う。自民党の補完勢力の可能性が高いと見ざるをえない」と述べ、連携には消極的な考えを示しました。

温度差3 離党者

民進党を離れた国会議員への対応でも2人の違いが見えてきました。
前原さんは、考え方が近い細野元環境大臣が離党した際、「また協力できるのではと期待している」と述べていました。離党した議員に対し、選挙区で対立候補を擁立するかどうかについては、「政治状況や党内に対するガバナンス=統治などを含めて、総合的に勘案する」と述べるにとどめました。

枝野さんは、党を離れた議員に厳しく対応しなければ、党の結束やガバナンスにも関わるという姿勢です。「基本的には、対抗馬としてきちんと党の公認候補を立てるという、けじめをつけていかないと党はまとまらない。厳しい中、党を支えてくれているサポーターや地方議員に顔向けできる党運営をしないといけない」と述べています。

野党再編への布石?

共産党、いわゆる小池新党、離党者。3つのテーマをめぐる前原さんと枝野さんの温度差の背景には、次の衆議院選挙をにらんだ、野党再編に対する2人の考え方の違いが反映されていると感じます。

前原さんには、共産党との協力を見直したうえで、いわゆる小池新党や細野元環境大臣と長島元防衛副大臣など党を離れた保守系議員との連携も見据えて、「野党再編」の可能性もにらみながら、政府・与党と対じしていく戦略が見え隠れします。

枝野さんは、去年の参議院選挙で一定の成果を挙げたことを踏まえて、野党連携は進めていきながら、あくまでも軸になるのは、全国各地に地方組織を持っている野党第1党の民進党だとして、性急な野党再編には消極的な姿勢のようです。

ともに、当時の日本新党から政界入りして、「非自民連立政権」の樹立という政治のうねりを目の当たりにしながら、民主党では政権交代を実現させた2人ですが、これまでの政治経験から、「野党再編」に対する考え方は異なってきているようにも見えます。

                                                             平成6年5月

ポスト・アベノミクス

党の立ち位置に対する考え方に違いもある2人ですが、野党第1党として、どのように政権担当能力を示していこうとしているのでしょうか。安倍政権の経済政策「アベノミクス」に代わる政策をおし進めて、新たな日本の将来像を示していくとしています。

前原さんは「再分配政策の充実」を掲げ、国民の将来不安を取り除いていくと訴えています。「就学前の教育や保育を無償化すれば、その分の雇用が必要になる。高齢者の安心を担保することで、消費が活性化される。『トリクルダウン』ではなくて、『ボトムアップ』で経済を回す好循環を作り上げたい」としています。

枝野さんは、消費の冷え込みが経済全体の足を引っ張っており、その背景には、非正規雇用が増えて、格差が拡大していることを指摘しています。「介護職員や保育士、看護師などの賃金や可処分所得を押し上げて、そうした分野の雇用を増やしていくことこそが、アベノミクスに対抗する景気・経済対策だ」としています。

財源、消費税は?

政策を実行に移すためには、財源の裏付けが欠かせません。民主党政権では、「ムダを省けば、財源は捻出できる」としましたが、十分な財源は確保できなかったという苦い経験もあります。このうち消費税率の引き上げについて、主張は真っ向から対立しています。

前原さんは「『サービスの向上には財源がいる』と真剣に訴える姿勢が必要だ」と述べています。みずからには、民主党政権時代に「税と社会保障の一体改革」をまとめた責任があるとしたうえで、消費税率の引き上げ分が借金の穴埋めに偏り過ぎていたとして、国民の受益感が増すように使い道を改めて、経済の状況が大きく悪化しない限り、10%に引き上げるべきだとしています。

枝野さんは「足元の経済状況や税への国民の信頼を考えると、到底、できる現状にはない」と述べています。大企業の内部留保が増えている状況では、法人税率の引き上げも検討すべきだとしているほか、建設国債による景気対策よりも、介護職員や保育士の賃金の引き上げが景気対策として経済への波及効果が大きいと主張しており、財源として1兆円規模の赤字国債の発行にも言及しています。

原発政策

日本の将来像を示していく1つとして、安倍政権との対抗軸として挙げられるのが、「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」としている党の方針です。

前原さんは「民主党政権の時に東日本大震災が起き、原発をなくす天命や使命を帯びているという思いだ。2030年代の原発ゼロを目指して、あらゆる政策資源を投入し、着実に、かつ現実的に進めていきたい」として、踏襲していく考えです。

枝野さんは「官房長官として原発事故の対応に当たり、絶対に事故が起きないというのは幻想だと痛切に感じている。年内にも『原発ゼロ法案』をまとめ、国会への提出を目指す」として、さらに踏み込んで、時期の前倒しが可能だという考えを示しています。

迷走した普天間は?

民主党政権で大きく迷走した沖縄のアメリカ軍普天間基地の名護市辺野古への移設計画に対しては、どのように対応していく考えなのでしょうか。

前原さんは「辺野古については、沖縄の皆さんにご迷惑をお掛けしたという反省に立っていく。今のやり方に、『いかがなものか』と思うことはあるが、日米合意がベースにあるという認識は変わらない」と述べています。

枝野さんは「沖縄の皆さんを裏切った教訓があるので、軽々に申し上げられないが、当時の経緯を検証して結論の方向性について、もう1度、移設先が辺野古しかないのか、研究を始める責任がある」と述べています。

憲法改正をめぐっては

憲法改正をめぐり安倍総理大臣は、2020年の施行を目指し、具体的な改正項目として、憲法9条の1項と2項を維持したうえで、自衛隊の存在を明記することを挙げています。

かつて自衛隊の明記に言及した前原さんと、党の憲法調査会の会長を務める枝野さんは、ともに集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は憲法違反であり、その前提で自衛隊の存在を明記することには反対する姿勢を示しています。

前原さんは「『安倍政権のもとでの憲法改正は反対』というのは、国民の理解を得られない。野党第1党として政権を目指す政党として、しっかりと国のもといである憲法の議論は行う」と述べています。

枝野さんは「総理大臣の衆議院の解散権」は議論していくとしながらも、「民主主義を強化し、国民の人権保障を高めるために変えた方がよいのであれば、議論は積極的に進めるべきだが、今のところ、そうしたものがあるという結論はない」と述べています。

安倍政権とどう対じするのか?

一見、主張が異なるような前原さんと枝野さんですが、実は、同じ目的を目指していたり、政策を進めていくスピード感が違うだけだったりすることも少なくなく、前原さんも「枝野さんとの違いを見つけるのは難しい」と漏らしています。

平成5年に初当選し、日本新党、新党さきがけ、民主党、民進党と政界での歩みをともにしてきた2人としては、当然のことなのかも知れません。

そして、平成5年の初当選同期には安倍総理大臣がいます。各種の世論調査で内閣支持率が下落しているにもかかわらず、党勢が回復しない民進党をどのように率いて安倍政権と対じしていくのか。

前原さんは「ALL for ALL」の理念を掲げて、「自己責任社会」と決別し、あらゆる生活者の不安を解消するとしています。「野党第1党として、単なる批判ではなく、政権の選択肢を示すことで、比較第1党である無党派層にアピールすることが大事だ。企業や経済の成長を優先するのではなく、再分配を重視する『ボトムアップ』の政策、生活や命を保障する政策を訴えて、無党派層を取り込んでいくことに力を尽くす」と述べています。

枝野さんは「多様性を認め合い、困ったときに寄り添い、お互いさまに支え合う」 そんな日本を目指していくとしています。「政治が私物化され、立憲主義や法の支配は守られず、強引な国会運営が行われる中、民進党として目指す社会像をはじめ、違いを明確に示していく。風頼みの存在では、ポピュリズムに走ることになるので、幅広い国民の暮らしに寄り添い、地域の基盤を充実させて、挙党態勢を作り上げていく」と述べています。

8月に行ったNHKの世論調査では、代表が代わることになった民進党について、「期待しない」と答えた人が7割にのぼっています。

今回の代表選挙について、前原さんと枝野さんはともに、「崖っぷちの代表選挙」と受け止めていますが、野党第1党には、政府・与党の政権運営に対し、ただすべきものはただし、目指す日本の将来像とその処方箋を掲げて、国民の理解と支持を得ていく責務があります。

そのためにも、党の存在意義を改めて示して、党勢の回復につなげ、政権と対じしていく形を作り出すことができるのか、岐路に立った民進党を率いる新たな代表は、9月1日の臨時党大会で選出されることになります。

政治部記者
稲田 清
平成16年入局。鹿児島・福島局も経験。野党クラブで国民民主党や共産党を担当。趣味はダイビングと船釣り。
政治部記者
山枡 慧
平成21年入局。青森局を経て政治部に。現在、野党担当。趣味はフットサル。