代未聞!? 市長の働き方改革

行事への出席や有権者回り、さらには…
政治家の土日はとても忙しい。
そんな中、“土日は休みます!”と宣言した市長がいる。そんなこと、ホントにできるのか。
(郡山支局記者 桜田拓弥)

土日は休みたい!?

「4月から土日の行事はちょっと控えさせていただこうかと…ゆっくり充電の時間に充てたい」

“働き方改革の一環として翌4月から土日の来賓行事への出席を原則取りやめる”

ことし3月末、新年度を前に行われた定例の記者会見で福島県郡山市の品川萬里市長の発したことばに、聞いていた記者たちは一種の衝撃を受けた。

選挙で選ばれる市長。来賓行事といえば、有権者と直接意見を交わしたり、顔を見せたりする場として、みずからへの支持を固める意味でも政治家にとっては重要なイベントの1つ。

そこに出ないなんて…。現在2期目の品川市長はことし74歳。まるまる1日休める日はほとんどないと聞いてはいたが、体力的にも大変なのだろうか…。決断の裏にある市長の思いやねらいをもっと知りたいと、取材を始めることにした。

忙しすぎる市長の土日

「来賓行事の取りやめは去年の秋ごろから考えていた」と語る品川市長。土日は本当に忙しいようだ。

郡山市に取材したところ昨年度1年間、市長が土日や祝日に出席した行事の数は341回。

このうち、市が主催する行事は62回。こちらは4月以降も変わらず出席を続けている。これに対し、来賓行事は279回で市主催行事の4倍以上だ。

福島県の中心部に位置し、東北新幹線の駅がある郡山市。利便性のよさから、さまざまな団体がイベントを行うため、来賓として呼ばれることが多いのだそうだ。

お呼ばれする場合は、基本的には、担当の秘書職員や公用車のドライバーも一緒に動いてきたため、職員もなかなか休めない。

「働き方改革」の流れの中、市長は、みずからができることを検討した結果、職員の負担が減る今回の決断に至ったのだという。

密着してみた!

私は、品川市長に頼み、1日密着取材のOKをもらった。

取材日の5月のある土曜日。自宅のインターホンを鳴らすとスーツ姿であらわれた市長。周りには公用車も秘書の姿も無かった。

「きょうは公務が1件だけだから、JRで会場まで行く」とのこと。この日は、取りやめられない、市長としての仕事があるので出勤。でも1人で出席し、職員は休ませるというパターンの1日だった。

早速、市長に「1人で大丈夫ですか」と、やや失礼な質問をぶつけてみると…

「秘書やドライバーには週休2日を楽しんでもらおうかと。NHKには『鶴瓶の家族に乾杯』ってあるけど、僕が考えているのは、土日は『家族で乾杯』。こうした過ごし方をしてもらいたいね」

むむ、NHKの番組にかけてくるとは…。来賓行事に出なくなった4月以降、ひとりで移動する機会も多くなっているそうだ。

市長の自宅から最寄りのJRの駅までは約2km。坂も多い道をヒーヒー言いながら歩く私を横目に、足取り軽やかにスタスタと歩く市長。その姿から、体力的な理由で来賓の出席を取りやめたわけではない、とうかがい知ることができた。

これまで出席してきた来賓行事はどうしたのかと尋ねると、市長の代理で幹部が出席することもなく、必要があれば祝辞を送って対応しているとのことだった。

休みは1年間で数えるほど

ことしは、10連休となった大型連休。市長自身も7日休みを取った。実は、昨年度1年間、完全オフの休みは両手で数えるほどしかなかったそうだ。

市長は、もともと旧郵政省の官僚。当時から、激務の日々で、仕事ばかりの生活に慣れてしまい、休みの日があってもどう過ごすか、なかなかいい案が思い浮かばないという。

ことしの連休も「自宅待機です」と言うので、「市内の温泉でゆっくりされたらどうですか?」と提案してみたら、いいアイデアだね~全然思いつかなかったよ!と。

昨年度1年間に匹敵する数の休みを新年度1か月余りで確保するという大きな変化。その効果か、東京から小学校入学前のお孫さんが遊びに来てくれる回数も増えたとか。

「働き方改革の旗振り役ですね」と尋ねると「市長がやっているから右に習えではなくて、市長の行動をどう活用するのか。市の幹部や職員が自分たちで考え、自分で日頃の時間設計をしてほしい」とのことだった。

職員の土日の勤務時間が半減!

市長が来賓行事の出席を取りやめてから1か月余り。随行する職員の働き方には、どのくらいの効果が出たのか。

「これが去年とことしの土日の職員の総労働時間の比較です」
秘書課長の佐藤直浩さんが見せてくれた1枚の紙。

そこに記されていたのは「199時間半」と「97時間」という数字。市長に随行する職員とドライバー合わせて7人の土日の総労働時間は、去年の同じ時期と比べて半減していた。

「私たちが社会に出たバブルの頃は『24時間戦えますか』というCMが流行した時期でした。でも今は、若い人が少なくなってくる中ですから、持続的な社会を築くため、労働環境をよくすることは非常に大事だと思っている」(佐藤直浩課長)

市長の随行担当のひとり、力丸悟さん(34)。幼稚園児から中学生まで3人の子の父親でもある。4月以降、土日に家族の反応に変化はあったのか聞いてみると…
「近くの公園で遊ぶ時間も増えて子どもたちは喜んでくれていると思う。市長秘書の仕事もやりがいはありますが、家族も大事です」

「奥様と市長、どちらが大切ですか」と失礼な質問をさせていただいたところ、
「それは恥ずかしいので勘弁してください…!」
顔を真っ赤にしててれる姿、家族に見ていただきたかったです。

1日密着してみて…

さて、土曜日の市長密着に戻ろう。
この日は昼の公務終了後、会場近くの市のフットサル場や観光物産館に寄って市民と会話を楽しみ、政治家としての活動も行っていた。

市民との会話に熱中するあまり、予定していた帰りの電車に乗り遅れてしまった市長。次の電車まで1時間以上駅で待ちぼうけ…というオチまでついた。

土日の催し物や式典の取材をしていると、来賓のあいさつが続き、いつになったら終わるの?と思うことが、正直よくある。会場に目を向けてみると、全然話を聞いていない人や目を閉じてうつらうつらしている人の多いこと…。

品川市長の提案した働き方であれば、随行する職員やドライバーの休みも確保でき、市長も時間に縛られず自由に動き回ることができるので、新たな過ごし方として参考になるのではないかと感じた。

最終形、半年後に結論

今回、私は福島県内のほかの12市長にもアンケートをお願いし、郡山市と同様、来賓行事の欠席を検討しているか尋ねたが、いずれの市長も「検討はしていない」との回答だった。

「市民と直接対話できる重要な機会だから」との意見が多数を占めた。

取材した品川市長は、最近、至るところで「ワークライフバランスならぬ、ワークオブライフ」ということばを使っている。

みずからの生活のためにどう働くか。仕事のために休日にリフレッシュするのではなく、休みを楽しむために、どう仕事するか、発想の転換が必要だとの意味だそうだ。

この働き方改革は、「試行期間」として秋ごろまで半年程度続け、その後も維持するかどうか最終的に判断するという。

報道後の反響は

前代未聞!?の市長の働き方改革、実はWEB記事の前に、福島県域のニュース番組で最初に伝えた。
放送後、「選挙で選ばれたのだから土日も休まず働くべき」などと否定的な声がある一方、市長のもとには知人や友人から「お前がやっていることは正しい、頑張れ」と応援する声が寄せられたという。

今回、政治マガジンに掲載する前にも、「大学生とつくる就活応援ニュースゼミ」で紹介したいと伝えると、「私は捨て石みたいなものだけど、これをきっかけに多くの人が考えるきっかけになるとうれしい。特にこれから社会に出ようと考えている若い世代が興味を持ってくれるならありがたいことだね」と話していた。

私は、初めて会う市の職員から「市長に密着していた桜田さん」と呼ばれるようになったり、別の自治体の議員から取材実感を問われたりすることが多くなった。それだけ「市長の働き方改革」は注目されたのだと感じている。

異例の取り組みがどう帰着するのか、半年後に注目したい。

郡山支局記者
桜田 拓弥
2012年入局。佐賀、福島局を経て18年11月から郡山支局。趣味はカメラと城めぐり。日本100名城制覇まであと54城。