散! その時、野党どう出る

「あるの?」「ないの?」
いま永田町で、国会議員や秘書たちがささやき合う「衆参同日選挙」。

「同日選」に持ち込むため、衆議院の解散に踏み切るのかどうかは、総理大臣の専権事項だ。
その女房役の菅官房長官が、安倍内閣への不信任決議案が提出された場合、解散の大義になり得るという認識を示したこともあって、「野党による決議案の提出が、解散の引き金になる」といった見方も出ている。

夏の参議院選挙の「1人区」では、おおむね候補者を一本化した、立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党、そして衆議院の会派「社会保障を立て直す国民会議」の野党5党派は、どのような戦略を描いているのか。
(政治部・野党クラブ 山枡慧、鈴木壮一郎)

「打倒への一歩」

夏の参院選で、選挙戦全体の勝敗のカギを握るとされるのは定員1人の「1人区」だ。
5月29日、野党5党派の党首らによる会談。全国32の「1人区」のうち、30の選挙区で候補者が一本化された。

「安倍政権打倒の参議院選挙にしていくために、大事な一歩を踏み出した」

立憲民主党の枝野代表は、こう成果を強調した。

これに対し、与党は早速、「選挙対策だ」などと批判。
自民党の岸田政務調査会長は、「政策や理念に大きな違いがある政党が、候補者を一本化するのは、選挙対策と受け取られるのではないか」と。

そして公明党の石田政務調査会長、「基本政策が一致していなければおかしく、特に安全保障政策で本当に一致しているのか問われなければならない。木に竹を接ぐようなことはできない」と述べた。

野党5党派は、野党側の候補者が乱立し、与党を利することがないよう、「野党連携」を進めているが、そこに込められた思惑は、必ずしも一致しているとは言えない。

立憲民主党 “独自”と“連携”のバランスの中で…

「『野党共闘』に一番、積極的なのは、枝野幸男だ。32の選挙区のほぼすべての1人区で一本化し、与党との一騎打ち構造を作るため、先導したのは、私だ」

野党第1党の立憲民主党の枝野代表は5月下旬、地元のさいたま市で開かれた集会で、出席者から「『野党共闘』に消極的なのではないか」と指摘されると、声を荒げながら、こう反論した。

おととしの衆議院選挙で、当時の希望の党とは一線を画して、立憲民主党を結成し、野党第1党の党首になった枝野氏は「野党連携」と「独自性」のバランスに腐心してきた。

「政党としての理念、政策、党の体質を最重視し、『離合集散には、くみしない』と掲げて党を作ったので、これを否定してしまうと、党を自己否定することになる」

「野党の勢力を最大化させるためには、5党派で一致できる点を最大化させることが重要だ。『参議院選挙の1人区の一本化』『衆議院選挙の小選挙区における候補者の一本化』を、どこまで出来るかについて、大きな成果をもたらすための努力を進めていくことが現実的だし、効果的だ」

首相との「神経戦」

夏に「衆参同日選挙」が行われる場合、衆議院選挙は、政権選択の選挙となる。
ことし2月、枝野氏は、みずからの政権構想を問われ、初めて「連立政権」に言及した。
「『単独政権が望ましい』と目指しているが、小選挙区制度になって、1度たりとも、単独政権はない。単独政権は目指すが、『連立を組める方がいる』と期待しているので、将来的には視野に入れていきたい」

さらに、次のように踏み込んだ。
「『小選挙区制度は2大政党になる』というのは間違いだ。自民・公明両党は、理念・政策が違うはずなのに、ずっと連立政権をやっている。野党第1党の党首として、私には、連立政権を作る場合の責任があるので、解散をしたら、私が旗を掲げるつもりだ」

内閣不信任決議案の提出は「白紙だ」と明言し、「衆議院選挙の小選挙区は、見えない形で調整する」などと周囲に語っているという枝野氏の姿からは、解散をめぐって、安倍総理大臣との「神経戦」が繰り広げられているかのようにも見える。

5月末の記者会見で、衆議院選挙への対応をめぐり、「『野党勢力の最大化』は、立憲民主党の勢力最大化の妨げにならないか」と質問が出ると次のように答えた。
「野党全体の最大化と立憲民主党の最大化が衝突する場合には、野党第1党の責任として、野党全体の最大化を優先してきているつもりだし、これからもそうするつもりだ」

「衆参同日選挙」の憶測が出ている中、枝野氏は、どのような旗を掲げるのだろうか。

国民民主党「まずは塊に」

野党第2党、国民民主党の玉木代表。与党に対峙(たいじ)するため、まずは「野党の大きな塊を作るべきだ」と主張する。

ことし4月に小沢一郎氏が率いていた自由党と合併し、さらにほかの政党とも連携を強めたいという姿勢は、「他党との合併は自己否定」と言い切る枝野氏とは、異なって見える。

「一番の問題は、国民が『諦めている』ということだ。野党が分かれているので、どの党に投票しても、結局、政権交代も起きないし、大きな変化を生むことができないということが、投票所に足を運ぶことの動機づけを失わせている」

政策の違いを乗り越えるには

玉木氏は、立憲民主党などを念頭に、「もともと同じ政党でやっていた仲間だから、究極は、1つの政党になるというのが、一番、シンプルな形だ」と言い切る。

一方、野党連携を進めている野党5党派の枠組みには、共産党もいて、国民民主党の中には、安全保障や消費税のあり方などで、相いれないとする議員もいる。
「野党第1党が示す政権構想の中で、『この政策を、この範囲の政党でやる』となったら、その範囲の人は、お互いに推薦すればいい」

野党第1党の立憲民主党の代表である枝野氏が描く連立政権の構想が、野党側の連携のあり方を決めるというのだ。

「端的に言うと、国会での『総理大臣指名選挙』で、枝野氏を指名するという前提で、選挙を戦うかどうかだ。誰を総理大臣に担いで、選挙をして、『次の政権はこうだ』という構想は、野党第1党から呼びかけがあるものだと思っている。そういうことが明確に決まるなら、『枝野首班(総理大臣)』で、野党がまとまっていこうというのは、ありえる」

「野党ダメなら自民と」の提案には…

こうした中、6月2日に地元の高松市で開かれた後援会の会合では、支援者から、次のような提案がなされた。「安倍政権を倒すため、野党共闘で固まって頑張ろうというのは、もう無理。自民党で干されている人を手に入れるんです。例えば、石破さん。いかがですか?」

これに対し、玉木氏はこう答えた。
「自民党を割るような大きな政界再編を仕掛ける意味でも、野党がもっと強くならないとだめだ。『こっちに来たら政権がとれる』と思ったら、『そういう動きをしてもいいかな』と思うかもしれないが、足しても、全体の3分の1もいないという野党の状況では、その段階にも、なかなかいかない」

「私もいろんな思いがあるが、なんとか野党がまとまって、選挙に勝って、もう少しバランスを拮抗するところにもっていかないと現実的ではない。いまは、忍の一字で、頑張るしかない」

共産党 目指すは「野党連合政権」

7月に結党から97年を迎える共産党が掲げるのは、「野党連合政権」だ。

共産党の志位委員長は、安全保障関連法の廃止など、まずは、野党側の共通した政策を実現するための政権だと説明する。

「一定程度の暫定的な政権だ。いくつかの課題をしっかりやり、仕事を終えたら、衆議院選挙を行って、信を問うて、本格的な政権を作っていく。いまの政権を退場に追い込んで、野党側が政権を握って改革をやることは、巨大な意義を持っている」

「私たちは、政権の一員になって、責任をもって、役割を果たしたい。ただ、われわれが政権と言っているのは、『閣外協力』も含んでいる。『政権問題での合意がなければ、選挙協力をやらない』という立場に立つものではない」

「一方的に下りてくれ」は無理

共産党は、「本気の共闘」を呼びかけ、これまで各党が相互に推薦し合うことが望ましいとしてきたが、志位氏は「相互推薦は条件ではない」と明言する。

「絶対条件として設定したのは、『一方的に共産党は下りてくれというのは無理だ』ということだ。『相互支援・相互推薦が一本化の条件だ』と私は一度も言っていない」

それでも「野党共闘路線」を貫く理由、志位氏の答えは明確だ。
「安倍政権が戦後最悪の政権だからだ。安保法制は、立憲主義という、この国のあり方の根幹をぶっ壊した。政府が憲法解釈を平気で変えてしまうのは、一種の非常事態だ」

「政治的な立場に違いがあっても、その点で力を合わせて、野党は結束し、今の政治を変えないといけない。いったん始めた道だから、とことん、やる」

社民党 「すみわけ」を追求

5月下旬、社民党の全国の幹部を集めた会議で、ある文書が了承された。

「衆議院総選挙闘争の準備について」と題された文書には、「早期の解散・総選挙があり得る」という前提で、「安倍政権打倒を掲げ、立憲民主党・国民民主党・共産党など、野党間の選挙協力を進め、『すみわけ』を追求する」と記されている。

社民党が目指す「すみわけ」とは何か。
党の選挙対策委員長を兼務する吉川幹事長に聞いた。

「出来るかぎり、お互いの利益につながる協力を追求すべきだ。衆議院選挙は、政権選択であると同時に、政党が前面に出た戦いだから、『無所属の野党統一候補』というよりは、『すみわけ』が基本になってくる」

吉川氏が描くイメージは、衆議院選挙の小選挙区で野党側の候補者を1人に絞った上で、候補者は、所属する政党から公認を得て、立候補するという形だ。
「政策協定などがうまく進めば、『お互いに推薦しよう』というのは、あり得るが、一方で、『それがないと野党共闘になっていない』ということにはならない」

一致する政策があいまいな中での「すみわけ」には、「選挙対策だ」といった批判もある中、「野党は同床異夢なのではないか」と問うと、吉川氏は、きっぱり否定した。
「同床異夢というのは、基本的な考え方が違うが一緒にいることで、憲法9条をめぐって自公政権がまさに同床異夢だ」

「少なくとも野党は、『憲法9条を変えて、戦争できる国にしましょう』と考えている政党はない。立憲主義を否定するような安倍政権を倒すということで、一致している」

社保 「野党第1党が決断を」

「痛恨の極みは、自分の解散を通じて、それ以降、『1強』を作ってしまった。それを克服するのは私の役割だし、それを果たさなければ、死んでも死にきれない」

衆議院の会派「社会保障を立て直す国民会議」の代表を務める野田・前総理大臣は、7年前の11月、自民党の安倍総裁らとの「党首討論」で、衆議院の定数削減を確約すれば、衆議院を解散する考えを表明。そして政権は交代した。

会派の幹事長を務める玄葉・元外務大臣は、みずからの会派を、旧民進党勢力の再結集に向けた「触媒」と位置づけている。

「野党の第1党と第2党の責任ある立場の人が、どうすれば『議席の最大化が可能なのか』『これまでの歩みを振り返って、国民から受け入れられるものになるのか』について、しっかりと話し合って、行動に移すべきだ。『単に元に戻っただけではないか』という指摘があるかもしれないが、結集の仕方などで、さまざまな工夫をすればよい」

玄葉氏は、共産党を含めた候補者調整に理解を示しながらも、政権構想を共有できる政党のみで、一定数の候補者を擁立すべきだという考えを示した。

「立憲民主党と国民民主党、無所属の議員を中心としながら、衆議院選挙の小選挙区の過半数で、候補者をきちんと埋めることがまず必要で、その上で政権構想を示すということだ。立憲民主党も国民民主党も、候補者が望むならば、相互推薦もやっていくべきだ」

「野党第1党を中心に野党の再編は、せざるを得ないと思うから、立憲民主党の党首のリーダーシップに期待している。腹を割って、虚心たん懐に考え、判断し、決断する局面が近づいているのではないか」

「解散風」は追い風か、向かい風か

第2次安倍政権が発足したのは、7年前の平成24年。
この間、かつて政権を担った民主党は、民進党を経て、おととしの衆議院選挙の直前には、希望の党と立憲民主党に分裂。立憲民主党の支持率は上向いていない。
当時の希望の党は、国民民主党となり、自由党との合併後も、支持率は低迷。
共産党は、前回の衆議院選挙で議席を減らし、党員の数も減少している。
社民党は、夏の参議院選挙を「党の存亡がかかった選挙」と位置づける。
「社会保障を立て直す国民会議」が目指す立憲民主党と国民民主党の連携は、依然として、見通しが立っていない。

もちろん野党5党派が、安倍政権に対する批判の受け皿となる芽は、ゼロではない。おととしの衆議院選挙の小選挙区で、立憲民主党、当時の希望の党、共産党、社民党、民進党出身者など野党系無所属の候補者一本化が実現できたと仮定し、その得票を単純に足し合わせると、与党の候補者が当選した選挙区で勝敗が逆転するところもかなり出ることになる。

永田町に吹く「解散風」は追い風なのか、向かい風なのか。

前回の衆議院選挙直前のような、「野党政局」が繰り広げられるのか。

自民党の「1強多弱」とも言われる政治情勢の中、12年に1度の「い年選挙」の年の最大の政治決戦にどのような形で臨むのか。

残された時間はわずかだ。

政治部記者
山枡 慧
平成21年入局。青森局を経て政治部に。野党で立憲民主党を担当。趣味はフットサル。
政治部記者
鈴木 壮一郎
平成20年入局。津局、神戸局を経て政治部。野党で国民民主党などを担当。最近、こけの栽培と鑑賞を始めた。