【QAで詳しく】国連総会で岸田首相が演説 何を訴えたのか

ニューヨークを訪れている岸田総理大臣は、国連総会で一般討論演説に臨んだ。ロシアによるウクライナ侵攻など、世界は複合的な課題に直面しているとして、国際協調の重要性を訴えるとともに、国連改革への行動を呼びかけた。政治部記者が解説する。
(相澤祐子)

【Q】岸田総理大臣が演説に込めたメッセージは

【A】「分断・対立ではなく協調」だ。これはG7広島サミットで打ち出した言葉だ。

「岸田総理には、国際社会の溝がこれ以上深まれば、戦後築き上げてきた国際秩序が崩れかねないという強い危機感がある」(政府関係者)

今回の国連総会でもG7議長国として議論をリードし、国際協調の実現に向けて各国に歩み寄りを促していきたい考えだ。

【Q】具体的には何を訴えたか

【A】岸田総理大臣は、長期化したロシアによるウクライナ侵攻にも触れた上で次のように述べた。

国連総会で演説を行う岸田首相

「世界は気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面している。国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できない」

また「人間の尊厳」が守られる平和で安定した世界が求められていると指摘し、実現に向けて、国の体制や価値観の違いを乗り越え、分断や対立ではなく、国際社会が協調して一連の課題に対応していく重要性を訴えた。   

そして協調すべき分野として、みずからがライフワークに掲げる核軍縮を挙げ、日本としては▼NPT=核拡散防止条約体制の維持・強化を図り、現実的な取り組みを進めるとしたほか、▼新たに30億円を拠出し、海外の研究機関に核軍縮を議論する場を設ける意向を明らかにした。

さらに▼食料危機や▼デジタル化、それに▼気候変動への対応のほか、▼感染症に備えた医薬品の確保といった分野で、途上国などの支援をいっそう強化していく考えを示した。

【Q】そのほかのポイントは

【A】岸田総理大臣は、法の支配の重要性にも改めて触れ、次のように訴えた。

国連総会で演説を行う岸田首相

「今も国連の安全保障理事会の常任理事国ロシアが『法の支配』をじゅうりんしている。国連憲章違反、人権侵害の状況を一刻も早く是正し、核の威嚇を止めるべきだ」

またロシアなどが国連安保理で拒否権の行使を繰り返し、事態のこう着を招いていることも念頭に「国連の分断・対立を悪化させる拒否権の行使抑制の取り組みは、安保理強化、信頼回復につながる」と述べた。

そして、安保理の理事国の拡大を含めた国連改革への行動を呼びかけた。

「世界は大きく変わっている。現在の世界を反映した安保理が必要で、常任・非常任理事国双方の拡大が必要だ。具体的な行動に移る機会が今だ」

一方、岸田総理大臣は、北朝鮮による拉致問題の解決に向けて、キム・ジョンウン総書記との首脳会談を実現するため、引き続き、自身直轄のハイレベル協議を働きかけていく考えを重ねて示した。 

【Q】国際協調の実現へ今後どう取り組むのか

【A】岸田総理は、国連総会にあわせて、ウクライナ情勢や気候変動など、世界が直面する課題に関する会合に出席し、繰り返し呼びかける方針だ。また、ウクライナのゼレンスキー大統領と立ち話を含め個別の対話を行い、今後も力強く支援していくことを伝えることにしている。

一方で、国際社会の分断や対立は鮮明になり、山積する地球規模の課題は依然、解決への糸口が見いだせないままだ。日本のG7議長国としての任期は残り3か月余り。言葉だけでなく、国際協調の実現へ具体的な成果が問われることになる。

政治部記者
相澤 祐子
2002年入局。長野局、政治部、国際放送局などを経て、政治部官邸クラブ。